
北海道の中小企業が「組織図」を戦略的に設計する方法——人の配置ではなく事業の設計図として組織を描く
北海道の中小企業が「組織図」を戦略的に設計する方法——人の配置ではなく事業の設計図として組織を描く
「組織図って、名前を並べたものでしょ? 社員が増えたら箱を足すだけですよ」
北見の食品会社の社長にとって、組織図は「現状の社員の配置を示したもの」でした。しかし、私はこの認識こそが組織づくりの落とし穴だと考えています。
組織図は、本来「事業の設計図」です。「どの機能がどこにあり、どう連携し、誰が何に責任を持つか」を示す戦略的なツール。事業戦略が先にあり、それを実現するための機能配置として組織図が設計される——この順番が正しいのです。
しかし多くの北海道の中小企業では、組織図が「人ありき」で作られています。「Aさんが営業部長だから営業部がある」「Bさんが退職したから品質管理の機能がなくなった」——人の異動や退職に合わせて組織図が変わるのは、事業の設計が人に依存している証拠です。
この記事では、北海道の中小企業が組織図をどう戦略的に設計すれば、事業の成長を支える組織をつくれるかを解説します。
組織図が「戦略的でない」企業の特徴
特徴1:部門の数と名前が何年も変わっていない
事業環境が変化しているのに、組織の構造が5年前、10年前と同じ。「総務部」「営業部」「製造部」という区分が、今の事業に最適かどうかが検証されていません。
特徴2:一人の社員に複数の機能が集中している
「Cさんが品質管理と生産管理と安全管理をすべて担当している」——少人数の企業では兼務は避けられませんが、兼務の構造が組織図に反映されていないと、「Cさんが辞めたら3つの機能が同時に失われる」というリスクが可視化されません。
特徴3:部門間の連携が組織図に表現されていない
組織図は縦のラインだけで構成されがちですが、実際の業務は部門間の横の連携で回っています。この横の連携が組織図に反映されていないと、連携の責任が不明確になります。
特徴4:新しい機能の位置づけが曖昧
EC事業、デジタルマーケティング、DX推進——新たに必要になった機能が、既存の部門の「片手間」として扱われ、組織図上の位置づけが不明確なままになっているケースです。
組織図を戦略的に設計する5つのステップ
ステップ1:事業戦略に必要な「機能」を洗い出す
組織図の設計は、「今いる社員の配置」からではなく、「事業戦略の実現に必要な機能」から始めます。
まず、自社の事業戦略を確認し、その実現に必要な機能をすべて列挙します。
たとえば、旭川の食品加工会社の場合、「3年後に自社ブランドの売上比率を40%に引き上げる」という戦略に必要な機能は以下の通りでした。
- 商品企画・開発
- 製造・生産管理
- 品質管理・保証
- 営業(OEM向け)
- 営業(自社ブランド向け)
- EC運営・デジタルマーケティング
- 物流・出荷管理
- 経理・財務
- 人事・総務
- 経営企画
この段階では、「誰が担当するか」は考えません。純粋に「事業に必要な機能」を列挙します。
ステップ2:機能のグルーピングと優先順位づけ
洗い出した機能を、関連性の高いものでグルーピングし、事業戦略上の優先順位をつけます。
グルーピングの基準は以下の通りです。
- 業務プロセスの近さ(連携が密な機能は同じグループに)
- 専門性の共通性(必要なスキルが類似する機能は同じグループに)
- 顧客との関係(顧客接点の有無で分ける)
上記の食品加工会社の例では、以下のグルーピングになりました。
事業推進グループ:商品企画・開発、営業(自社ブランド)、EC運営・デジタルマーケティング 製造グループ:製造・生産管理、品質管理・保証、物流・出荷管理 OEM営業グループ:営業(OEM向け) 管理グループ:経理・財務、人事・総務 経営企画:経営企画
ステップ3:「あるべき組織図」を描く
グルーピングに基づいて、「あるべき組織図」を描きます。この段階ではまだ「人」を入れません。「機能の箱」だけの組織図です。
組織図のデザインで考慮すべき点は以下の通りです。
報告ラインの明確化
- 各機能(部門・チーム)が誰に報告するかを明確にする
- 原則として、一人のメンバーは一人の上長にレポートする(ワンボス原則)
- やむを得ず兼務が発生する場合、主たる報告ラインを明確にする
管理スパンの適正化
- 一人の管理者が直接管理するメンバーの数は、5〜8名が適正
- 管理スパンが10名を超える場合は、中間管理層を設ける
- 管理スパンが3名以下の場合は、組織の統合を検討する
戦略重要機能の位置づけ
- 事業戦略上の重要機能を、組織の上位に位置づける
- 新規事業や戦略的に強化したい機能は、独立した部門(チーム)にする
ステップ4:「現状」と「あるべき姿」のギャップを特定する
「あるべき組織図」と「現在の組織図」を比較し、ギャップを特定します。
よく見つかるギャップは以下のようなものです。
- あるべき組織図にある機能が、現在の組織図にない(機能の欠落)
- 一人の社員が複数の機能を兼務しすぎている(過負荷)
- 重要な機能が組織の下位に埋もれている(位置づけの問題)
- 不要になった機能が残っている(過去の遺物)
帯広の建設会社では、「あるべき組織図」を描いた結果、「安全管理」の機能が独立した部門として必要であることが明確になりました。それまで安全管理は総務部の中の一業務として扱われていましたが、事業戦略上の重要性から独立させ、安全管理室として設置しました。
ステップ5:人材の配置とギャップの解消計画を立てる
最後に、「あるべき組織図」に人材を配置し、ギャップの解消計画を立てます。
