北海道の中小企業がリモートワークを活用した全国採用を成功させる方法
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北海道の中小企業がリモートワークを活用した全国採用を成功させる方法

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北海道の中小企業がリモートワークを活用した全国採用を成功させる方法

「地元に人がいないなら、全国から採ればいい。リモートワークがあるんだから」

この発想自体は間違っていません。しかし、リモートワークを導入しただけで全国から優秀な人材が集まるかと言えば、そんなに甘くはありません。

私はこれまで500社以上の企業の人事を支援してきましたが、北海道の中小企業が「リモートワークを活用した全国採用」を試みて、うまくいったケースもあれば、大きく躓いたケースもあります。その差は、「リモートワーク制度の有無」ではなく、「リモート前提の組織設計ができているかどうか」にありました。

この記事では、北海道の中小企業がリモートワークを戦略的に活用し、全国から人材を採用するための考え方と実践方法を、経営数字の視点も含めてお伝えします。


なぜ北海道の中小企業が「全国採用」を考えるべきなのか

まず、そもそもなぜ全国採用なのかを整理しましょう。

北海道の労働市場の現実

北海道の生産年齢人口は減少を続けています。特に専門職——IT人材、マーケティング、経理・財務、法務——の採用は、北海道の労働市場だけでは厳しい状況です。

「札幌で経理の経験者を採用したい」と求人を出しても、応募が来ない。「旭川でWebマーケティングの担当者を採用したい」と言っても、そもそもその職種の経験者が地域にほとんどいない。この現実に直面している中小企業は少なくありません。

リモートワークが開いた可能性

コロナ禍を経て、リモートワークは「特別な働き方」から「選択肢の一つ」に変わりました。東京の企業に勤めながら地方に住む人も増えています。この流れは、北海道の中小企業にとって大きなチャンスです。

「北海道に住んでいなくても、北海道の企業で働ける」——この選択肢を提示するだけで、採用候補者の母数は何倍にもなります。実際に、ある札幌の企業では、リモート勤務可の求人に切り替えたところ、応募数が5倍に増えたという実績があります。

経営数字で見るリモート全国採用のメリット

全国採用のメリットを、経営数字の視点から整理します。

  1. 採用コストの適正化:地元で採用できず人材紹介会社を使うと、1人あたり年収の30〜35%の紹介料が発生。年収500万円なら150〜175万円。リモート前提で直接応募を増やせば、このコストを大幅に削減できる可能性がある
  2. 人件費の柔軟性:東京在住のリモートワーカーを北海道の給与水準で雇うことは難しいが、北海道の企業が「東京よりやや低いが、通勤なし・地方移住支援あり」という条件を出せば、東京の大手企業からの転職者にとっても魅力的な選択肢になり得る
  3. オフィスコストの削減:全員分のオフィススペースが不要になれば、固定費を削減できる。その分を人件費や採用ブランディングに投資できる

リモート全国採用で失敗する企業の共通点

メリットがある一方で、リモート全国採用がうまくいかない企業も多い。失敗パターンを整理しておきます。

失敗パターン1:「制度だけ」導入する

「リモートワーク制度を作りました」と言いながら、実態は「週4日出社、金曜日だけリモート可」。これでは全国採用の意味がありません。全国から人を採るなら、「基本リモート」が前提でないと成立しません。

「でも、うちの仕事はリモートだけでは回らない」——こう感じる方もいるでしょう。たしかに、全業務をリモート化するのは難しい。しかし、「すべての業務をリモートにする」のではなく、「リモートでできる業務を切り出して、その業務を担当する人材を全国から採用する」という発想が重要です。

失敗パターン2:コミュニケーション設計をしない

「リモートだから自由に働いてください」——この放任が、最も危険です。リモートワークでは、オフィスにいれば自然に発生する「雑談」「すれ違い際の情報共有」「表情から読み取る体調変化」がなくなります。

これを補うためのコミュニケーション設計がないまま全国採用を始めると、リモートワーカーは孤立し、情報から取り残され、結果的に早期離職につながります。

失敗パターン3:評価制度がリモートに対応していない

「見えないから評価できない」——これはリモートワークの最大の壁の一つです。出社していれば「あの人は遅くまで頑張っている」という目視確認ができますが、リモートではそれができません。

しかし、考えてみてください。「遅くまでオフィスにいる=頑張っている」という評価は、そもそも正しいのでしょうか。リモートワーク導入を機に、「労働時間」ではなく「成果」で評価する仕組みに移行することは、組織全体の生産性向上にもつながります。

