北海道の企業がダイバーシティ推進で事業成長につなげる方法——「やさしさ」ではなく「経営戦略」として
制度設計・運用

北海道の企業がダイバーシティ推進で事業成長につなげる方法——「やさしさ」ではなく「経営戦略」として

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北海道の企業がダイバーシティ推進で事業成長につなげる方法——「やさしさ」ではなく「経営戦略」として

「ダイバーシティ?うちは北海道の小さな会社だから、そういうのは大企業の話でしょう」

釧路の水産加工会社の社長から言われた言葉です。正直なところ、北海道の中小企業の多くが、ダイバーシティ(多様性)推進を「自分事」として捉えていないのが現状です。

しかし、私はこれまで500社以上の企業の人事に関わってきた経験から、断言できることがあります。ダイバーシティ推進は「やさしさ」や「社会的な正しさ」のためだけのものではありません。事業の成長と直結する「経営戦略」です。そして、人口減少が進む北海道の中小企業こそ、ダイバーシティの恩恵を最も受けられる立場にあります。

この記事では、北海道の企業がダイバーシティをどう事業成長につなげるか、具体的な実践方法を考えていきます。


北海道の企業にとってのダイバーシティとは何か

ダイバーシティというと、「女性活躍」「外国人雇用」「障がい者雇用」といったテーマが頭に浮かぶかもしれません。それらは確かにダイバーシティの重要な要素ですが、もう少し広く捉える必要があります。

ダイバーシティの3つの層

  1. 属性の多様性:性別、年齢、国籍、障がいの有無。目に見えやすい多様性
  2. 経験の多様性:職歴、出身地、教育背景。異なる経験を持つ人が集まること
  3. 思考の多様性:考え方、価値観、問題へのアプローチ。同じものを見ても異なる解釈をすること

この3つの層はつながっています。属性や経験の多様性があれば、思考の多様性が生まれやすい。そして、思考の多様性こそが、イノベーションや事業の新しい展開を生む源泉です。

北海道の中小企業とダイバーシティの接点

北海道の中小企業を取り巻く環境を考えると、ダイバーシティは避けて通れないテーマです。

  • 人口減少:同じ属性の人材だけを求めていては、そもそも人が集まらない
  • 外国人観光客の増加:多言語・多文化への対応が事業上の必要性になっている
  • 外国人労働者の増加:農業、水産加工、介護——外国人技能実習生や特定技能者が不可欠な産業が増えている
  • 高齢化社会:シニア人材の活用が、労働力の確保と技術承継の両面で重要

ダイバーシティは「やるかやらないか」の選択肢ではなく、「どう取り組むか」の問題なのです。


ダイバーシティが事業成長に寄与する経営的な根拠

「多様性が大事なのはわかる。でも、経営的にどんなメリットがあるのか」——この問いに対して、数字で答えることが重要です。

根拠1:採用候補者の母数が広がる

ダイバーシティに取り組んでいない企業は、暗黙のうちに採用ターゲットを絞っています。「30代の男性で、この業界の経験がある人」——この条件を設定した時点で、候補者の99%を排除しています。

条件を「業界未経験でも意欲がある人」「性別・年齢不問」「外国籍OK」と広げるだけで、候補者の母数は何倍にもなります。人口減少の北海道では、この「母数の拡大」が採用の成否を分けます。

根拠2:多様な顧客への対応力が高まる

北海道の観光業を例に考えましょう。インバウンド観光客の国籍は多様化しています。中国、韓国、台湾、東南アジア、欧米——それぞれの文化背景やニーズを理解するには、多様な視点を持つスタッフが必要です。

外国籍のスタッフがいることで、「この国のお客様はこういうサービスを好む」「この国の文化ではこういう配慮が必要」という知見が組織内に蓄積されます。これは、外国人スタッフの「言語能力」以上に価値のある貢献です。

根拠3:イノベーションの確率が高まる

同質的なメンバーで構成されたチームは、「今まで通りのやり方」を維持するのは得意ですが、新しい発想を生み出すのは苦手です。異なる背景を持つメンバーが議論することで、「今までにない視点」が生まれやすくなります。

ある研究では、多様性の高いチームは同質的なチームと比較して、イノベーティブなアイデアの創出確率が45%高いというデータがあります。

根拠4:離職率の低下

ダイバーシティに取り組んでいる企業は、「多様な人を受け入れる文化」を持っています。この文化は、結果的にすべての社員にとって働きやすい環境を作ります。「異質な存在」を排除する文化は、いつか自分も排除される恐れを全員に感じさせるからです。

