
札幌の中小企業が「採用マーケティング」を始める方法——「求人を出して待つ」から「自社の魅力を届ける」への転換
目次
札幌の中小企業が「採用マーケティング」を始める方法——「求人を出して待つ」から「自社の魅力を届ける」への転換
「求人を出しても、応募が来ないんです。」
札幌の中小企業の人事担当者から、この言葉を何度聞いたかわかりません。求人媒体に広告を出し、ハローワークに求人票を掲載し、あとは応募を待つ。来た応募者の中から選ぶ。この「出して待つ」方式が、多くの企業の採用活動の実態です。
しかし、私はこの方式に限界を感じています。札幌の有効求人倍率は全国平均を下回ることもありますが、業種や職種によっては深刻な人手不足が続いています。特に中小企業にとって、大企業と同じ求人媒体に広告を出して応募を待つだけでは、求職者の目に留まることすら難しい。
「採用マーケティング」という考え方は、この状況を変える可能性を持っています。マーケティングとは、「自社の商品やサービスの価値を、適切な顧客に届ける活動」です。採用マーケティングとは、「自社で働くことの価値を、適切な求職者に届ける活動」です。
商品を売るときに「作って店に並べれば勝手に売れる」とは考えないでしょう。同じように、採用においても「求人を出せば勝手に応募が来る」という時代ではなくなっています。自社の魅力を明確にし、適切な方法で、適切な相手に届ける。この発想の転換が、札幌の中小企業の採用を変える鍵だと私は考えています。
「採用マーケティング」とは何か
定義:求職者を「顧客」と捉え、自社の価値を届ける活動
従来の採用活動は、「選ぶ側」の論理で設計されていました。「条件に合う人を探す」「応募者の中から最適な人を選ぶ」。しかし、採用マーケティングでは、求職者を「顧客」と捉えます。顧客に自社の価値を理解してもらい、「この会社で働きたい」と思ってもらうための活動です。
マーケティングの基本フレームワーク「AIDMA(認知→興味→欲求→記憶→行動)」は、採用にもそのまま当てはまります。
- 認知(Attention):自社の存在を知ってもらう
- 興味(Interest):「面白そうな会社だ」と興味を持ってもらう
- 欲求(Desire):「ここで働きたい」と思ってもらう
- 記憶(Memory):転職を考えたときに自社を思い出してもらう
- 行動(Action):実際に応募してもらう
多くの企業は「行動(応募)」だけに集中していますが、その前段階の「認知」「興味」「欲求」「記憶」の設計が欠けているのです。
札幌の中小企業が採用マーケティングを始める5つのステップ
ステップ1:「自社で働く価値」を明確にする(EVP=従業員価値提案の設計)
最初に取り組むべきは、「自社で働くことの何が魅力なのか」を明確にすることです。これをEVP(Employee Value Proposition:従業員価値提案)と呼びます。
多くの中小企業は、「うちには特別な魅力なんてない」と考えています。しかし、それは「大企業と同じ土俵で比較しているから」です。大企業にはない中小企業ならではの魅力は必ずあります。
EVPを見つけるためのワークとして、以下の質問に答えてみてください。
- 社員に「うちの会社の良いところは何か」と聞いたら、何と答えるか
- 過去に入社した社員は、なぜうちの会社を選んだのか
- 競合他社にはなく、うちにある特徴は何か
- 仕事を通じてどんなスキルや経験が得られるか
- 札幌で働くこととセットで、どんな生活が実現できるか
札幌のWeb制作会社(社員数20名)では、このワークを通じて「少人数だからこそ、入社2年目でもクライアントとの直接交渉を任される」「札幌にいながら東京の大手企業の案件に携われる」という2つの価値を特定しました。これを採用メッセージの軸にしたところ、「自分の成長を加速させたい」というモチベーションの高い求職者からの応募が増えました。
ステップ2:「ターゲット」を明確にする
マーケティングでは「誰に売るか」が重要です。採用マーケティングでも「誰に来てほしいか」を具体的に定義します。
「優秀な人材」では抽象的すぎます。以下の項目を具体的に設定します。
- 年齢層:何歳くらいの人を想定するか
- 経験:どんな業務経験がある人か
- スキル:どんなスキルを持っている人か
