
北海道の建設業が「働きたい会社」に変わるための組織開発——現場の力と経営の力を両方活かす
北海道の建設業が「働きたい会社」に変わるための組織開発——現場の力と経営の力を両方活かす
「若い人に"建設業はやめとけ"と言われる時代が、一番つらいですよ」
苫小牧の建設会社の現場監督が、忘年会の席でこぼした言葉が忘れられません。建設業は北海道の基幹産業の一つです。道路、橋、建物、港湾——北海道のインフラを支えているのは建設業です。しかし、その建設業が「働きたくない業界」の代名詞のように言われている現実があります。
私はこれまで500社以上の企業の人事に関わってきましたが、建設業の人材課題は、単に「きつい仕事だから人が来ない」というレベルの話ではありません。業界全体の構造的な問題であると同時に、個社の組織マネジメントの問題でもあります。
この記事では、北海道の建設業が「働きたい会社」に変わるための組織開発について、経営の数字と現場の実態の両面から考えていきます。
建設業の人材問題を構造的に理解する
北海道の建設業が抱える人材問題は、複数の構造的要因が絡み合っています。
要因1:高齢化と若手不足の二重苦
建設業就業者の高齢化は深刻です。北海道では、建設技能者の平均年齢が50代に達している企業も珍しくありません。一方で、若手の入職者は減少を続けています。
この「ベテランの大量退職」と「若手の入職減少」が同時に進行することで、技術の断絶が起きるリスクが高まっています。
要因2:「4K」のイメージ
きつい、汚い、危険、給料が安い——建設業に対するこのイメージは根強い。実態が改善されてきている部分もあるのですが、イメージの更新が追いついていません。
ただし、ここで注意したいのは、「イメージ戦略」だけではダメだということです。イメージを変えるには、まず実態を変える必要がある。実態が変わらないままイメージだけ良くしても、入社後のギャップで離職するだけです。
要因3:季節性と天候依存
北海道の建設業は、冬季の工事制約が大きい。積雪と凍結により、11月から3月は屋外工事が大幅に制限されます。この季節性が、雇用の不安定さにつながっています。
一方で、春から秋にかけては人手が足りず、長時間労働になりがち。この「忙しすぎる時期」と「暇すぎる時期」の落差が、労働環境の悪化を招いています。
要因4:重層下請構造
建設業特有の重層下請構造は、末端の作業員の待遇に影響を及ぼしています。元請から一次下請、二次下請、三次下請と仕事が流れていく中で、マージンが差し引かれ、最終的な作業員の賃金が抑えられる構造です。
この構造自体を一社で変えることは難しいですが、自社の中で公正な待遇と成長機会を提供することは可能です。
「働きたい会社」の条件——建設業版
「働きたい会社」を建設業の文脈で考えると、以下の条件が挙げられます。
条件1:休みが取れる
週休2日制の導入が建設業の大きなテーマです。国土交通省も発注者としての立場から週休2日工事を推進していますが、民間工事も含めた完全な週休2日の実現は道半ばです。
しかし、ここで「業界全体が変わらないとうちだけでは無理」と言って止まっている企業と、「うちからやる」と決めて実行している企業では、採用力に大きな差が出ています。
函館の建設会社では、3年前から4週8休(月に8日休み=週休2日相当)を実現しています。工期の設定段階から休日を織り込み、適切な人員配置と工程管理で対応しています。「最初は"工期に間に合わない"と心配したが、実際にやってみると、社員の集中力が上がって生産性も向上した」と社長は語っています。
条件2:スキルが身につく
若手が建設業を選ぶ理由の一つに、「手に職がつく」があります。この「手に職」が具体的にどんなスキルで、どういう順序で身につくかを示すことが、採用と定着の両方に効きます。
スキルマップの例:
- 1年目:基本的な作業技能、安全管理の基礎、図面の読み方
- 3年目:特定工種の主担当、現場の段取り、後輩指導の基礎
- 5年目:複数工種の管理、品質管理、工程管理の基礎
- 10年目:現場監督、原価管理、顧客対応
このスキルマップに対応する資格取得支援(施工管理技士、技能検定など)も組み合わせることで、「この会社にいれば確実にスキルアップできる」という確信を持ってもらえます。
条件3:給与が納得できる
建設業の給与は「日給月給」が多く、「働いた日数で収入が変わる」構造です。天候不良や工事の端境期には収入が減る。この不安定さが、若手の入職を妨げています。
月給制への移行は、安定した収入を保証する第一歩です。加えて、スキルレベルに応じた技能手当、資格手当、現場手当を組み合わせることで、「何をすれば収入が上がるか」を明確にできます。
条件4:安全が守られている
建設業の最大のリスクは事故です。安全に対する投資と意識は、「働きたい会社」の絶対条件です。
安全を「コスト」ではなく「投資」と捉える視点が重要です。労災事故が発生した場合のコスト——治療費、休業補償、工事の中断、元請からの信頼低下——を計算すると、安全対策への投資は十分にペイします。
組織開発の実践——現場と経営をつなぐ
建設業の組織開発で最も重要なのは、「現場」と「経営」の距離を縮めることです。
取り組み1:経営数字の共有
