
北海道の中小企業がリファラル採用を成功させるための組織づくり——「知り合いを紹介して」で終わらせない仕組み
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北海道の中小企業がリファラル採用を成功させるための組織づくり——「知り合いを紹介して」で終わらせない仕組み
「うちでもリファラル採用を始めたんです。でも、社員に『誰かいい人いない?』って聞いても、誰も紹介してくれなくて……」
旭川の建設会社の人事担当者から、こんな相談を受けました。リファラル採用——社員の紹介による採用——は、近年注目されている採用手法です。求人広告や人材紹介会社に頼らず、社員のネットワークを通じて人材を見つける。採用コストが低く、定着率が高いというデータもあります。
しかし、「リファラル採用を始める」と宣言して、社員に「知り合いを紹介してください」と呼びかけるだけでは、うまくいきません。私はこれまで500社以上の企業の人事に関わってきましたが、リファラル採用がうまくいかない原因の多くは、「制度」の問題ではなく「組織」の問題です。
社員が自信を持って「うちの会社に来ないか」と言えるかどうか。これが、リファラル採用の成否を決める核心的な問いです。
なぜ北海道の中小企業にリファラル採用が有効なのか
まず、リファラル採用が北海道の中小企業に特に有効である理由を確認しましょう。
理由1:求人広告の効果が薄れている
北海道の中小企業が求人広告を出しても、応募が集まりにくくなっています。大手企業や札幌の企業に候補者が流れてしまい、地方の中小企業には届かない。広告費をかけても費用対効果が見合わないケースが増えています。
理由2:人材紹介の手数料が重い
人材紹介会社を使えば候補者は来ますが、紹介手数料は年収の30〜35%が相場です。年収400万円の人材を採用すれば、120〜140万円のコストがかかる。中小企業にとって、この負担は小さくありません。
理由3:「人の信頼」で動く社会
北海道、特に地方都市では、人と人のつながりが密接です。「あの人が言うなら間違いない」「あの人が働いている会社なら安心」——この「人を介した信頼」が、北海道のコミュニティではまだ強く生きています。リファラル採用は、この信頼のネットワークを活用する方法です。
理由4:定着率が高い
リファラル採用で入社した社員の定着率は、一般的な採用経路と比較して高い傾向があります。紹介者から事前に職場の情報を得ているため、入社後のギャップが少なく、紹介者がいることで職場に溶け込みやすい。北海道の中小企業にとって、「採用した人が辞めない」ことは、採用コスト以上に重要な価値です。
リファラル採用がうまくいかない「本当の理由」
では、リファラル採用がうまくいかないのはなぜか。多くの企業が「報奨金を出せばいい」「もっと呼びかけを強くすればいい」と考えますが、問題の本質は別のところにあります。
理由1:社員が自分の会社を「紹介したい」と思っていない
これが最も根本的な問題です。社員が「友人にこの会社を勧めたい」と思えない限り、リファラル採用は動きません。
「給与が低い」「残業が多い」「評価が不透明」「将来が見えない」——こうした不満を抱えている社員は、知人に「うちに来ないか」とは言えません。むしろ、「あの会社を勧めたら、友人との関係が壊れるかもしれない」というリスクを感じます。
理由2:紹介のハードルが高い
「紹介してください」と言われても、何をどうすればいいかわからない。「どんな人を探しているのか」「紹介した後のプロセスはどうなるのか」「紹介した人が不採用だったら気まずくないか」——こうした不安や疑問が解消されていないと、社員は動きません。
理由3:紹介しても「損」する仕組みになっている
紹介した人が入社して、自分のチームに配属された場合、「友人を部下として扱わなければならない」「友人が辞めたら自分の責任になるのでは」——こうした心理的負担を感じる社員もいます。紹介のインセンティブ(報奨金など)よりも、デメリット(心理的リスク)のほうが大きいと感じれば、紹介は生まれません。
理由4:「制度」はあるが「文化」がない
報奨金の制度を作り、紹介用のカードを配り、社内ポータルに案内を掲載した。しかし、日常的に「うちの会社はいい会社だ」と社員が感じていなければ、制度だけでは動かない。リファラル採用は「制度」よりも「文化」に依存する施策です。
リファラル採用を成功させるための「組織づくり」5つのステップ
リファラル採用を成功させるには、制度を整える前に、組織そのものを「社員が紹介したくなる会社」にする必要があります。
ステップ1:社員の「紹介意欲」を測定する
