
北海道の企業が管理職の「プレイングマネージャー問題」を解消する方法——「自分でやったほうが早い」の先へ
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北海道の企業が管理職の「プレイングマネージャー問題」を解消する方法——「自分でやったほうが早い」の先へ
「部下のマネジメントが大事なのはわかっています。でも、自分の数字も持っている。マネジメントの時間なんてないんです」
札幌のサービス業の課長が、疲れた表情でこう話しました。北海道の中小企業では、管理職の多くが「プレイングマネージャー」です。自分自身も現場の業務を担いながら、チームのマネジメントも行う。結果として、「プレイヤー」としての仕事に追われ、「マネージャー」としての仕事が後回しになる。
1on1の時間が取れない。部下の育成に手が回らない。チームの方向性を示す余裕がない。「自分でやったほうが早い」と部下の仕事を巻き取る——。こうした状態が続くと、管理職は疲弊し、部下は成長せず、組織全体のパフォーマンスが低下します。
私はこれまで500社以上の企業の人事を支援してきましたが、プレイングマネージャー問題は北海道の中小企業に特に深刻です。人手不足で管理職自身がプレイヤーとして稼がなければならない現実と、マネジメントの質が組織の将来を左右するという現実。この二律背反をどう乗り越えるか。
プレイングマネージャー問題が生む「5つの弊害」
弊害1:部下が育たない
管理職が「自分でやったほうが早い」と仕事を巻き取ると、部下は新しい経験を積む機会を失います。結果として、部下のスキルが上がらず、いつまでたっても管理職の負荷が減らない。悪循環です。
弊害2:管理職が疲弊する
プレイヤーとしての仕事とマネージャーとしての仕事の両方を抱え、長時間労働が常態化します。心身の疲弊が蓄積し、パフォーマンスの低下、メンタル不調、最悪の場合は離職につながります。
弊害3:チームの方向性が見えない
管理職が目の前の業務に追われて「チームの方向性を示す」「中長期の戦略を考える」時間がなくなると、チームは「毎日をこなす」だけの集団になります。成長や改善への意欲が失われていきます。
弊害4:組織が「管理職個人」に依存する
管理職が多くの業務を自分で抱えている状態は、その人がいなくなった時のリスクが極めて高い。「あの人が休むと部署が回らない」——この属人性は、組織の脆弱性そのものです。
弊害5:次のリーダーが育たない
管理職がプレイヤー業務に忙殺されていると、次世代のリーダー候補に「リーダー経験」を積ませる余裕がありません。後継者が育たず、管理職の負荷はさらに増える。
帯広の建設会社では、管理職4名全員がプレイングマネージャーでした。「1on1をやりたいが時間がない」「部下の育成計画を立てたいが、自分の仕事で手一杯」——管理職全員が同じ悩みを抱え、部下の離職率は年20%を超えていました。
「プレイング」と「マネジメント」の比率を変える
プレイングマネージャーを完全になくすことは、中小企業では現実的ではありません。重要なのは、「プレイング」と「マネジメント」の比率を適切に設定し、マネジメントに使う時間を意図的に確保することです。
現状を把握するために、管理職に「1週間の業務記録」をつけてもらいます。
- プレイヤー業務(顧客対応、自分の担当案件、現場作業など)に何時間使っているか
- マネジメント業務(1on1、チーム会議、部下の指導、育成計画、チームの方針策定など)に何時間使っているか
多くの場合、「プレイヤー90%:マネジメント10%」のような状態が明らかになります。これを、段階的に「プレイヤー70%:マネジメント30%」を目指して調整します。
プレイングマネージャー問題を解消する「5つの施策」
施策1:管理職の業務を「棚卸し」して「手放す」
管理職が抱えている業務を一覧にし、「自分でなくてもできる業務」を特定します。
- やめる業務:そもそも不要な業務
- 委譲する業務:部下に任せられる業務
- 効率化する業務:やり方を変えれば時間を短縮できる業務
- 管理職がやるべき業務:判断や意思決定が必要な業務、マネジメント業務
「自分でやったほうが早い」と思っている業務の多くは、「最初は遅くても、部下が覚えれば将来的に楽になる」業務です。短期的な効率を手放すことで、長期的な組織力を獲得する。この発想の転換が必要です。
旭川の食品メーカーでは、課長4名に「業務棚卸しワークショップ」を実施しました。各課長が抱えている業務を付箋に書き出し、「自分でなくてもできるもの」を選ぶ。4名合わせて、計32件の業務が「委譲可能」と判定されました。3か月かけてこれらを部下に引き継いだ結果、課長のプレイヤー比率が平均85%から65%に改善しました。
施策2:「マネジメントの時間」をスケジュールに固定する
マネジメントの時間は、「空いた時間にやる」のではなく、スケジュールに固定します。
- 月曜午前10〜12時:チーム会議
- 火曜・木曜の16〜17時:1on1(週2名ずつ)
- 金曜午後:振り返りと来週の計画
- 毎月第1月曜:育成計画の見直し
「マネジメントの予定はカレンダーに入れて、他の予定と同じ優先度で扱う」——このルールを徹底するだけで、マネジメントの時間確保が大きく改善します。
施策3:部下への「委譲」を計画的に進める
「任せる」ことを計画的に進めます。
- まず、リスクの低い業務から任せる
