北海道の観光業が直面する人材不足と、事業を伸ばす人事の考え方
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北海道の観光業が直面する人材不足と、事業を伸ばす人事の考え方

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北海道の観光業が直面する人材不足と、事業を伸ばす人事の考え方

北海道の観光業は、インバウンド需要の回復もあって好調です。ニセコ、富良野、知床、函館——北海道には世界水準の観光資源がある。

でも、現場からは悲鳴に近い声が聞こえてきます。「人が足りない」「せっかく採用してもシーズンが終わると辞めてしまう」「ベテランが抜けて、サービスの質が落ちている」。

あるリゾートホテルの人事担当者からこんな話を聞きました。「冬のシーズン前に20名採用した。でもシーズン終わりには15名しかいなかった。毎年これの繰り返し。採用にかかるコストを計算したら、シーズンごとに500万円以上使っているのに、また一からやり直しになる。何かを変えなければとはわかっているけど、何を変えればいいかわからない」と。採用し続けることへの疲弊が伝わってきました。

早期離職1人あたりのコストを計算すると、採用媒体費(数万〜数十万円)+面接・手続き工数+入職後の教育コスト(1〜2ヶ月の生産性低下)を合計すると、50〜100万円規模になることもあります。シーズン終わりに5名が離職すれば、250〜500万円のコストが翌シーズンに発生している計算です。「仕方ない」で受け入れ続けるコストを見えるようにすると、定着施策への投資判断が変わってきます。

北海道の観光業における人材の問題は、単に「人手不足」という言葉では括れない複雑さを持っています。今回は、この問題を構造的に整理して、人事の立場から何ができるかを考えてみたいと思います。


北海道の観光業の人材問題は「3層構造」になっている

まず、北海道の観光業の人材問題を整理しましょう。実は、ここには3つの異なる課題が重なっています。

第1層:現場スタッフの絶対数の不足

ホテルのフロント、レストランのサービス、スキー場のインストラクター。こうした現場スタッフの数が足りていません。特に繁忙期(冬のスキーシーズン、夏の観光シーズン)に顕著です。

北海道の場合、観光の繁閑差が非常に大きいのが特徴です。ニセコのスキーリゾートであれば、冬場は大量のスタッフが必要ですが、夏場はそこまで必要ない。この季節変動に対応する人員体制の構築は、北海道の観光業に特有の課題です。

第2層:中間管理職・マネジメント人材の不足

現場スタッフ以上に深刻なのが、現場をまとめるマネジメント人材の不足です。観光業は若年層のスタッフが多い一方で、管理職世代の層が薄い。

特に北海道の観光業では、「現場のプレイヤーとして優秀だった人が、そのままマネージャーになる」というキャリアパスが主流です。しかし、プレイヤーとして優秀なことと、マネジメントが得意であることは別の能力です。管理職育成の仕組みがないまま「なんとなく昇格」させてしまうケースが多い。結果として、中間管理職が疲弊し、離職する。その穴を埋められない。この悪循環が起きています。

第3層:経営戦略を考えられる人材の不足

最も見落とされがちなのが、この層です。「この地域の観光をどう発展させるか」「自社の事業をどう成長させるか」を経営的な視点で考えられる人材が、北海道の観光業には圧倒的に少ない。観光業は「お客様に喜んでもらう」ことが原点にありますが、それだけでは事業は持続しません。収益構造の設計、投資判断、ブランド戦略——こうした経営のスキルを持った人材の不足が、組織の成長を阻んでいます。


なぜ観光業は「人が定着しない」のか

北海道の観光業で人材が定着しない理由はいくつかありますが、根本にあるのは「キャリアの見通しの不透明さ」です。

観光業で働く人の多くは、「5年後、10年後に自分がどうなっているか」をイメージできていません。入社時は「北海道が好きだから」「観光の仕事がしたいから」というモチベーションで入ってくるけれど、数年経つと「このまま続けて、将来どうなるんだろう」という不安が出てくる。