- 価値観:仕事に何を求めている人か
- 現在の状況:転職活動中か、潜在的な転職希望者か
- 情報収集の方法:どんな媒体を見ているか、SNSは使っているか
例えば、「30代前半、Web制作の実務経験3年以上、将来的にディレクターを目指したい、札幌でのライフスタイルに価値を感じている、Twitterとnoteで情報収集している」——ここまで具体的に描くと、どんなメッセージをどんな媒体で届けるべきかが見えてきます。
ステップ3:「コンテンツ」を作る
ターゲットに届けるコンテンツを作ります。採用マーケティングにおけるコンテンツとは、「自社で働くことの価値を伝える情報」です。
具体的なコンテンツの種類は以下の通りです。
- 社員インタビュー記事:実際に働いている社員の声を通じて、会社の雰囲気や仕事内容を伝える
- 社長メッセージ:会社の方向性や大切にしている価値観を、経営者の言葉で伝える
- 仕事紹介コンテンツ:具体的にどんな仕事をするのか、1日の流れや業務内容を紹介する
- オフィス・職場環境の紹介:写真や動画で職場の雰囲気を伝える
- 福利厚生・制度の紹介:独自の制度や働き方の柔軟性を紹介する
- 札幌・北海道の魅力を組み合わせた情報:UIターン人材向けに、札幌での生活の魅力を伝える
コンテンツ作成で最も重要なのは「リアルさ」です。きれいな言葉を並べるよりも、社員の本音、会社の課題、成長の途中段階であることの正直な開示の方が、求職者の共感を得ます。
札幌の介護事業者(社員数50名)では、「うちの会社の大変なところ」をあえてnoteに書き、大きな反響を得ました。「現場は正直しんどいこともある。でも、チームで支え合う文化がある」という正直なメッセージが、「この会社は信頼できる」という印象につながったのです。
ステップ4:「発信チャネル」を選ぶ
作ったコンテンツを、ターゲットが見ている場所に届けます。札幌の中小企業が活用しやすい発信チャネルは以下の通りです。
- 自社の採用ページ(ウェブサイト内):すべての発信の「母艦」。他のチャネルから最終的に誘導する先
- note:長文コンテンツの発信に適している。社員インタビューや社長メッセージに向いている
- Instagram:ビジュアルで職場の雰囲気を伝えるのに適している。若手向け
- X(Twitter):業界の情報発信を通じて認知を広げる。リアルタイムの発信が可能
- Wantedly:企業のビジョンや文化に共感する求職者とのマッチングに適している
- Indeed・求人ボックス:検索型の求人メディア。具体的な求人内容の掲載に適している
- ハローワーク:コストをかけずに幅広い層にリーチできる
すべてのチャネルを同時に始める必要はありません。ターゲットの情報収集方法に合わせて、2~3のチャネルに絞って始めるのが現実的です。
ステップ5:「効果を測定し改善する」
採用マーケティングの効果を測定し、継続的に改善します。測定すべき指標は以下の通りです。
- 認知指標:採用ページのアクセス数、SNSのフォロワー数
- 興味指標:コンテンツの閲覧数、SNSのエンゲージメント率
- 応募指標:応募数、応募経路別の内訳
- 選考指標:書類通過率、面接通過率、内定承諾率
- 質指標:入社後の定着率、入社後のパフォーマンス
「先月は求人ページへのアクセスは増えたが、応募数は変わらなかった」→「ページの内容に問題がある可能性がある」→「応募フォームが使いにくいのではないか」→「改善する」——このPDCAサイクルを回すことで、採用マーケティングの精度が上がっていきます。
札幌の中小企業が採用マーケティングで陥りやすい失敗
失敗1:「見栄えの良い発信」をしてしまう
きれいなオフィスの写真、楽しそうな社員の笑顔、魅力的なキャッチコピー。しかし、入社してみたら実態と違った——これは最悪のパターンです。採用マーケティングは「良く見せる活動」ではなく「ありのままの価値を適切に届ける活動」です。
入社後のギャップは早期離職の最大の原因です。採用マーケティングで「盛る」ことは、採用コストの無駄遣いになります。
失敗2:「発信すること」が目的化する
SNSの更新が目的化し、「今週も投稿しなければ」と義務感で発信するようになるケースがあります。目的のない発信は、ターゲットに届きません。「この投稿は、誰に、何を伝えるためのものか」を常に意識することが重要です。