包摂的な(インクルーシブな)組織文化は、社員のエンゲージメントを高め、離職率を低下させます。


北海道の企業が取り組むべきダイバーシティの5つの領域

領域1:女性の活躍推進

北海道の中小企業における女性管理職比率は、まだまだ低い水準です。しかし、「女性を管理職にする」こと自体が目的ではありません。女性が持つ能力と視点を、組織の意思決定に反映させることが目的です。

具体的な取り組みとしては以下が挙げられます。

  • 柔軟な働き方の整備:時短勤務、フレックスタイム、在宅勤務の選択肢。これらは女性だけでなく、すべての社員の働きやすさにつながる
  • 育児と仕事の両立支援:育児休業からの復帰プログラム、復帰後のキャリア面談。「育休を取ったら出世できない」という暗黙のペナルティをなくす
  • 無意識のバイアスへの対処:「女性はこういう仕事が向いている」「男性はこういう役割」という固定観念に気づき、修正するための研修

札幌の食品メーカーでは、女性のパート社員から正社員への転換制度を設け、3年間で5名がパートから正社員に転換しました。うち2名は既にリーダー職に就いています。「パートの時には気づかなかったけど、自分にはもっとできることがあった」——この言葉は、眠っていた人材を活かすことの価値を物語っています。

領域2:外国人材の活用

北海道の農業、水産加工、介護業界では、外国人技能実習生や特定技能者の存在が欠かせなくなっています。しかし、外国人材を「安い労働力」としてしか見ていない企業が残念ながらまだあります。

外国人材を「仲間」として受け入れ、成長の機会を提供し、組織に貢献してもらう。この姿勢が、外国人材の定着率と生産性を高めます。

  • 日本語教育の支援:業務に必要な日本語だけでなく、日常会話の習得もサポートする。日本語が上達すれば、仕事のパフォーマンスも上がる
  • 生活支援:住居の確保、行政手続きの支援、地域コミュニティとの接続。「仕事だけの関係」ではなく、「生活全体を支える」姿勢が大切
  • 文化的な配慮:宗教的な食事制限への対応、祝祭日への配慮。小さな配慮が、大きな信頼につながる
  • キャリアパスの提示:「技能実習→特定技能→正社員」という成長の道筋を示す

網走の水産加工会社では、ベトナムからの技能実習生に対して、日本語教育と技術指導を体系的に行っています。修了後に特定技能として引き続き雇用し、現在はリーダー的な役割を担っている人材もいます。「彼らがいなければ、うちの工場は回らない。でもそれ以上に、彼らの成長を見ることが組織全体の刺激になっている」と工場長は語っています。

領域3:シニア人材の活用

65歳以上の就業意欲は高く、「まだ働きたい」というシニアは多い。特に北海道では、ベテランの技術や経験を持ったシニア人材が、中小企業にとって貴重な戦力になり得ます。

  • 定年後再雇用制度の充実:雇用条件の大幅な切り下げではなく、役割と報酬のバランスを考慮した再雇用設計
  • 短時間・短日勤務の導入:フルタイムは難しくても、週3日・1日5時間なら働けるシニアは多い
  • 技術指導者としての活用:若手への技術承継を主な役割とし、「教えること」を正式な仕事として位置づける

領域4:障がいのある人材の活用

障がい者雇用は法的義務であると同時に、組織の多様性を高める機会です。

「うちの仕事は障がいのある人には難しい」——こう考える企業は多いですが、仕事を分解してみると、障がいのある方にも十分に担当可能な業務が見つかることがほとんどです。

データ入力、在庫管理、清掃、農作業の一部——仕事の切り出しと適切なサポートがあれば、戦力として活躍できます。

帯広の農業法人では、知的障がいのある方3名を雇用し、選果(選別・梱包)作業を担当してもらっています。丁寧で正確な作業が評価され、「この仕事は彼らのほうがうまい」と社員が認めるまでになっています。

領域5:多様な働き方の推進

ダイバーシティは「人」の多様性だけでなく、「働き方」の多様性も含みます。

  • フルタイム、パートタイム、業務委託
  • 出社、リモート、ハイブリッド
  • 固定時間、フレックス、裁量労働

働き方の選択肢が多ければ多いほど、多様な事情を持つ人材を受け入れられます。子育て中の人、介護をしている人、副業をしている人、健康上の理由で短時間しか働けない人——これらの人材を排除するのではなく、受け入れる働き方を設計する。