失敗パターン4:「来てもらえる前提」の組織文化

「普段はリモートでいいけど、月に1回は札幌に来てね」——この条件を全国採用の求人に付けている企業があります。悪くはないのですが、「月1回の出張」のコストと、その出張がどの程度の価値を生んでいるかを冷静に計算すべきです。

九州に住む社員が月1回札幌に来る場合、交通費と宿泊費で1回あたり5〜8万円。年間で60〜96万円。この金額に見合う効果が「月1回の対面」にあるかどうか。場合によっては、「四半期に1回、2泊3日で濃密な対面の時間を過ごす」ほうが、コスト面でも効果面でも合理的かもしれません。


リモート前提の組織設計——5つの柱

全国採用を成功させるには、「リモート前提の組織設計」が不可欠です。

柱1:業務の「見える化」と「非同期化」

リモートワークの基盤は、業務の見える化です。「誰が、何を、いつまでに、どこまでやるか」が可視化されていなければ、リモートでの協働は成り立ちません。

プロジェクト管理ツール(Asana、Notion、Backlogなど)の導入は最低条件です。しかし、ツールを入れただけでは不十分で、「タスクを登録するルール」「進捗を更新するタイミング」「レビューのフロー」を明確に定めることが必要です。

もう一つ重要なのが「非同期化」です。全員が同じ時間にオンラインである必要はない、という考え方。ドキュメントにコメントを残し、相手が都合の良い時に確認・返信する。この非同期コミュニケーションが機能すれば、時差のある場所(たとえば海外)からの参加も可能になります。

柱2:コミュニケーションの「場」の設計

リモートワークで最も失われやすいのが、「偶発的なコミュニケーション」です。オフィスでたまたま廊下ですれ違って話す、ランチの席で雑談する——これらの「計画されていないコミュニケーション」が、情報共有やチームの一体感に大きく寄与しています。

リモート環境でこれを再現するための工夫を紹介します。

  • バーチャルオフィス(Gather、oViceなど):常時接続型の仮想空間で、「ちょっと話しかける」を再現する
  • 雑談チャンネル:Slackなどに「仕事の話以外」を投稿するチャンネルを設ける。「今日のランチ」「週末の過ごし方」など、人柄が見える投稿が信頼関係を築く
  • オンラインランチ:週1回、希望者がオンラインで一緒にランチを食べる。話題は自由。強制しないことが大切
  • 全体朝会:毎朝15分、全員がオンラインで集まる。業務連絡だけでなく、「今日の一言」のような軽いアイスブレイクを入れる

札幌のあるIT企業では、「バーチャルオフィス+毎朝15分の朝会+週1回の雑談タイム」の組み合わせで、リモートワーカーの孤立感を大幅に軽減しています。

柱3:成果ベースの評価制度

リモートワーカーを公正に評価するには、「プロセス(過程)」ではなく「アウトプット(成果)」に重点を置いた評価制度が必要です。

ただし、「成果だけで評価する」というのは言うほど簡単ではありません。成果が数字で測りやすい営業職や開発職はいいのですが、バックオフィス系の業務では成果の定量化が難しい場合があります。

その場合、「OKR(Objectives and Key Results)」の考え方が有効です。四半期ごとに「何を達成するか(Objective)」と「それをどう測るか(Key Results)」を設定し、その達成度で評価する。これにより、「頑張っている姿が見えないから評価できない」という問題を回避できます。

柱4:オンボーディングの体系化

全国からリモートで入社する社員にとって、最初の1〜3ヶ月が最も不安な期間です。オフィスに来れば先輩に質問できますが、リモートでは「誰に聞けばいいかわからない」「こんなことを聞いたら迷惑かもしれない」と躊躇してしまう。

リモート前提のオンボーディングでは、以下の仕組みが効果的です。

  • メンター制度:入社1〜3ヶ月は専属のメンターをつける。毎日15分の1on1で「困っていることない?」と確認する
  • オンボーディングドキュメント:社内の暗黙知をすべて文書化する。「こういう時はこうする」「この用語の意味はこう」——入社者が自分で調べられるドキュメントがあると、質問のハードルが下がる
  • 初月の出社ウィーク:入社後最初の1週間だけは本社に来てもらい、対面でチームメンバーと関係を構築する。この「最初の対面」があるかないかで、その後のリモートコミュニケーションの質が大きく変わる

柱5:セキュリティとコンプライアンス

全国にリモートワーカーがいるということは、会社の情報が全国に分散するということです。セキュリティ対策は必須です。

  • VPNの導入と利用の義務化
  • 端末管理ツール(MDM)の導入
  • 情報セキュリティ研修の実施(入社時・年1回)
  • 個人情報取り扱いガイドラインの整備