失敗3:「人事だけ」で取り組む
採用マーケティングは、人事だけの仕事ではありません。社員インタビューには現場の社員の協力が必要です。会社の方向性の発信には経営者の関与が必要です。「採用は全社の取り組み」という認識を広げることが、採用マーケティングの質を高めます。
失敗4:短期間で成果を求める
採用マーケティングは、求人広告と違って即効性はありません。認知→興味→欲求→行動のプロセスには時間がかかります。最低でも6か月、できれば1年のスパンで効果を見る必要があります。
札幌の立地を活かした採用マーケティング
活用1:「札幌で働く」という価値の発信
札幌は、北海道最大の都市でありながら、自然へのアクセスが良く、生活コストが東京に比べて低い。この「都市と自然の両立」は、UIターン人材にとって大きな魅力です。
採用マーケティングにおいて、「仕事の内容」だけでなく「札幌での生活」という文脈を加えることで、東京や大阪からのUIターン人材にリーチできます。
具体的なコンテンツ例は以下の通りです。
- 「札幌で働くエンジニアの一日」(通勤時間、ランチ、仕事後の過ごし方)
- 「東京から札幌にUIターンした社員のインタビュー」(なぜ札幌を選んだか、実際の生活はどうか)
- 「札幌の住環境と生活コスト」(家賃、食費の比較)
活用2:地域コミュニティとの連携
札幌には、IT系のコミュニティ、起業家コミュニティ、業界団体など、さまざまなコミュニティがあります。これらのコミュニティに参加し、自社の存在を知ってもらうことは、採用マーケティングの重要な手法です。
勉強会への参加や主催、コミュニティイベントへのスポンサーなど、「自社の名前を業界内で知ってもらう」活動は、直接的な応募にはつながらなくても、中長期的な認知の拡大に寄与します。
活用3:地元大学との関係構築
札幌市内には、北海道大学をはじめ複数の大学があります。新卒採用に限らず、インターンシップの受け入れ、ゼミへのゲスト講義、就職イベントへの参加など、学生と接点を持つ活動は、将来の採用につながります。
少ない予算で始める採用マーケティングの実践プラン
札幌の中小企業が、限られた予算と人員で採用マーケティングを始めるための実践プランを示します。
月0円~1万円でできること(最初の3か月)
- 自社の採用ページを見直す(既存のウェブサイト内で対応可能)
- noteアカウントを開設し、社員インタビューを月1本掲載する
- 社長メッセージをnoteに掲載する
- ハローワークの求人票を「読みたくなる内容」に書き直す
月1万~5万円でできること(4~6か月目)
- Wantedlyの有料プランを利用する
- Instagramで職場の日常を週2回発信する
- Indeed等の無料枠を活用する
月5万~10万円でできること(7か月目以降)
- 求人媒体の有料広告を活用する
- 採用イベントに出展する
- 社員紹介制度を導入し、紹介報奨金を設定する
重要なのは、「大きな予算を投じて一気にやる」のではなく、「小さく始めて効果を確認しながら投資を増やす」ことです。
採用マーケティングと事業成長のつながり
採用マーケティングは、単なる「応募数を増やす施策」ではありません。自社の価値を明確にし、発信する過程で、社員自身が「自社の魅力」を再認識するという副次的な効果があります。社員インタビューを作成する過程で、社員が「改めて考えると、うちの会社って良いところがあるな」と感じる。この効果は、社員のエンゲージメント向上にもつながります。
また、採用マーケティングで発信する「自社の価値」は、顧客向けのマーケティングにも活用できます。「こんな人たちが働いている会社です」という情報は、顧客の信頼にもつながります。
札幌の中小企業が採用マーケティングを始めるために、最初にやるべきことは「求人票を書き直す」ことでも「SNSを始める」ことでもありません。「自社で働くことの価値は何か」を、社員と一緒に言語化すること。この土台があってこそ、すべての発信に一貫性が生まれ、求職者の心に届くメッセージになると私は考えています。
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