
北海道の企業が「人事担当者自身のキャリア」を考える方法——他者のキャリアを支える人が、自分のキャリアを見失わないために
北海道の企業が「人事担当者自身のキャリア」を考える方法——他者のキャリアを支える人が、自分のキャリアを見失わないために
「社員のキャリア相談には乗るけど、自分のキャリアは考えたことがない」
帯広の食品メーカーで一人人事を担当する社員の言葉です。この言葉を聞いたとき、私は胸が痛みました。人事担当者は、社員の採用、育成、評価、キャリア支援——他者のキャリアに深く関わる仕事をしています。しかし、その人事担当者自身のキャリアについて考える余裕も、考える枠組みも持てていないことが多い。
北海道の中小企業の人事担当者は、特にこの問題が深刻です。一人人事あるいは兼務の体制で、日々の業務に追われるうちに、気がつけば何年も同じ業務を繰り返している。社内に人事のロールモデルがいない。人事の専門性を高める機会がない。「このままでいいのだろうか」と漠然とした不安を抱えている——そんな人事担当者に、私はたくさん出会ってきました。
この記事は、北海道の企業の人事担当者が、自分自身のキャリアについて考えるためのガイドです。同時に、経営者に対しては、人事担当者のキャリア開発を支援することの重要性を伝えたいと思います。
人事担当者のキャリアの現実
現実1:専門性の見えにくさ
営業には「売上」、製造には「品質」「生産性」、経理には「決算」——多くの職種には、専門性を示す明確な指標があります。しかし人事の専門性は、外からは見えにくいのが実情です。「給与計算ができる」「社会保険の手続きを知っている」という実務スキルは認識されやすいですが、「組織を設計する力」「人材を見極める力」「経営と人事を結びつける力」といった本質的な専門性は、なかなか認識されません。
現実2:キャリアパスの不明確さ
中小企業の人事担当者にとって、社内でのキャリアパスは極めて限定的です。「人事部長」というポジションがあったとしても、現在の人事部長が退任するまで何年かかるかわかりません。そもそも「人事部」が独立して存在しない企業も多いです。
現実3:業務の「広さ」と「深さ」のジレンマ
中小企業の人事担当者は、採用、評価、労務、研修、給与——あらゆる人事業務を幅広くこなします。この「広さ」は強みですが、一方で「特定の領域を深く掘り下げる」機会が限られます。広く浅くの状態が続くと、「何の専門家なのかわからない」という焦りが生まれます。
現実4:孤独な職種
人事は、組織の中で孤独になりやすい職種です。社員の個人情報を扱うため、他部門の同僚と気軽に仕事の話ができない。経営者と社員の間に立つ役割のため、どちらの側でもない。北海道の中小企業では、同じ立場の人事担当者が社内にいないことが多く、孤独感はさらに深まります。
人事のキャリアを考える3つの軸
人事担当者のキャリアを考える際、以下の3つの軸で自分の現在地と目指す方向を整理することをお勧めします。
軸1:専門性の深さ
人事の専門領域は広範です。以下のどの領域に強みを持っているか、あるいは持ちたいかを考えます。
- 採用:採用戦略の立案、母集団形成、選考設計、面接技術
- 育成・研修:研修体系の設計、OJTの仕組みづくり、キャリア開発支援
- 制度設計:等級制度、評価制度、報酬制度の設計と運用
- 労務管理:就業規則の整備、労働法務、安全衛生管理
- 組織開発:組織文化の醸成、チームビルディング、変革管理
- 人事データ分析:人材データの収集・分析、人事KPIの設計
- 経営人事:経営戦略と人事戦略の統合、タレントマネジメント
すべてに精通する必要はありません。「自分はどの領域で最も価値を発揮できるか」「どの領域に最も興味があるか」を見極めることが重要です。
軸2:影響範囲の広さ
人事として影響を与えられる範囲がどこまで広がっているかを考えます。
- レベル1:オペレーション:日々の人事業務を正確に遂行する
- レベル2:部門支援:各部門のマネージャーの人事課題を支援する
- レベル3:組織設計:組織全体の人事戦略を設計し、推進する
