北海道の企業が「これからの人事」を考えるための羅針盤——100本の記事を書き終えた今、伝えたいこと
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北海道の企業が「これからの人事」を考えるための羅針盤——100本の記事を書き終えた今、伝えたいこと

#1on1#エンゲージメント#採用#評価#研修

北海道の企業が「これからの人事」を考えるための羅針盤——100本の記事を書き終えた今、伝えたいこと

この記事は、北海道の企業の人事をテーマにした連載の100本目です。

1本目の記事を書き始めたとき、私はある問いを持っていました。「北海道の中小企業の人事は、何を軸に考えればよいのか。」この問いに対して、100本の記事を通じて、さまざまな角度から答えを模索してきました。

採用、育成、評価、報酬、組織設計、退職、そして経営との関係。人事のテーマは多岐にわたります。しかし、100本の記事を書き終えた今、私の中で明確になった信念があります。それは、「人事は事業のためにある」ということです。

人事は、「人のための活動」であると同時に、「事業のための活動」です。この二つは対立するものではありません。事業が成長するからこそ、社員の雇用が守られ、報酬が支払われ、成長の機会が生まれる。社員が成長し、力を発揮するからこそ、事業が成長する。この循環をつくることが、人事の本質的な役割だと私は考えています。

この最終記事では、北海道の企業が「これからの人事」を考えるための羅針盤を示します。未来を予測することではなく、どんな変化が来ても対応できる「考え方の軸」を整理します。


羅針盤1:「経営数字」から発想する人事

原則:人事は「感情」ではなく「数字と事業」から出発する

人事の仕事は、人の感情に関わるものです。しかし、人事施策の出発点は「感情」ではなく「経営数字」であるべきだと私は考えています。

「社員が疲弊しているから残業を減らそう」——これは人事としては正しい判断です。しかし、経営者を動かすためには、「残業時間が月平均40時間を超えており、これが離職率の上昇(前年比3ポイント増)と生産性の低下(一人当たり売上が前年比5%減)の主因になっている。残業を月25時間以下に抑制すれば、離職コストの削減と生産性回復により、年間○○万円の効果が見込める」と語れなければなりません。

経営数字から発想するとは、「人に冷たい」ということではありません。「人に関する取り組みの価値を、経営者が理解できる言語で表現する」ということです。

北海道の中小企業の人事担当者に求められるのは、この「翻訳力」です。人の問題を数字で語り、数字の裏にある人の課題を見抜く。両方ができて初めて、人事は経営のパートナーになれます。


羅針盤2:「両利きの人事」を目指す

原則:「守りの人事」と「攻めの人事」の両方を同時に実行する

「両利きの経営」という概念があります。既存事業の効率化(深化)と新規事業の探索(探索)を同時に行う経営です。人事にも同じことが言えます。

「守りの人事」とは、労務管理、法令遵守、給与計算、社会保険手続きなど、企業として最低限果たすべき基盤業務です。これが不十分であれば、社員の信頼は得られません。

「攻めの人事」とは、採用戦略、人材育成、組織開発、エンゲージメント向上など、事業の成長を加速させるための施策です。これがなければ、人事は「事務屋」にとどまります。

北海道の中小企業では、人事担当者が一人で両方を担っているケースが大半です。だからこそ、「守り」を効率化(BPOの活用、業務の標準化、ITの導入)し、生まれた時間を「攻め」に振り向ける設計が不可欠です。

守りをおろそかにして攻めに走ることも、守りだけに時間を使って攻めを放棄することも、どちらも組織にとって最善ではありません。両方を同時に、バランスを取りながら実行する。この「両利き」の感覚が、これからの人事には求められます。


羅針盤3:「人口減少」を前提とした人事設計

原則:「人が足りない」を所与の条件として組織を設計する

北海道の生産年齢人口は、今後も減少を続けます。「人手不足はそのうち解消される」という楽観は、もはや通用しません。「人が足りない」ことを前提として、組織と業務を設計し直す必要があります。

具体的には、以下の発想の転換が求められます。

「人を増やす」から「一人当たりの価値を最大化する」へ

人員を増やすことが難しいなら、今いる人の生産性を上げる。スキルアップの支援、業務の効率化、適材適所の配置。一人当たりの付加価値額を高めることが、人口減少時代の成長戦略です。