「中小企業だからセキュリティはそこまで」という認識は危険です。リモートワーカーが増えるほど、情報漏洩のリスクは高まります。コストは最低限の投資として織り込む必要があります。


北海道の中小企業がリモート全国採用で成功した事例

事例1:札幌のWeb制作会社(従業員20名)

この会社は、コロナ禍をきっかけに完全リモートに移行し、全国採用を開始しました。現在、札幌本社のメンバーが10名、全国各地のリモートワーカーが10名です。

採用の仕組みとして特徴的なのは、「1週間のトライアル勤務」です。正式採用の前に、1週間だけリモートで実際の業務を体験してもらう。報酬も支払います。この期間で、スキルだけでなく「リモートでの働き方にフィットするか」を双方が確認できます。

経営面では、オフィスを縮小したことで年間180万円の固定費を削減。その分を採用ブランディングと社員のリモート環境整備補助に充てています。

事例2:帯広のマーケティング支援会社(従業員8名)

帯広に本社を構える小さなマーケティング会社です。地元ではマーケティングの専門人材が採用できなかったため、東京と大阪からリモートで2名を採用しました。

この会社のユニークな取り組みは「季節ごとの合宿」です。春夏秋冬、年4回、全社員が帯広に集まり、2泊3日で過ごします。仕事もするが、十勝の自然を楽しむ時間も確保する。この「年4回の対面」が、リモートワーカーの帰属意識を維持する重要な役割を果たしています。

リモートワーカーの2名は「東京にいた時より仕事の充実感がある。小さな会社だからこそ、自分の貢献が見えやすい」と話しています。

事例3:旭川のソフトウェア開発会社(従業員35名)

旭川を拠点にしながら、北海道内と本州に合計15名のリモートワーカーを擁する企業です。

この会社が全国採用で重視しているのは「自走力」です。リモートワークでは、指示を待つのではなく、自分で判断して動ける人材が求められます。採用面接では技術力だけでなく、「これまで自分で考えて動いた経験」を重点的にヒアリングしています。

また、リモートワーカーの評価に「チームへの貢献度」を含めているのも特徴的です。タスクを完了するだけでなく、「ドキュメントを整備した」「他のメンバーの質問に答えた」「改善提案をした」——こうした「チームへの貢献」を評価対象にすることで、リモートワーカーが孤立せず、チームの一員として機能しています。


リモート全国採用の「落とし穴」と対策

最後に、よくある落とし穴と、その対策を整理しておきます。

落とし穴1:「安いから地方企業を選ぶ」人材を採ってしまう

全国採用では、「リモートで楽に稼ぎたい」という動機の応募者も混じります。こうした人材は、より条件の良い企業が見つかればすぐに転職します。

対策:採用面接で「なぜ当社を選ぶのか」を深掘りする。自社の事業や理念に共感しているか、リモートワークという「手段」だけに惹かれていないかを見極めることが重要です。

落とし穴2:リモートワーカーと出社メンバーの「分断」

本社で出社しているメンバーとリモートワーカーの間に、情報格差や心理的な距離が生まれるケースがあります。「本社の人たちだけで話が進んでいて、リモートの自分は置いてけぼり」——この感覚が蓄積すると、離職につながります。

対策:すべての会議をオンラインで行う(出社メンバーも各自のPCから参加する)、重要な決定はすべてドキュメントに残す、「対面でしか共有されていない情報」をなくす。

落とし穴3:労務管理の複雑化

全国にリモートワーカーがいると、労務管理が複雑になります。労働時間の管理、通勤手当の代わりのリモート手当、労災の適用範囲——これらを事前に整備しておく必要があります。

対策:就業規則にリモートワーク規程を追加し、労働時間の記録方法、費用負担のルール、安全衛生に関する責任分担を明確にしておく。社会保険労務士に相談して、法的リスクを最小化することをお勧めします。


まとめ:リモート全国採用は「組織の再設計」

北海道の中小企業がリモートワークを活用して全国から人材を採用することは、「リモートワーク制度を導入する」という単発の施策ではありません。組織のコミュニケーション、評価、オンボーディング、セキュリティ——すべてを「リモート前提」で再設計する取り組みです。

しかし、その投資に見合うリターンは大きい。採用候補者の母数が何倍にもなり、北海道にいながら全国の優秀な人材と一緒に働ける。そして、リモート前提の組織設計は、結果的にすべての社員にとって働きやすい環境を作ることにもなります。

北海道の中小企業が持つ「地域に根ざした事業」「温かい組織文化」「豊かな自然環境」——これらの強みは、リモートでも十分に伝わります。そして、「この会社の仕事を、自分の好きな場所からやりたい」と思ってもらえれば、地理的な制約は採用の壁ではなくなるのです。

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