まず、現状を把握します。社員に対して匿名のアンケートを実施し、以下の質問に回答してもらいます。
- 「友人や知人に、うちの会社で働くことを勧めますか?」(0〜10のスケール)
- 「勧める理由、または勧めない理由は何ですか?」
- 「勧めるとしたら、どんな人に勧めますか?」
- 「紹介する上で、不安なことはありますか?」
このアンケートの結果が、リファラル採用戦略の出発点になります。「勧めたい」というスコアが低ければ、まずは組織の改善が先。「勧めたいが不安がある」なら、不安を解消する仕組みが必要。「勧めたいし不安もない」なら、背中を押す仕掛けが必要。
帯広の食品メーカーでこのアンケートを実施したところ、「勧めたい」のスコアは平均6.8(10点満点)で、意外と高い数値でした。しかし、「不安がある」と答えた社員が7割。主な不安は「紹介した人が不採用だったら気まずい」「紹介した人が辞めたら自分の責任になりそう」でした。この結果を受けて、不安解消のための仕組み作りに集中しました。
ステップ2:「紹介したくなる組織」に改善する
アンケートで「勧めない理由」として挙げられた項目が、組織の改善ポイントです。
よく出てくる改善テーマは以下の通りです。
- 報酬の適正化:市場水準と比較して給与が低ければ、社員は紹介しにくい
- 労働環境の改善:長時間労働、休日出勤が常態化していれば、紹介の障壁になる
- 評価の透明性:何をすれば評価されるかが曖昧だと、「知人にこの会社を勧められない」と感じる
- キャリアパスの明示:「この会社に入ったら、将来どうなれるか」が見えないと、紹介しにくい
- 職場の雰囲気:人間関係が悪い、ハラスメントがある——こうした問題は、紹介以前に解決すべき課題
これらの改善は、リファラル採用のためだけでなく、組織全体のエンゲージメント向上につながります。つまり、リファラル採用を目指すことが、結果として組織全体の強化になるのです。
ステップ3:紹介の「ハードルを下げる」仕組みを作る
社員が紹介しやすい仕組みを整えます。
- 求める人物像の明確化:「こんな人を探しています」を具体的に伝える。「やる気のある人」ではなく、「○○の経験がある人」「○○に興味がある人」と具体的に
- 紹介プロセスの簡素化:「紹介したい人がいます」と人事に一言伝えれば、あとは人事が連絡を取る仕組みにする。社員に採用活動の負担をかけない
- 不採用時のフォロー:紹介した人が不採用になった場合、紹介者に丁寧に説明する。「あなたの紹介は感謝している。今回はスキルのマッチングが合わなかっただけ」と明確に伝え、紹介者と候補者の関係に配慮する
- 匿名紹介の選択肢:「直接紹介するのは気が引ける」という社員には、匿名で候補者を推薦できる仕組みを用意する
ステップ4:紹介を「報いる」仕組みを作る
紹介に対するインセンティブを設計します。ただし、報奨金だけがインセンティブではありません。
- 報奨金:紹介した人が入社し、一定期間(3〜6か月)在籍した場合に支給。金額は3万〜10万円が一般的。高すぎると「お金目当て」の紹介が増え、低すぎると動機づけにならない
- 感謝の表明:全社ミーティングで「Aさんの紹介でBさんが入社しました。ありがとうございます」と公に感謝する。金銭以上に、「貢献が認められる」ことがモチベーションになる社員は多い
- 特別休暇:報奨金の代わりに、有給休暇1日を付与する。「お金よりも休みがほしい」という社員にはこちらが効果的
札幌のWeb制作会社(社員25名)では、報奨金5万円+紹介者と入社者の「ウェルカムランチ」費用を会社が負担する制度にしています。「お金よりも、一緒に食事する機会を会社が作ってくれることが嬉しい」という声が多く、紹介件数は制度導入前の3倍に増えました。
ステップ5:リファラル採用を「文化」にする
最終的に目指すのは、リファラル採用が「制度」ではなく「文化」になることです。
「いい人がいたら声をかけてみよう」——この意識が社員の間に自然に浸透している状態。そのためには、経営者自身が率先して紹介を行い、紹介で入社した社員の活躍を社内で共有し、「紹介して入った人が活躍している」という成功体験を積み重ねることが重要です。
北海道の中小企業ならではのリファラル採用の強み
北海道の中小企業には、リファラル採用に有利な環境があります。
強み1:地域コミュニティの密接さ
北海道の地方都市では、人と人のつながりが密接です。学校の同級生、地域のスポーツクラブ、町内会——さまざまなコミュニティを通じて、「あの人が働いている会社」の情報が自然に伝わります。この口コミの力は、求人広告の何倍もの影響力を持つことがあります。