ダイバーシティ推進の「壁」と乗り越え方

ダイバーシティ推進には、さまざまな壁があります。

壁1:「うちには関係ない」という意識

最大の壁は、経営者や社員の意識です。「大企業の話だ」「うちの業界には馴染まない」という先入観を変えるには、自社の経営課題と接続して説明する必要があります。

「ダイバーシティを推進します」ではなく、「人が採れない問題を解決するために、採用ターゲットを広げます」。「外国人材を活用して、インバウンド対応力を高めます」。「シニアの技術を活かして、技術承継を進めます」——経営課題の解決策として提示することで、理解が得られやすくなります。

壁2:コミュニケーションの困難

多様な人材が集まると、コミュニケーションの難しさが増します。言語の壁、文化の違い、世代間ギャップ——これらへの対応には、意識的な取り組みが必要です。

  • 「やさしい日本語」の活用(外国人材とのコミュニケーション)
  • 多世代交流の場の設定(世代間ギャップの解消)
  • 「違い」を知るための研修(異文化理解研修)

壁3:既存社員の抵抗

新しいメンバーが入ると、既存社員の中に不安や抵抗が生まれることがあります。「あの人は特別扱いされている」「自分たちの仕事が奪われるのではないか」——こうした感情に対して、丁寧な説明とフォローが必要です。

ダイバーシティ推進は、「特定の人を優遇する」ことではありません。「すべての人が力を発揮できる環境を作る」ことです。この違いを繰り返し伝えることが大切です。


事例:ダイバーシティで事業成長を実現した北海道の企業

事例1:ニセコの宿泊業(従業員40名)

インバウンド観光の中心地であるニセコの宿泊施設です。従業員40名のうち、12名が外国籍(オーストラリア、カナダ、ネパール、フィリピン出身)。

多国籍のスタッフがいることで、英語、仏語、ネパール語、タガログ語でのサービスが可能になり、口コミ評価が向上。インバウンド売上は3年で60%増加しました。

しかし、最も大きな変化は「サービスの発想」です。外国籍スタッフが「自分の国ではこういうサービスが喜ばれる」と提案し、それを取り入れることで、日本人スタッフだけでは思いつかなかったサービスが生まれています。

事例2:札幌のIT企業(従業員25名)

この会社は、意識的に多様なバックグラウンドの人材を採用しています。元看護師、元料理人、元教師——IT業界未経験でもプログラミングを学ぶ意欲がある人を採用し、育成しています。

「看護師の経験がある社員が医療系のシステム開発でクライアントの課題を深く理解できた」「料理人だった社員が飲食店向けのアプリで的確なUI提案をした」——異業種経験が、クライアントへの価値提供に直結しているケースが複数あります。


ダイバーシティ推進の成果を測る

ダイバーシティの取り組みを「なんとなく良いこと」で終わらせないために、成果を数字で測ることが重要です。

定量指標

  • 女性管理職比率、外国籍社員比率、シニア社員比率の推移
  • 多様な属性の社員の離職率(全体の離職率との比較)
  • 採用候補者の母数の変化
  • 新規事業やサービスの創出数
  • 顧客満足度の変化(特にインバウンド対応)

定性指標

  • 社員アンケートにおける「組織の包摂性」のスコア
  • 多様なメンバーが参加する会議での発言の質と量
  • 「多様性のおかげで生まれたアイデア」のエピソード

まとめ:ダイバーシティは「生き残り戦略」

北海道の企業にとって、ダイバーシティ推進は「社会的な責任」を果たすためだけの取り組みではありません。人口減少、労働力不足、市場の多様化——こうした経営環境の変化に対応するための「生き残り戦略」です。

多様な人材を受け入れ、その多様性を活かすことで、採用力の向上、サービスの革新、組織の活性化が実現します。そして、これらはすべて経営の数字に反映される成果です。

「うちの会社にダイバーシティは関係ない」——そう思っている企業こそ、最もダイバーシティの恩恵を受けるポテンシャルを持っています。なぜなら、まだ手をつけていないということは、改善の余地が大きいということだからです。

まずは、「今、自社にはどんな人がいるか」「どんな人がいないか」を見渡してみてください。「いない人」の中に、自社の成長に必要な視点が眠っているかもしれません。

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