「定型業務に人をはりつける」から「定型業務を仕組み化する」へ

人が手作業で行っている定型業務を、ITやBPOで効率化する。人間がやるべき仕事と、仕組みに任せるべき仕事を仕分ける。人間は、判断、創造、コミュニケーションなど、人間にしかできない仕事に集中する。

「一つの会社で完結する」から「外部との連携で補完する」へ

すべての機能を自社で持つことが難しくなる時代。外部パートナー(BPO、フリーランス、他社との協業)を活用して、組織の機能を補完する。人事にも、この「オープンな組織設計」の発想が求められます。

「新卒一括採用」から「多様な入口」へ

新卒採用だけに頼るのではなく、中途採用、UIターン採用、シニア採用、副業人材の活用など、多様な入口を設けることで、人材の確保の可能性を広げます。


羅針盤4:「制度」よりも「運用」を重視する

原則:どんなに優れた制度も、運用が伴わなければ意味がない

この100本の記事で繰り返し述べてきたことがあります。それは、「制度を入れれば解決する」という発想の危険性です。

評価制度を導入しても、評価者が適切にフィードバックしなければ、社員の成長にはつながらない。1on1ミーティングを制度化しても、形だけの面談では信頼関係は築けない。研修を実施しても、学びを実務に転化する仕組みがなければ、投資は回収できない。

制度は「箱」に過ぎません。その箱に「魂」を入れるのが、運用です。運用とは、制度を日常の中で丁寧に回し、課題を見つけ、改善し続けることです。

北海道の中小企業は、大企業のような精緻な制度を持つ必要はありません。シンプルな制度を、丁寧に運用する方が、はるかに効果的です。


羅針盤5:「経営者との対話」を人事の中核に据える

原則:人事は経営者との対話なしに機能しない

人事のあらゆる施策は、経営の方向性と整合していなければ意味がありません。「会社がどこに向かっているか」を理解した上で、「そのためにどんな人材が必要か」「今の組織にどんな課題があるか」を考える。この出発点は、経営者との対話の中にしかありません。

この連載でも何度か触れましたが、経営者と人事担当者の「定例ミーティング」は、人事機能の基盤です。月に1回、60分。この時間を確保するかどうかで、人事の質が根本的に変わります。

経営者に「人事のことがわからない」と言われたら、それは人事担当者が経営者に「伝わる言葉」で説明できていないのかもしれません。経営者が「人事に興味がない」と感じたら、それは人事が「経営にとっての価値」を示せていないのかもしれません。

対話のきっかけは、人事担当者の側から作る必要があります。「社長、毎月30分だけ、人の話をさせてください」——この一言から始める勇気が、人事の転換点になります。


羅針盤6:「北海道で働くこと」の価値を言語化する

原則:北海道は「地方のハンデ」ではなく「独自の価値」を持っている

北海道の企業が採用で不利だと感じるのは、「東京の大企業と同じ土俵で勝負している」からです。同じ土俵で勝てないのであれば、土俵を変えればいい。

「北海道で働くこと」には、東京にはない価値があります。

  • 通勤時間の短さ(札幌でも平均通勤時間は東京の半分以下)
  • 生活コストの低さ(家賃、食費の差は手取りベースの生活水準に直結)
  • 自然環境の豊かさ(仕事後や休日のQOLの高さ)
  • コミュニティの密度(地域のつながりの強さ、仕事の顔が見える関係)
  • 「自分の仕事が地域に貢献している」実感

これらの価値を言語化し、採用の場面で積極的に発信する。「東京と比べて劣っている点」ではなく、「北海道だからこそ得られる価値」にフォーカスする。この発想の転換が、北海道の採用を変えます。


羅針盤7:「完璧を目指さない」勇気を持つ

原則:「今できることの中で最善を尽くす」ことが、中小企業の人事の本質

大企業のような人事部門、高度な人事システム、体系化された制度——北海道の中小企業がこれらを持つことは、現実的には難しい。しかし、それでいいのです。

完璧な評価制度がなくても、上司と部下が毎月15分の対話をすることはできます。体系的な研修プログラムがなくても、先輩が後輩に業務を教える「OJTの意識化」はできます。高度なHRシステムがなくても、Excelで社員のスキルマップを作ることはできます。