- レベル4:経営参画:経営判断に人事の視点から貢献する
多くの中小企業の人事担当者は、レベル1とレベル2の間で仕事をしています。キャリアを発展させるには、レベル3、レベル4へと影響範囲を広げていくことが一つの方向性です。
軸3:キャリアの場の広さ
自分のキャリアを「現在の会社の中だけ」で考えるか、「会社の外も含めて」考えるかという軸です。
- 社内キャリア:現在の会社で人事の専門性を深め、組織に貢献する
- 他社への転職:より大きな組織、より専門的なポジション、異なる業界で人事の経験を積む
- 独立・コンサルタント:複数の企業の人事を支援する立場になる
- 他職種への転換:人事で培ったスキルを活かして、経営企画、事業開発などに転換する
人事担当者が「専門性」を高める方法
方法1:人事の資格を取得する
人事の専門性を証明し、体系的な知識を得るための資格は複数あります。
- 社会保険労務士:労務管理の専門性を証明する国家資格。取得のハードルは高いが、人事担当者としての市場価値を大きく高める
- キャリアコンサルタント:キャリア支援の国家資格。社員のキャリア相談に専門的に対応できるようになる
- 衛生管理者:安全衛生管理の国家資格。50名以上の事業場では選任が義務
- メンタルヘルス・マネジメント検定:メンタルヘルスケアの知識を体系的に学べる
釧路の建設会社の人事担当者は、キャリアコンサルタントの資格を取得したことで、退職面談や社員のキャリア相談の質が大幅に向上しました。「資格の勉強自体が、自分のキャリアを見つめ直すきっかけになった」と話しています。
方法2:社外の人事コミュニティに参加する
北海道には、人事担当者同士が交流し学び合うコミュニティがあります。
- 地域の人事研究会や勉強会
- 商工会議所や産業振興機構が主催するセミナー
- オンラインの人事コミュニティ
- 社会保険労務士会が開催する研修
社外の人事担当者と交流することで、「自社のやり方が一般的なのか」「他社はどう対処しているか」を知ることができます。孤独な人事担当者にとって、「同じ悩みを持つ仲間」の存在は大きな支えになります。
旭川の製造会社の人事担当者は、札幌で月1回開催される人事勉強会に参加するようになってから、「視野が一気に広がった」と話しています。他社の人事担当者との情報交換を通じて、自社の評価制度の改善点が見えてきたそうです。
方法3:ビジネスの全体像を理解する
人事の専門性を深めると同時に、経営やビジネスの全体像を理解することが、キャリアを上のレベルに引き上げます。
- 自社の財務諸表を読めるようになる
- 事業戦略と人事戦略の関係を理解する
- 業界の動向とその人事への影響を把握する
- 経営者の視点で組織の課題を考えられるようになる
苫小牧の化学メーカーの人事担当者は、社長から「一度、営業に同行してみないか」と提案を受け、月に1回の営業同行を始めました。「顧客の声を直接聞くことで、『なぜこの人材が必要なのか』『なぜこのスキルが重要なのか』が腹に落ちるようになった。人事制度の設計に、事業の視点が加わった」と振り返っています。
方法4:「発信する人事」になる
社内で人事の取り組みや考え方を発信することで、人事への理解が深まり、人事担当者自身の存在感も高まります。
- 社内報で人事の取り組みを紹介する
- 経営会議で人事データに基づいた報告を行う
- 社員向けの人事制度説明会を主催する
- 管理職向けの「人事の基本」勉強会を開催する
「発信する人事」は、組織の中での信頼と影響力を高め、キャリアの選択肢を広げます。
経営者が人事担当者のキャリアを支援する方法
人事担当者のキャリア開発は、経営者の支援なしには実現しません。以下の支援をお勧めします。
支援1:成長投資を惜しまない
人事関連の研修、資格取得支援、セミナーへの参加費用——これらは人事担当者への投資であり、組織への投資です。年間10万〜30万円の投資で、人事担当者のスキルと視野が大幅に向上します。
支援2:経営の場に参画させる