現場の作業員は、自分の仕事が会社の経営にどう貢献しているかを知る機会がほとんどありません。「この現場の工事で、会社にいくらの利益が出るのか」「自分たちが1日早く工事を終えると、どれだけのコスト削減になるのか」——これらの数字を共有することで、「ただ言われたことをやる」から「経営に参画する」意識への転換が起きます。
帯広の建設会社では、各現場の原価と利益を現場監督に開示し、さらに作業員にも概算で共有しています。「この現場は予算○○万円で利益目標は○○万円。資材の無駄を減らせば利益が増え、それが賞与に反映される」——この情報共有が、作業員の主体性を引き出しています。
取り組み2:現場からの改善提案制度
現場の作業員は、日々の作業の中で「もっとこうすれば効率が良いのに」「この手順は危険だ」という気づきを持っています。しかし、それを経営に伝える仕組みがなければ、気づきは個人の中に留まります。
改善提案制度を導入し、現場からのアイデアを吸い上げ、良い提案には報奨を出す。この仕組みが、「現場の声が経営に届く」という実感を生みます。
北見の建設会社では、月間改善提案の最優秀案に1万円の賞金を出しています。金額は大きくないですが、「自分のアイデアが認められた」という承認の効果が大きい。提案制度を始めてから、ヒヤリハット報告も増え、安全意識の向上にもつながっています。
取り組み3:若手の声を聴く仕組み
若手社員が「辞めたい」と思ってから実際に退職届を出すまでの間に、何度かの「サイン」があります。遅刻の増加、口数の減少、ミスの増加——これらのサインに早期に気づくためには、若手との定期的な対話が必要です。
建設業では、現場が分散しているため、上司と部下が毎日顔を合わせるとは限りません。月に1回の1on1ミーティングを制度化し、「仕事のこと」だけでなく「体調」「プライベート」「将来のこと」も含めた対話を行うことで、離職の予兆を早期にキャッチできます。
取り組み4:ICTの活用による生産性向上
建設業のICT化は、「働きたい会社」への変革の重要な要素です。ドローンによる測量、BIM/CIMの活用、ICT建機の導入——これらは生産性を向上させるだけでなく、「最先端の技術を使っている」というイメージを若手に訴求できます。
「建設業って、こんなにテクノロジーを使うんですね」——ICT現場を見学した学生がこう驚くケースが増えています。ICT化は、生産性向上と採用力強化の一石二鳥です。
事例:組織変革に成功した北海道の建設会社
事例1:札幌の総合建設会社(従業員100名)
この会社は5年前から「働き方改革プロジェクト」を推進しています。
主な取り組みは以下の通りです。
- 4週8休の完全実施(繁忙期含む)
- 全現場でICT建機を導入し、作業効率を30%向上
- 月給制への完全移行
- キャリアパスの明示と資格取得支援(費用全額負担)
- 若手向けメンター制度の導入
結果として、若手(30歳以下)の応募数が3年前の2.5倍に増加。離職率は18%から8%に低下。さらに、生産性の向上により工事の利益率も改善しています。
「働き方を変えるとコストが増える」と思われがちですが、この会社では、離職減少による採用コストの削減と、ICT化による生産性向上が、働き方改革のコストを上回る効果を生んでいます。
事例2:旭川の専門工事会社(従業員30名)
とび・土工の専門工事会社です。「若手が入ってこない。入っても3年以内に辞める」という状態が続いていました。
転機は、ベテラン職人が「自分たちの仕事の価値をもっと発信したい」と言い出したことです。社内で「建設の仕事の魅力発信プロジェクト」を立ち上げ、YouTubeチャンネルで職人の仕事風景を発信し始めました。
高所作業のダイナミックさ、鉄骨を組み上げる精密さ、完成した建物を見上げる達成感——これらを映像で発信したところ、思わぬ反響がありました。「かっこいい」「こういう仕事がしたい」というコメントが寄せられ、動画経由で2名の若手が応募してきたのです。
この事例が示しているのは、建設業の仕事には確かな魅力があるということです。問題は「魅力が伝わっていない」こと。発信の仕方を工夫するだけで、採用の状況は変わり得ます。
冬期間の活用と通年雇用
北海道の建設業にとって、冬期間の活用は通年雇用を実現するための重要なテーマです。
冬期間にできること
- 資格取得のための研修・講習
- 安全教育・技術研修
- ICTスキルの習得(ドローン操作、BIMソフトの操作)
- 来期の施工計画の策定
- 営業活動(次年度の受注獲得)
- 除雪業務(冬ならではの収入源)
冬期間を「休みの期間」ではなく「成長の期間」「準備の期間」と位置づけることで、通年雇用の意味が生まれます。
まとめ:建設業は「変われる」
北海道の建設業が「働きたい会社」に変わることは、決して不可能ではありません。週休2日の実現、月給制への移行、ICTの活用、経営数字の共有、キャリアパスの明示——これらの取り組みは、すでに実践している企業があります。
重要なのは、「業界が変わるのを待つ」のではなく、「自社から変える」という姿勢です。先に変えた企業が、採用市場で有利になる。後から追いかける企業は、ますます人材確保が困難になる。
建設業は、人の暮らしを支えるインフラを作る、社会的意義の大きな仕事です。その仕事に就く人たちが、誇りを持ち、成長を実感し、安全で健康に働ける環境を作ること。それが、北海道の建設業が今取り組むべき組織開発のテーマです。
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