強み2:Uターン・Iターン人材との接点
北海道出身で、現在は東京や大阪で働いている人が「いつか北海道に戻りたい」と考えている。こうしたUターン希望者と、既存社員がつながっているケースは少なくありません。「地元に戻りたいなら、うちの会社どう?」——この一言が、Uターン採用のきっかけになります。
函館の製造業では、社員が帰省時に地元の友人に声をかけたことがきっかけで、東京で働いていたエンジニアがUターン入社。その人が、さらに別の友人を紹介して……という連鎖が起きています。
強み3:「顔が見える」安心感
北海道の中小企業は、社長と社員の距離が近い。「社長はどんな人ですか?」という質問に、社員が自分の言葉で答えられる。この「顔が見える」安心感は、大企業の採用活動では得られないものです。
リファラル採用の「落とし穴」と対処法
リファラル採用にはメリットが多い一方で、注意すべき落とし穴もあります。
落とし穴1:組織の同質化
社員が紹介する人は、自分と似たタイプになりがちです。「同じ学校出身」「同じ趣味」「同じ価値観」——これが続くと、組織が同質化し、多様な視点が失われます。
対処法としては、「どんな人を紹介してほしいか」を明確に伝え、「異なるバックグラウンドの人も歓迎」というメッセージを発信することが重要です。
落とし穴2:紹介者と被紹介者の関係悪化
紹介した人が不採用になった、入社後にうまくいかなかった——こうした場合に、紹介者と被紹介者の関係が悪化するリスクがあります。
対処法としては、紹介者に対して「紹介と選考は別」ということを事前に明確にし、不採用時や入社後の問題発生時には、人事が間に入って丁寧にフォローすることが大切です。
落とし穴3:「お友達採用」への偏り
リファラル採用に依存しすぎると、「能力よりも人間関係で採用が決まる」という印象を与えてしまいます。
対処法としては、リファラル採用であっても、通常の選考プロセス(面接、適性検査など)を省略しないことが重要です。「紹介されたから採用」ではなく、「紹介で出会い、選考で判断する」というプロセスを維持します。
事例:リファラル採用で採用コストを半減させた北海道の中小企業
事例:苫小牧の物流会社(従業員60名)
ドライバーの採用に毎年苦労していたこの会社は、求人広告と人材紹介で年間約500万円の採用コストをかけていました。しかし、採用したドライバーの1年以内離職率は35%。「高い金をかけて採用しても、すぐ辞める」という悪循環に陥っていました。
まず、全社員にアンケートを実施し、「紹介したくない理由」を洗い出しました。主な理由は「拘束時間が長い」「休みが取りにくい」「給与が仕事に見合っていない」。
この結果を受けて、経営陣は以下の改善に着手しました。
- 勤務シフトの見直しで月間残業時間を20時間削減
- 月に1日の「リフレッシュ休暇」を新設
- ドライバー手当を月1万円増額
この改善の後、リファラル採用制度を導入。報奨金は5万円(入社3か月後に支給)。紹介プロセスを簡素化し、「人事に一言伝えるだけ」で紹介が完了する仕組みにしました。
1年間の結果は以下の通りです。
- リファラル経由の応募:18名(うち採用8名)
- 採用コスト:年間500万円から230万円に削減(54%減)
- リファラル採用者の1年以内離職率:12%(通常採用の35%と比較して大幅改善)
- 社員アンケートの「会社を勧めたい」スコア:6.2から7.8に向上
最も重要な変化は、「リファラル採用を始めるために組織を改善した結果、既存社員の満足度も上がった」ことです。リファラル採用は、組織改善のきっかけにもなるのです。
リファラル採用の「はじめの一歩」
リファラル採用を始めるために、大掛かりな制度を一度に作る必要はありません。
ステップ1:社員に聞いてみる
「友人にうちの会社を勧めますか?」——この質問を、まず5人の社員に投げかけてみてください。その答えが、あなたの会社の「紹介される力」を教えてくれます。
ステップ2:一人の成功事例を作る
まずは一人の紹介からスタートする。その一人が入社し、活躍し、「紹介して良かった」と紹介者が感じる。この成功体験が、次の紹介を生みます。
ステップ3:組織の改善を続ける
リファラル採用は「組織の健康状態のバロメーター」です。社員が紹介したがらないなら、それは組織に改善すべき課題があるということ。リファラル採用の取り組みを通じて、組織そのものを良くしていく。この好循環が、北海道の中小企業の採用力を根本から高めると、私は考えています。
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