経営会議に人事担当者を参加させ、経営判断の文脈を理解してもらう。人事担当者が経営の視点を持つことで、制度設計や採用の質が格段に向上します。
支援3:フィードバックを与える
人事担当者は、自分の仕事へのフィードバックを受ける機会が少ない職種です。経営者が定期的に「人事の仕事について良かったこと、もっとこうしてほしいこと」をフィードバックすることで、成長が加速します。
支援4:社外との接点を持つ機会を提供する
社外のセミナー、他社の人事担当者との交流、専門家との面談——社外の知見に触れる機会を積極的に提供してください。
実践事例:函館の建設会社の人事担当者Dさんの場合
背景
- 函館の建設会社。従業員55名
- Dさんは入社8年目の総務部所属。人事業務を一人で担当
- 給与計算、社会保険手続き、採用事務に追われる毎日
- 「自分のキャリアがこのままでいいのか」と漠然とした不安を抱えていた
キャリア見直しのきっかけ
社長から「人事の仕事の質を上げてほしい。採用の戦略や社員の育成にもっと力を入れてほしい」と言われたものの、日常業務が減るわけではなく、「どうすればいいのか」と途方に暮れていました。
Dさんが取った行動
ステップ1:自分のキャリアの「棚卸し」
3つの軸で自分の現在地を整理しました。
- 専門性:労務管理と給与計算が強み。採用と制度設計は経験不足
- 影響範囲:レベル1(オペレーション)が中心
- キャリアの場:当面は現在の会社で専門性を高めたい
ステップ2:「やらなくていいこと」を手放す
給与計算をBPOに委託し、月35時間の業務時間を確保。この時間を採用戦略の立案と人材育成の仕組みづくりに充てました。
ステップ3:資格取得と社外学習
キャリアコンサルタントの資格取得を目指して学習を開始。同時に、札幌の人事勉強会に月1回参加を始めました。
ステップ4:社内での「発信」を開始
月1回の経営会議で「人事レポート」を報告する仕組みを社長に提案し、承認されました。離職率、採用状況、研修の進捗——人事データを経営の文脈で報告することで、社長からの信頼が高まりました。
ステップ5:経営者との対話の質を上げた
月に1回、社長と30分の「人事ミーティング」を設定。「人手が足りないから採用したい」という依頼を受けるだけだった関係から、「3年後の事業計画に基づいて、どんな人材が必要か」を一緒に議論する関係に変化しました。
結果(2年後)
- キャリアコンサルタント資格を取得
- 採用プロセスを改善し、採用の質が向上(入社1年以内の離職がゼロに)
- 新人研修プログラムを自ら設計・実施
- 評価制度の見直しプロジェクトを主導
- 社長から「うちの人事は変わった。Dさんのおかげで組織が良くなっている」と評価
- Dさん自身も「人事の仕事が楽しくなった。自分のキャリアに自信が持てるようになった」と語る
はじめの一歩
ステップ1:「自分の強み」と「伸ばしたい領域」を書き出す
人事の7つの専門領域の中で、自分が強みを持っている領域と、これから伸ばしたい領域をそれぞれ2つずつ書き出してみてください。
ステップ2:「同じ立場の人」を見つける
社外で、同じように人事を担当している人を一人見つけてください。商工会議所のセミナー、オンラインのコミュニティ——どこでも構いません。「同じ悩みを持つ仲間」の存在が、キャリアを考える力をくれます。
ステップ3:経営者に「自分のキャリアについて話したい」と伝える
次の面談や日常の会話の中で、「自分の人事担当者としてのキャリアについて、相談させてほしい」と伝えてみてください。この一言が、経営者からの支援を引き出す第一歩になります。
人事担当者は、組織で最も「他者のキャリア」に真剣に向き合う存在です。だからこそ、自分自身のキャリアにも真剣に向き合ってほしい。北海道の企業の人事担当者一人ひとりが、自分のキャリアに誇りと展望を持てること。それは、組織全体の人事の質を高める最も確実な方法だと、私は信じています。
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