
北海道の企業がリーダーシップ開発を「研修頼み」にしない方法——現場で育てるリーダーの条件
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北海道の企業がリーダーシップ開発を「研修頼み」にしない方法——現場で育てるリーダーの条件
「リーダーシップ研修を受けさせたんですけど、現場に戻ったら元通りでした。あの研修費、無駄だったんですかね」
札幌の物流会社の経営者が、溜息混じりにこう話しました。外部のリーダーシップ研修に管理職を送り出す。研修直後は「いい学びになりました」と報告がある。しかし、1か月もすれば、研修前と何も変わっていない。こうした「研修効果の消失」は、北海道の企業に限らず、多くの組織で繰り返されている問題です。
私はこれまで500社以上の企業の人事を支援してきましたが、リーダーシップは「研修を受ければ身につく」ものではありません。研修は「きっかけ」にはなりますが、リーダーシップが真に鍛えられるのは、現場での実践の中です。研修に頼りきるのではなく、日常の業務の中でリーダーシップを育てる仕組みを作ること——これが、北海道の企業に必要なアプローチです。
リーダーシップ開発が「研修頼み」になりがちな理由
理由1:「リーダーシップは教えるもの」という思い込み
リーダーシップを「知識」として捉え、研修で教えれば身につくと考える。しかし、リーダーシップは知識ではなくスキルであり、実践の中で磨かれるものです。自転車の乗り方を講義だけで学べないのと同じです。
理由2:社内で育成する方法がわからない
「外部の研修に出すのが一番効率的」と思い、社内でのリーダーシップ開発の方法を検討しない。外部研修は汎用的な内容であり、自社の文化や課題に直結した学びになりにくい面があります。
理由3:経営者自身が「リーダーシップとは何か」を定義していない
「うちの会社で求めるリーダーシップとは何か」が言語化されていない。結果として、外部研修の「一般的なリーダーシップ論」が自社に合わない、という事態が起きます。
「うちの会社のリーダーシップ」を定義する
リーダーシップ開発の第一歩は、自社にとってのリーダーシップを定義することです。
リーダーシップの定義は企業によって異なります。「カリスマ的にチームを引っ張る」ことが求められる会社もあれば、「メンバーの力を引き出すサーバントリーダーシップ」が求められる会社もある。
北海道の中小企業で実際に機能しているリーダーシップ像を、いくつかの要素で整理します。
- 方向を示す:「自分たちはどこに向かっているのか」をチームに伝えられる
- 判断する:曖昧な状況でも、情報を集め、判断を下し、責任を取れる
- 人を育てる:メンバーの強みを見つけ、成長を支援し、仕事を任せられる
- 対話する:メンバーの声に耳を傾け、困っていることに気づき、支援できる
- 率先する:自らが手を動かし、姿勢を見せることで、チームを動かせる
これらのどの要素を重視するかは、業種、規模、組織の状況によって変わります。自社のリーダーに何を求めるかを、経営者が言葉にすることが出発点です。
旭川の建設会社では、経営者と管理職が半日のワークショップで「うちの会社のリーダー像」を議論し、5つの行動指針にまとめました。この「自社のリーダー像」が、リーダーシップ開発のすべての施策の基準になっています。
現場でリーダーシップを育てる「5つの仕組み」
仕組み1:小さな「リーダー体験」を意図的に設計する
リーダーシップは、リーダーの「役職」についてから学ぶのでは遅すぎます。役職につく前から、小さなリーダー体験を積ませることが重要です。
- プロジェクトリーダーの経験:業務改善プロジェクト、社内イベントの企画、新製品の検討会議——小規模なプロジェクトのリーダーを任せる
- 会議のファシリテーション:チームミーティングの進行を持ち回りで担当する
- 新人のメンター役:後輩の指導を通じて、「人に教える」「人の成長を支援する」経験を積む
- 他部署との折衝:部署間の調整業務を任せ、異なる立場の人と合意を形成する経験を積む
帯広の食品メーカーでは、入社5年目以降の社員に対して、年に1回は何らかの「リーダー体験」の機会を提供するルールを設けています。「小さくても、チームを率いた経験が、マネージャーになったときに生きている」と人事部長は話しています。
仕組み2:1on1を「リーダーシップ開発の場」として活用する
上司と部下の1on1ミーティングは、リーダーシップを育てる最も効果的な場の一つです。
リーダー候補との1on1では、以下の問いを投げかけます。
- 「今週、チームのために何をしましたか?」
- 「メンバーの中で、困っていそうな人はいましたか?どう対応しましたか?」
- 「もしあなたがこのチームのリーダーだったら、今の状況をどう変えますか?」
- 「判断に迷った場面はありましたか?どう判断しましたか?」
こうした問いを通じて、「リーダーとしての視座」を日常的に鍛えていきます。
仕組み3:「振り返り」の文化を根づかせる
リーダーシップの成長には、「経験→振り返り→学び→次の実践」というサイクルが不可欠です。経験だけでは成長しません。経験から何を学んだかを振り返ることで、初めて成長につながります。