給与水準の問題もあります。北海道の観光業の平均年収は、全産業平均と比べて低い傾向にあります。これは全国的な傾向ですが、北海道では生活コストとの兼ね合いで、さらに厳しく感じられることがある。

ただし、ここで注意したいのは、「給与が低いから人が辞める」と短絡的に考えないことです。給与は確かに重要な要素ですが、それだけが離職の原因ではない。ある観光事業者の退職者ヒアリングでは、「給与よりも、この仕事で自分が成長できているかどうかがわからなくなった」という声が多かったといいます。キャリアの見通し、成長の実感、職場の人間関係——これらが複合的に影響しています。


観光業の人事が「今すぐ」取り組むべき3つのこと

では、北海道の観光業の人事担当者は、何から手をつけるべきか。私は以下の3つを提案します。

1. 季節変動に対応する「柔軟な雇用モデル」の設計

北海道の観光業の最大の特徴は、季節による繁閑差の大きさです。通年雇用の正社員だけで人員を構成しようとすると、閑散期にコストが膨らむ。かといって、繁忙期だけのアルバイトでは、サービスの質を維持できない。

成功している観光事業者は、「通年コア人材」と「季節対応人材」を明確に分けて設計しています。通年コア人材は、閑散期に研修やスキルアップの時間を確保する。この「閑散期の学びの時間」が、彼らのキャリア発展につながり、定着率の向上にもなる。一方、季節対応人材は、複数の観光事業者間でシェアリングする仕組みを作る。「夏はA社、冬はB社で働く」という形が、北海道のいくつかの観光地で実際に始まっています。

この仕組みの経営的なメリットは大きい。通年雇用の人件費を適正化しながら、サービスの質は維持できる。地域全体で「繁忙期だけ働きたい人材」を有効活用できます。

2. 「現場→マネジメント」のキャリアパスを明文化する

観光業で長く働きたいと思ってもらうためには、「この会社で、このポジションから、次にこのステップに進める」という道筋を見せることが不可欠です。

具体的には、以下のようなキャリアラダーを作成します。

  • レベル1:現場スタッフ(入社1〜2年目)
  • レベル2:シニアスタッフ/トレーナー(3〜4年目)
  • レベル3:チームリーダー(5〜6年目)
  • レベル4:部門マネージャー(7年目〜)
  • レベル5:事業責任者(10年目〜)

各レベルで求められるスキル、経験、待遇を明確にする。そして、レベルアップに必要な研修や機会を会社として提供する。こう書くと「大企業みたいで、うちには合わない」と思う方もいるかもしれません。でも、5人の会社でも、「あなたは今ここにいて、次はここを目指しましょう」と示すことはできるはずです。

3. 「北海道の観光を支える仕事」としてのやりがいを設計する

最後に、観光業で働くことの意味づけの話です。

北海道の観光業は、地域経済を支える基幹産業のひとつです。年間数千万人の観光客が北海道を訪れ、その経済効果は巨大です。つまり、観光業で働くということは、北海道の経済を支えているということでもある。この「仕事の社会的意義」を、社員が実感できる仕組みを作ることが重要です。

「うちのホテルには年間○万人のお客様が来て、地域に○億円の経済効果を生んでいる」「お客様の満足度が○ポイント上がったことで、リピート率が○%改善し、地域全体の宿泊数増加に貢献している」。こうした数字を社員と共有することで、自分の仕事が地域にどんな影響を与えているかが見えるようになる。「お客様の笑顔がやりがい」という精神論だけでは、長期的なモチベーションは維持できません。経営数字と現場の仕事をつなげて見せることで、初めて「やりがい」が持続可能なものになります。