「今の自社にできることは何か」を問い、「小さく始めて、改善し続ける」こと。この姿勢が、中小企業の人事の強みです。大企業にはできない「機動力」と「柔軟性」を活かして、自社に合った人事のかたちをつくっていく。


羅針盤8:「測定し、改善し続ける」文化をつくる

原則:感覚ではなく事実に基づいて人事を運営する

人事の成果は、測定しなければわかりません。「なんとなくうまくいっている気がする」「社員の雰囲気が良くなった気がする」——この「気がする」を、数字で確認する習慣を持つことが重要です。

測定すべき基本指標は以下の通りです。

  • 離職率(全社・部門別・入社年次別)
  • 一人当たり売上高、一人当たり付加価値額
  • 採用コスト(一人当たり)
  • 採用から戦力化までの期間
  • 平均残業時間、有給取得率
  • 社員のエンゲージメントスコア
  • 研修投資額と研修後の行動変容

すべてを完璧に測定する必要はありません。まず3つの指標を選び、毎月追跡することから始めます。数字を見ることで、「何が起きているか」「どこに課題があるか」「施策の効果が出ているか」が見えてきます。


羅針盤9:「人事は一人で抱えない」

原則:人事の仕事を人事担当者だけに任せない組織をつくる

北海道の中小企業の人事担当者は、孤独になりがちです。社内に人事の専門家が自分しかいない。相談する相手がいない。判断に迷っても、一人で決めなければならない。

この孤独を解消する方法は、以下の3つです。

社外のネットワークを持つ

人事担当者向けの勉強会、セミナー、コミュニティに参加し、他社の人事担当者との交流を持つ。札幌を中心に、こうしたネットワークは存在します。他社の事例や悩みを共有することで、視野が広がり、孤独感が軽減されます。

専門家を活用する

社会保険労務士、人事コンサルタント、キャリアコンサルタントなど、外部の専門家を相談相手として活用します。顧問契約を結んでいなくても、スポットで相談できる専門家との関係を持っておくことは、人事担当者の大きな支えになります。

経営者を「人事のパートナー」にする

人事の課題を一人で抱えるのではなく、経営者と共有する。経営者が人事のことを「人事担当者の仕事」ではなく「自分ごと」として捉えてくれる関係を築く。そのためには、前述の「定例ミーティング」が有効です。


羅針盤10:「人事の仕事に誇りを持つ」

原則:人事は企業の「未来をつくる」仕事である

人事の仕事は、時に地味で、成果が見えにくく、感謝されることが少ない仕事です。給与計算を正確に行っても誰も褒めてくれない。社会保険の手続きを確実に行っても当たり前だと思われる。採用に苦労して人材を確保しても、入社後の活躍は現場の手柄になる。

しかし、人事の仕事は、企業の「未来をつくる」仕事です。今日の採用が、3年後の組織の姿を決める。今日の育成が、5年後の事業の可能性を広げる。今日の組織設計が、10年後の企業の持続可能性を左右する。

目の前の業務に追われていると見失いがちですが、人事は「今」と「未来」をつなぐ仕事です。その仕事に誇りを持ってほしいと、心から思います。


おわりに——100本の記事を通じて

この連載を通じて、北海道の企業の人事に関するさまざまなテーマを扱ってきました。採用の工夫、育成の設計、評価と報酬の連動、組織風土の改革、退職面談の活用、経営との対話の設計。どのテーマにも共通していたのは、「正解は一つではない」ということです。

自社の規模、業種、地域、歴史、文化。これらの条件は企業ごとに異なります。他社の成功事例をそのまま真似しても、自社でうまくいくとは限りません。他社の事例から「考え方」を学び、「自社に合う形」に翻訳する。この翻訳の力こそが、人事担当者に求められる最も重要な能力だと私は考えています。

北海道の中小企業は、人事の専門部署を持てないかもしれない。高度なシステムを導入できないかもしれない。しかし、「人を大切にしながら事業を伸ばす」という意志を持ち、小さな一歩を積み重ねることはできます。

100本の記事が、その一歩を踏み出す勇気の一助になれば、これ以上の喜びはありません。北海道の企業の人事が、事業の成長と社員の幸福の両方を実現する力になることを、私は信じています。

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