配置のパターンは以下の通りです。
- 既存社員の配置転換
- 兼務の整理(過度な兼務の解消)
- 新規採用(不足機能を担う人材の採用)
- 外部委託(社内で持つ必要のない機能のアウトソーシング)
- 機能の統合(小さすぎる機能の統合)
すべてのギャップを一度に解消する必要はありません。優先順位をつけ、1〜3年の計画で段階的に実行します。
北海道の中小企業ならではの組織設計のポイント
ポイント1:季節変動への対応を組み込む
北海道の産業は季節変動が大きいため、「夏の組織」と「冬の組織」で機能配置が変わることがあります。組織図に季節変動の要素を組み込み、柔軟な人材配置を可能にする設計が必要です。
観光業では、夏季はフロント・料飲サービスの人員を厚くし、冬季はスキー関連のサービス部門を強化する。この変動を組織図の中で明示することで、人材の流動的な配置がスムーズになります。
ポイント2:拠点間の連携を設計する
本社が札幌にあり、工場が苫小牧、営業所が旭川と帯広にある——こうした複数拠点を持つ企業では、拠点間の連携を組織図に明示することが重要です。「同じ部門だが拠点が異なる」メンバーのコミュニケーションラインを、組織図上で示しておきます。
ポイント3:兼務を「見える化」する
少人数の企業では兼務は避けられません。重要なのは、兼務を「なかったこと」にするのではなく、組織図上で明示することです。「総務部長が人事機能も担当している」「営業マネージャーがEC事業も兼務している」——こうした兼務を組織図に記載することで、一人に集中しすぎている機能が可視化されます。
ポイント4:「将来の箱」を描いておく
現在は人員がいなくても、「3年後にはこの機能が必要になる」という箱を、組織図に点線で描いておきます。これにより、採用計画や人材育成計画との連動が明確になります。
実践事例:帯広の農業法人の場合
企業概要
- 帯広市の農業法人。従業員28名(通年雇用18名、季節雇用10名)
- 事業内容:畑作(じゃがいも、たまねぎ、小麦)、加工品の製造・販売
- 課題:6次産業化を進めたいが、組織が「生産中心」のままで新事業に対応できない
旧組織図
代表 — 生産部(15名) — 加工部(5名) — 総務部(3名)
加工品の販売は生産部長が「片手間」で担当。EC事業は総務部の事務員が「片手間」で運営。品質管理は加工部の社員が兼務。
あるべき組織図の設計
事業戦略を「3年後に加工品・直販の売上比率を50%にする」と定め、必要な機能を洗い出しました。
代表 ├── 生産部(圃場管理、収穫・出荷) ├── 加工・品質管理部(加工品製造、品質管理・HACCP対応) ├── 販売・マーケティング部(直販営業、EC運営、ブランディング) └── 管理部(経理、総務、人事)
ギャップと解消計画
- 「販売・マーケティング部」は現存しない → 1年目に専任1名を採用
- 品質管理が兼務のまま → 2年目に品質管理の専任者を配置(既存社員の育成で対応)
- EC運営が総務の片手間 → 販売・マーケティング部に移管
- 管理部が3名で過負荷 → 給与計算と社会保険手続きをBPOに委託
結果(組織再設計から2年後)
- 販売・マーケティング部を新設し、EC・直販の専任体制を確立
- 加工品の売上:前年比180%に増加
- EC経由の売上:全体の22%に到達(旧体制では5%)
- 品質管理体制の強化により、大手小売チェーンとの新規取引が実現
- 社員から「自分の仕事の位置づけがわかりやすくなった」との声
代表は「組織図を『名前の配置図』から『事業の設計図』に変えたことで、会社の方向性が全員に伝わるようになった。特に、新しく作った『販売・マーケティング部』の箱が、6次産業化への本気度を社員に示す効果があった」と話しています。
はじめの一歩
ステップ1:現在の組織図を壁に貼る
自社の組織図を、実際に紙に印刷して壁に貼ってみてください。「この組織図は、うちの事業戦略を反映しているか」と問いかけてみてください。違和感があれば、それが再設計のきっかけです。
ステップ2:「3年後に必要な機能」を5つ挙げる
今はないけれど、3年後の事業には必要だと思う機能を5つ挙げてみてください。その機能は、現在の組織図のどこに位置づけるべきですか。
ステップ3:「最もリスクの高い兼務」を特定する
一人の社員に集中している機能の中で、「この人が辞めたら最も困る」ものを特定してください。それが、組織再設計で最初に手をつけるべきポイントです。
組織図は、額縁に入れて飾るものではありません。事業の方向性が変われば組織も変わる。市場環境が変われば機能の優先順位も変わる。北海道の中小企業が、組織図を「事業の設計図」として常に更新し続けること。それが、変化に強い組織をつくる第一歩です。
関連記事
組織開発北海道の製造業が「安全文化」と人材育成を結びつける方法——事故を防ぐ仕組みと人を育てる仕組みは同じ根を持つ
安全教育はちゃんとやっている。でも、ヒヤリハットが減らない
組織開発札幌のIT企業がアジャイル組織で人事をどう設計するか——従来型の人事制度では対応できない、変化に強い組織の人事設計
半年前につくった組織図が、もう使えなくなっている
組織開発北海道の企業が「組織風土」を変えるための最初の一歩——制度では変えられない「空気」をどう動かすか
うちの会社、何を言っても変わらないんですよ
組織開発北海道の中小企業がジョブ型雇用の考え方を取り入れる方法——「メンバーシップ型」との二項対立を超えた実践ガイド
ジョブ型雇用って、うちみたいな30人の会社でもできるんですか?