- 任せる際に「目的」と「期待する成果」を明確に伝える
- 完全に放任するのではなく、定期的に進捗を確認する
- 失敗しても責めず、学びの機会として扱う
- うまくいったら、きちんと認める
「任せて、見守って、認める」——このサイクルが、部下の成長と管理職の負荷軽減を同時に実現します。
施策4:「No.2」を育てる
管理職の右腕となる「No.2」を育成します。チームの中でリーダーシップの素質がある人材を選び、管理職の業務の一部を段階的に担ってもらいます。
- チーム会議のファシリテーションを任せる
- 新人のOJT担当を引き受けてもらう
- 管理職不在時の判断を委ねる
- プロジェクトの取りまとめを担当してもらう
No.2が育てば、管理職の負荷が分散されるだけでなく、次世代のリーダー育成にもつながります。
施策5:経営者が「マネジメントの価値」を明確にする
管理職がプレイヤー業務を優先してしまう背景には、「プレイヤーとしての成果が評価される」「マネジメントの仕事は評価されにくい」という暗黙の評価基準があります。
経営者が「管理職の仕事はマネジメントである」と明言し、マネジメントの成果(部下の成長、チームの目標達成、組織の安定性)を評価の対象にすることが重要です。
函館の物流会社では、管理職の評価に「マネジメント指標」を導入しました。「1on1の実施率」「部下の目標達成率」「チーム内の離職率」を評価の30%に組み込んだ結果、管理職のマネジメントに対する姿勢が明確に変わりました。
事例:プレイングマネージャー問題を解消した北海道の企業
事例:札幌の中堅企業(従業員80名、管理職8名)
管理職8名全員がプレイングマネージャーで、マネジメントの時間がほとんど確保できていませんでした。1on1の実施率は月30%以下。部下からは「上司が忙しすぎて相談できない」という声が多数。管理職自身の残業は月50時間を超えていました。
取り組み
- 管理職8名全員に「業務棚卸し」を実施。各自平均6件の業務を部下に委譲
- マネジメント時間のスケジュール固定(週4時間をブロック)
- 管理職6名の下に「サブリーダー」を設置し、権限の一部を委譲
- 管理職の評価にマネジメント指標を30%導入
- 経営者から「管理職の仕事はマネジメントだ」という明確なメッセージを発信
結果(1年後)
- 管理職のプレイヤー比率:平均88%から62%に改善
- 1on1の実施率:30%から90%に向上
- 管理職の平均残業時間:月50時間から30時間に削減
- 部下の「上司のマネジメントに満足」スコア:3.0から3.8に向上(5点満点)
- チーム全体の目標達成率:65%から82%に改善
- 管理職の「仕事の満足度」:2.8から3.6に向上
ある管理職はこう話しています。「最初は『任せて大丈夫か』と不安だった。でも、部下が予想以上にできた。自分が全部やらなくてもいいんだと気づいた。今は、部下の成長がうれしい。マネジメントの仕事の面白さがわかってきた」。
北海道の企業ならではのプレイングマネージャー問題の特殊性
北海道の中小企業では、プレイングマネージャー問題が本州以上に深刻になりやすい要因があります。
特殊性1:人口減少による慢性的な人手不足
北海道の中小企業は慢性的に人手が足りず、管理職自身がプレイヤーとして稼がなければ事業が成り立たない状況が常態化しています。「マネジメントが大事なのはわかるが、自分が現場に出ないと仕事が回らない」——この現実的な制約がある中で、段階的に改善していく必要があります。
特殊性2:拠点の分散
広大な北海道では、本社と現場が離れているケースが多い。旭川の営業所長が、札幌の本社とのやり取り、現場の業務、部下のマネジメントを同時にこなさなければならない。この「物理的な距離」が、マネジメントの難しさを増しています。
特殊性3:冬期の業務負荷の変動
冬期は移動に時間がかかり、天候による予定変更も多い。管理職が冬期に「走り回る」時間が増えることで、マネジメントの時間がさらに圧迫されます。
これらの特殊性を踏まえ、「一気にプレイヤー比率を下げる」のではなく、「まず週に2時間だけマネジメントの時間を確保する」という小さなステップから始めることが現実的です。
プレイングマネージャー問題解消の「はじめの一歩」
ステップ1:1週間の業務を記録する
来週1週間、管理職として何に何時間使ったかを記録してみてください。「プレイヤー業務」と「マネジメント業務」の比率が見えるだけで、問題の深刻さが実感できます。
ステップ2:一つの業務を部下に「任せて」みる
「自分でやったほうが早い」と思っている業務を一つ選び、部下に任せてみてください。最初は時間がかかるかもしれません。でも、3か月後にはその業務から解放されている自分がいるはずです。
ステップ3:来週の水曜日に「1on1の時間」をブロックする
30分でいいので、部下との1on1の時間をカレンダーに入れてください。「まずは予定を入れる」ことが、マネジメントの時間確保の第一歩です。
プレイングマネージャー問題は、管理職個人の問題ではありません。組織全体の「マネジメントの位置づけ」の問題です。経営者がマネジメントの価値を認め、管理職がマネジメントに時間を使える環境を整えること。それが、北海道の企業の組織力を根本から高める道だと、私は考えています。
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