制度を「作る」より「機能させる」方が難しい——北海道の現場で人事制度を根付かせるために
制度設計・運用

制度を「作る」より「機能させる」方が難しい——北海道の現場で人事制度を根付かせるために

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制度を「作る」より「機能させる」方が難しい——北海道の現場で人事制度を根付かせるために


1. 冒頭:読者のモヤモヤを言葉に

人事制度を整えたはずなのに、なぜか現場に浸透しない——そういう経験をしたことはないでしょうか。

就業規則を改定した。評価シートを新しくした。賃金テーブルを見直した。コンサルタントに入ってもらって、それなりの時間とコストをかけた。でも半年後に現場を見てみると、「制度があるのに使われていない」「誰も新しいルールを知らない」「管理職が旧来のやり方でやっている」という状況になっていた。

ある観光業の人事担当者が打ち明けてくれたことがあります。「コンサルタントに評価制度を作ってもらうのに200万円かけた。でも完成した翌月から、現場の管理職が"よくわからない"と言って旧来のやり方に戻してしまった。結局、また一から説明に回る羽目になった」と。制度設計の費用と、浸透させる工数——どちらを先に考えるかが大切だと改めて思わされた話でした。

制度設計の難しさは、「作る」ことよりも「機能させる」ことにあると感じています。特に北海道の中小企業では、制度を定着させるための体制や時間が限られている中で、「いかに現場に根付かせるか」というリアルな問いに向き合っている人事担当者が多いのではないでしょうか。


2. 北海道ならではの文脈

北海道の産業・組織文化を踏まえると、制度設計・運用に関するいくつかの特有の課題があります。

農業・酪農・水産業・食品加工業では、「現場の人は制度より仕事」という空気が強い場合があります。繁忙期に制度説明会をやっても参加が難しく、閑散期に入れようとしても「今更感」が出てしまう。制度の説明タイミングの設計が、一筋縄ではいきません。繁忙期が終わって少し落ち着いた時期に、短時間で要点を伝える機会を作る——このタイミング設計が、浸透率を大きく左右します。

また、家族経営から法人化した企業や、長年「慣習」で動いてきた中小企業では、新しい制度の導入に対して「今まで通りでいいじゃないか」という抵抗感が生まれやすい。経営者自身が「制度を変えたいが、古参社員への影響が心配」という状態であることも少なくありません。制度変更は、現場の感情的な抵抗と向き合いながら進める必要があります。

UIターン・移住者が増えている職場では、「都市部では当たり前の制度がここにはない」というギャップを感じる人材が出てくることもあります。「前の会社では有給が自由に取れた」「育休を取れる環境だと聞いていたのに」——こうした声が早期離職のきっかけになることがあります。制度の整備は、外部からの人材獲得と定着に直接影響します。

一方、北海道は観光・農業・ITなど多様な産業が並立しており、それぞれに「業界の標準」が異なります。制度設計においても「他社はどうやっているか」の参照先が分散していて、ベンチマークが難しいという面もあります。


3. なぜ今この課題が重要か

制度設計・運用の整備が遅れると、組織に複数のリスクが生まれます。

まず、法的リスクです。労働法制は毎年のように改正されており、就業規則や労使協定が現行法の要件を満たしていない場合、労働基準監督署からの指導対象となる可能性があります。就業規則の法定記載事項が不足している場合や、変形労働時間制の協定届出が整っていない場合など、気づかないうちに法的リスクを抱えていることがあります。

次に、人材定着リスクです。制度が整っていない組織では、「この会社は自分を大切にしてくれているのか」という不安が若手を中心に広がりやすい。特に昨今は、入社前に「有給休暇の取得状況は?」「育児休業は取れますか?」という質問が当たり前になっており、「制度が整っています」と具体的に答えられるかどうかが採用競争力に直結します。制度の不備が1件の採用辞退を招くと、採用コスト(80〜150万円)を無駄にすることになります。

さらに、マネジメントコストのリスクもあります。制度が曖昧だと、個別対応が増えます。「この社員には特別に○○を認めた」という前例が積み重なると、次第に対応の一貫性が保てなくなり、管理職の判断負荷が上がります。「ルールを明確にする」ことは、実は現場の管理職を守ることでもあります。


4. 実践に向けた3つの視点

視点1:「現場が使いやすい」を優先した設計

制度設計の失敗の多くは、「理想を詰め込みすぎた」ことによります。精緻で美しい制度も、現場が理解できなければ使われません。

「シンプルで、誰でも理解できる」ことを設計の最優先条件にすることで、運用コストが下がり、制度の浸透速度が上がります。たとえば評価制度なら、等級数を絞る、評価項目を5つ以内に絞る、数値目標と行動目標を明確に分けるなど、「使える設計」への工夫が必要です。「完璧な制度」より「現場に使い続けてもらえる制度」の方が、組織には価値があります。

視点2:「制度の言語化」と「伝える仕組み」をセットにする

どれだけ良い制度を作っても、「現場に伝わる仕組み」がなければ意味がありません。就業規則を作って終わりではなく、「社員が自分で調べられるQ&A集を作る」「入社時のオリエンテーションで制度説明の時間を設ける」「年に一度、制度の確認タイムを設ける」といった、「伝え続ける」仕組みが必要です。