よくある失敗パターンと対処法

「繁忙期に採用してシーズン後に別れる」の繰り返し:単発採用・単発離職のサイクルに入ると、採用コストが積み上がるだけで組織力は育ちません。まず「通年で一緒に働きたいコア人材は誰か」を特定し、その人たちの定着に集中投資することが、サイクルを断ち切る第一歩です。

「面接で人柄だけを見て採用する」:観光業では「明るい人」「接客好きな人」が好まれますが、それだけで採用を決めると、ストレス耐性や業務習得の速さとのミスマッチが起きやすい。「繁忙期の長時間稼働に耐えられるか」「複数の業務を短期間で覚えられるか」という実務場面を想定した質問を面接に加えるだけで、ミスマッチが減ります。

「退職者に何も聞かずに終わる」:退職した人に「なぜ辞めたか」を聞くのは気まずいと感じる企業も多い。しかし退職者からのフィードバックは、最も率直な組織の現状把握です。「今後の採用改善のためにお聞きしたい」という姿勢で短時間のアンケートや電話ヒアリングを行うと、次の採用・定着施策の素材が得られます。


観光業の人事は「地域の人事」でもある

北海道の観光業の人材問題は、一社だけで解決できるものではありません。地域全体の課題として捉える視点が必要です。

先ほど触れた人材シェアリングもそうですが、地域内の観光事業者同士が連携して人材育成に取り組む動きは、今後ますます重要になります。合同研修の実施、管理職候補の相互交流、インターンシップの共同運営——こうした取り組みは、個社のコスト負担を軽減しながら、地域全体の人材力を底上げします。

観光業の人事担当者には、自社の人事だけでなく「地域の人事」という視野を持ってほしい。それが結果的に、自社の人材確保にもつながるからです。「この地域で働きたい」と思われる地域にすることが、一企業では達成できない採用力を生み出します。


北海道の観光業は「人」で勝負できる

北海道の観光業には、他の地域にはない強みがあります。世界水準の自然環境、豊かな食文化、四季の変化の鮮やかさ。これらは簡単には真似できない固有の資源です。

でも、これらの資源を活かすのは「人」です。ホテルのサービス、レストランの料理、ガイドの案内。すべて人が提供するものです。だからこそ、人材への投資が、直接的に事業の質を向上させ、顧客満足につながり、収益の改善に結びつく。

人件費を「コスト」としてしか見ない経営は、長期的に見て縮小の道をたどります。人材への投資を「事業を伸ばすための投資」として位置づけること。北海道の観光業の人事に求められるのは、この発想の転換です。「離職を防ぐ投資」が「採用コストの削減」になり、「定着させる取り組み」が「サービス品質の向上」につながる——このつながりを数字で示せる人事が、経営の信頼を勝ち取ります。


まとめ:現場の声を聞くことから始めよう

北海道の観光業の人材問題は複雑ですが、取り組みの第一歩はシンプルです。現場のスタッフに話を聞いてください。

「なぜこの仕事を選んだのか」「今、何に困っているか」「どんな将来を描いているか」。この声の中に、自社の人事施策を改善するヒントが必ずあります。

人事の仕事は、経営と現場をつなぐこと。数字と人の気持ちの両方を見ること。その積み重ねが、北海道の観光業を支える人材の基盤を作っていくはずです。「今いる人が長く活き活きと働ける組織」を作ることが、北海道の観光を未来へつなぐ最も確かな道だと思っています。

北海道の観光業の人材問題に取り組んでいる人事担当者は、しばしば孤立感を感じます。「自分の会社だけこんなに苦労しているのか」という気持ちになることもあるかもしれません。でも同じ課題に直面している人事の仲間は、北海道中にいます。自社だけで抱え込まず、地域の同業他社や異業種の人事担当者と情報共有する機会を持つことが、課題解決の視野を広げてくれます。「他の観光業の会社はどうやっているか」を聞くだけで、自社への適用可能なアイデアが見つかることがあります。人材の問題は、一社で閉じるより地域でつながることで、解決の可能性が広がります。


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