- プロジェクト終了後の振り返り会:「何がうまくいったか」「何がうまくいかなかったか」「次はどうするか」をチームで議論する
- 失敗からの学びの共有:「失敗した」ことを責めるのではなく、「何を学んだか」を共有する文化を作る
- リーダー候補同士の相互フィードバック:同じ階層のリーダー候補が、お互いのリーダーシップについてフィードバックし合う
仕組み4:外部研修を「きっかけ」として位置づけ、社内実践と連動させる
外部研修自体が無意味なわけではありません。ただし、「研修を受けて終わり」にしないことが重要です。
効果的な外部研修の活用法:
- 研修前に「この研修で何を学びたいか」を明確にする
- 研修後に「何を学んだか」を社内で発表する
- 学んだことを「30日以内に一つ実践する」というルールを設ける
- 実践の結果を1か月後の1on1で振り返る
この「研修→発表→実践→振り返り」のサイクルを回すことで、研修の効果は何倍にもなります。
函館のIT企業では、外部研修を受けた管理職に「30日チャレンジ」を課しています。研修で学んだことの中から一つを選び、30日間実践する。その結果を社内の管理職会議で共有する。「研修で聞いた話が、実際にやってみたら全然違った。やってみて初めてわかることがある」——この気づきが、リーダーシップの実質的な成長につながっています。
仕組み5:経営者自身が「リーダーシップの手本」を見せる
中小企業において、経営者の言動はリーダーシップの最大の教材です。
経営者が判断に迷った時にどう決断するか。困難な状況でどう振る舞うか。社員に対してどう接するか。失敗をどう受け止めるか——経営者の姿を見て、社員はリーダーシップを学んでいます。
「私も完璧ではない。でも、こう考えて判断した」——経営者がこうした率直な姿勢を見せることが、社員にとって最も強い学びになります。
北海道の企業ならではのリーダーシップ開発の工夫
工夫1:地域の経営者ネットワークの活用
北海道の地方都市には、経営者同士のネットワークが存在します。このネットワークに、リーダー候補を同行させることで、自社以外のリーダーシップに触れる機会を作れます。
工夫2:異業種交流型のリーダーシップ研修
同じ地域の異業種の企業と合同で、リーダーシップ研修を実施する。自社内では得られない視点や刺激が得られ、コストも分担できます。
釧路では、水産加工、建設、IT、サービス業の4社が合同で、半年間のリーダーシップ開発プログラムを実施しています。各社のリーダー候補が集まり、月1回のワークショップで経営課題のケーススタディに取り組む。「他業種の人の考え方に触れて、視野が広がった」という参加者の声が多く、各社のリーダー育成に好影響を与えています。
事例:現場でリーダーを育てた北海道の企業
事例:札幌のサービス業(従業員70名)
この企業は、管理職6名のうち4名が「プレイングマネージャー」状態で、マネジメントに時間を割けていませんでした。外部研修に3年間送り続けましたが、現場での変化は限定的でした。
取り組み
- 経営者と管理職で「うちのリーダー像」を言語化するワークショップを実施
- 中堅社員8名を「次世代リーダー候補」に選出
- 各候補に、半年間の「小さなプロジェクト」のリーダーを任命
- 月1回の「リーダー候補の集まり」で、経験の共有と相互フィードバック
- 上司との月2回の1on1で、リーダーシップの視点から対話
- 外部研修は年1回に限定し、「30日チャレンジ」と連動
結果(2年後)
- 8名のリーダー候補のうち5名が、マネージャーまたはチームリーダーに昇進
- 管理職の「マネジメントに十分な時間を使えている」割合:25%から60%に向上
- 社員満足度の「上司のリーダーシップ」スコア:3.0から3.8に向上
- 外部研修費用が年間180万円から60万円に削減(社内育成にシフトした効果)
経営者はこう話します。「研修に頼っていた時は、お金を払って安心していた。でも、リーダーは現場で育つものだった。日常の仕事の中に、リーダーシップを鍛える機会はいくらでもあったのに、見落としていた」。
リーダーシップ開発の「はじめの一歩」
ステップ1:「うちのリーダー像」を一言で表してみる
「うちの会社で良いリーダーとは、どんな人か?」——この問いに、経営者自身が一言で答えてみてください。その答えが、リーダーシップ開発の方向性を決めます。
ステップ2:一人に「小さなリーダー体験」を任せる
「来月の改善プロジェクトのリーダーをやってみないか」——中堅社員の一人に、小さなプロジェクトのリーダーを任せてみてください。その経験が、リーダーシップ開発の最初の種になります。
ステップ3:月1回の振り返りの場を設ける
リーダー体験をした社員と、30分の振り返りの場を持つ。「何がうまくいったか」「何が難しかったか」「次はどうするか」を話し合う。この振り返りが、経験を学びに変える力を持っています。
リーダーシップは「天性の才能」ではなく「後天的に育つスキル」です。そして、それは研修室ではなく現場で育ちます。北海道の企業が、日常の業務の中にリーダーシップ開発の機会を見出し、次世代のリーダーを一人でも多く育てることを願っています。
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