特に北海道では、農繁期の多い産業では「繁忙期を避けた制度説明の機会設計」が重要です。制度を伝えるカレンダーを年間で組んでおくことで、「伝えるタイミングを逃した」という事態を防げます。「制度を1回説明した」ではなく、「制度を社員が使えるようになった」を目標にすることが大切です。

視点3:制度の「効果検証」を定期的に行う

制度は作ったら終わりではなく、「機能しているか」を確認し続けることが大切です。「有給取得率が変わったか」「残業時間は減ったか」「評価への納得感サーベイのスコアはどうか」——制度の設計意図に沿った指標を定めて、定期的に追うことで、制度の改善が可能になります。

改善のサイクルを持つ組織は、制度が時代とともに更新され続けます。固定化した制度が10年後に「時代遅れ」になっているという状況を防ぐためにも、「見直す前提」で設計することが重要です。「この制度を入れて1年後に何が変わったかを確認する」という約束を最初から入れることが、制度を生きた仕組みにする鍵です。


5. 事例・エピソード:ある北海道の観光関連企業の制度整備

ある北海道の観光関連企業では、人員が増えるにつれて「誰が何の待遇を受けているのかわからない」という状態が続いていました。正社員・契約社員・アルバイトが混在し、それぞれの待遇が「なんとなくの慣習」で決まっていたため、不公平感が出始めていました。「あの人だけなぜ手当が違うのか」という声が、管理職のもとに頻繁に届くようになっていました。

人事担当者が着手したのは、「今何がどうなっているかを全部書き出す」という現状整理からでした。就業規則・給与規程・各種手当の実態を一覧化し、「これは制度として明文化されているか」「法的に問題がないか」を確認。その上で、「緊急対応が必要なもの」「今期中に整備するもの」「来期以降に整備するもの」と優先順位を付けて段階的に整備しました。

全部を一気に変えるのではなく、「今最も問題が出ているところから手をつける」という順序が重要だったといいます。1年かけて基本的な制度を整えた結果、管理職の「例外対応」が月30件程度から5件以下に減少。「なぜあの人だけ特別扱いなのか」という不満も激減しました。採用面接でも「制度が整っている」と自信を持って説明できるようになり、UIターン候補者からの評価が改善されたと報告されています。


6. よくある失敗パターン

「コンサルタント任せで、社内に知見が残らない」:外部コンサルタントに制度設計を委ねること自体は悪くありません。ただ、「コンサルが作った制度を引き継いで運用する」という状態では、改善や変更の際に再び外部依存になります。作る過程に人事担当者が関与し、「なぜこの設計なのか」を理解しておくことが重要です。コンサルへの投資を「知識の移転」として活用できるかどうかが、その後の運用の質を決めます。

「経営の意思が入っていない制度になる」:人事主導で制度を作っても、経営者が「よくわからないが承認した」という状態だと、後から「この制度は違う」という声が出てきます。制度の設計段階で、「この制度で実現したい組織のビジョン」を経営と合意しておくことが、後の安定運用につながります。「経営者が説明できる制度」かどうかが、現場への浸透速度を左右します。

「制度変更の影響を計算していない」:給与制度や評価制度の変更は、人件費の増減に直結します。設計の段階でシミュレーションをせずに導入し、「想定外のコスト増になった」というケースがあります。制度設計は財務への影響試算とセットで行う習慣が必要です。「この制度を導入すると人件費がどう変わるか」を1枚の試算表で示すことで、経営の承認も得やすくなります。


7. 「事業を伸ばす人事」を北海道から

制度設計・運用は「守りの仕事」に見えますが、実は組織の信頼の土台を作る仕事です。制度が整っている組織は、社員が安心して働け、マネージャーが公平に判断でき、採用で選ばれやすくなります。制度の整備が「人を大切にしている会社」というシグナルになる時代です。

北海道の企業でも、制度の整備が進んでいる会社が増えています。「大企業がやること」ではなく、「今の人員規模でできる制度設計」を積み上げていくことが、組織の成熟につながっていきます。10名でも50名でも、「規模に合った制度を丁寧に作る」ことはできます。

人事担当者が「制度を守る人」から「制度を育てる人」へと視点を変えることで、制度運用の仕事の質が変わってくると思っています。制度が機能することで組織が安定し、その安定が事業の成長を支えていく——その連鎖を作る役割が、北海道の人事にはあります。

北海道の中小企業は、大都市圏の企業と同じ土俵で戦う必要はありません。「この規模でできる制度設計」「この産業に合った仕組み」を丁寧に作ることで、大企業には持てない「働きやすさの具体性」を強みにできます。農業法人では農繁期に配慮した休暇設計、観光業では繁閑差に対応したシフト制度、IT企業ではリモートワーク対応のルール整備——それぞれの産業の現実に即した制度設計が、社員の安心と経営の効率を同時に高めます。

制度を整えることは、現場への投資です。「ルールが明確な職場」は、社員が「ここで長く働いていい」と思える環境の土台になります。北海道の企業が一社一社、自分たちの規模と産業に合った制度を整えていく——その積み重ねが、北海道の働く環境全体を底上げしていきます。人事担当者一人の地道な取り組みが、地域の雇用文化を変える力を持っています。


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免責事項:本記事は人事・労務管理に関する一般的な情報提供を目的としており、法的アドバイスを構成するものではありません。就業規則の適法性・労働法令への対応については、個別の状況によって判断が異なります。具体的な制度設計・法的対応については、社会保険労務士または弁護士にご相談ください。

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