北海道の企業がメンタルヘルス対策を「予防」から始める方法——「問題が起きてから対処する」では遅すぎる
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北海道の企業がメンタルヘルス対策を「予防」から始める方法——「問題が起きてから対処する」では遅すぎる

#1on1#採用#研修#組織開発#経営参画

北海道の企業がメンタルヘルス対策を「予防」から始める方法——「問題が起きてから対処する」では遅すぎる

「メンタルヘルスの相談窓口は設けているんですが、誰も使わないんですよ。でも、毎年何人かがメンタル不調で休職します」

札幌の中堅企業の人事部長から聞いた、この言葉が忘れられません。相談窓口を作った。ストレスチェックも実施している。でも、社員が休職する現実は変わらない。「やるべきことはやっているのに、なぜ」——多くの人事担当者が感じているもどかしさです。

私はこれまで500社以上の企業の人事を支援してきましたが、メンタルヘルス対策において多くの企業が見落としているのは、「予防」の視点です。相談窓口もストレスチェックも大切です。しかし、それらは「すでにストレスを抱えている人」に対するアプローチ。本当に必要なのは、「ストレスを抱える前に手を打つ」仕組みです。

北海道の企業には、メンタルヘルスに関して本州とは異なる特有の課題もあります。この記事では、北海道の企業がメンタルヘルス対策を「予防」から始めるための具体的な方法を考えます。


北海道の企業が抱えるメンタルヘルスの特有の課題

北海道には、メンタルヘルスに影響を与える地域特有の要因があります。

要因1:冬期の日照時間の短さ

北海道の冬は、日照時間が極端に短くなります。札幌で12月の日照時間は約90時間。東京の約150時間と比較すると、大幅に少ない。日照時間の減少は、セロトニン(精神の安定に関わる神経伝達物質)の分泌を低下させ、気分の落ち込みや意欲の低下を引き起こす可能性があります。

「冬になると、なんとなく調子が悪い」と感じている社員は、想像以上に多いのです。これは「季節性うつ」とも呼ばれる症状で、北海道では特に注意が必要です。

要因2:通勤・移動のストレス

冬期の通勤は、吹雪、路面凍結、渋滞——本州にはないストレス要因が加わります。「毎朝、通勤だけで疲れてしまう」という声は北海道ではよく聞かれます。特に地方から札幌への長距離通勤者や、広域を車で移動する営業職にとって、冬期のストレスは大きい。

要因3:地方の孤立感

北海道の地方都市では、「相談できる場所がない」という孤立感がメンタルヘルスに影響します。心療内科やカウンセリングの専門機関が少ない地域も多く、「困った時にどこに行けばいいかわからない」という状況があります。

また、「メンタルの不調を人に話すのは恥ずかしい」という意識が、地域コミュニティの密接さゆえに強い場合もあります。「みんなに知られたくない」「弱いと思われたくない」——こうした心理が、早期の相談を妨げています。

要因4:人手不足による慢性的な過負荷

北海道の中小企業では、人手不足により一人当たりの業務量が過大になっているケースが多い。「休みたくても休めない」「自分が倒れたら現場が止まる」——この責任感が、限界を超えても無理を続ける原因になっています。


「予防」のメンタルヘルス対策——3つの段階

メンタルヘルス対策は、3つの段階に分けて考えることが有効です。

  • 一次予防:メンタル不調を「起こさない」ための対策。職場環境の改善、ストレス要因の軽減
  • 二次予防:メンタル不調の「早期発見・早期対応」。変化に気づく仕組み、気軽に相談できる体制
  • 三次予防:メンタル不調からの「復職支援」。休職者の職場復帰プログラム

多くの企業は二次予防(相談窓口、ストレスチェック)と三次予防(復職支援)に注力していますが、一次予防——そもそもメンタル不調を起こさない環境づくり——が不十分です。

一次予防に力を入れることで、二次・三次予防の「発生件数」自体を減らすことが、最も費用対効果の高いアプローチです。


一次予防:メンタル不調を「起こさない」職場環境づくり

施策1:業務量と裁量のバランスを整える

メンタルヘルスの研究で一貫して指摘されているのは、「高い業務量+低い裁量」の組み合わせが最もストレスが高いということです。忙しくても、自分で仕事の進め方を決められるなら、ストレスは相対的に低い。逆に、忙しくて、かつ細かく管理されている状態は、メンタルに最も負荷がかかります。

北海道の中小企業では、人手不足ゆえに業務量が多くなりがちです。すぐに人を増やせないなら、「裁量」を高める方向で調整することが有効です。

  • 仕事の優先順位を自分で決められる余地を作る
  • 細かな手順を上司が指定するのではなく、目的を伝えて方法は本人に任せる
  • 「この仕事はいつまでに」の期限設定を、本人と相談して決める

施策2:「休むことは悪くない」という文化を作る

北海道の企業では、「休みを取るのは周りに迷惑をかける」「人手不足だから自分が頑張らないと」という文化が根強い。この文化自体が、メンタルヘルスのリスク要因です。

経営者自らが率先して休みを取り、「休むことで生産性が上がる」というメッセージを発信し続けることが大切です。

旭川の建設会社では、社長が毎月1日「リフレッシュ休暇」を取り、SNSでその様子を社内に共有しています。「社長が休んでいるんだから、自分も休んでいいんだ」——この空気が、社員の有給休暇取得率を前年比25%向上させました。

施策3:人間関係のストレスを軽減する仕組み

職場のメンタル不調の原因として最も多いのが、「人間関係」です。上司との関係、同僚との摩擦、ハラスメント——これらのストレスは、制度だけでは解決しません。

しかし、予防として以下の取り組みが有効です。

  • 1on1ミーティングの定期実施:上司と部下が定期的に対話する場を設ける。業務の話だけでなく、「最近どう?」という何気ない声かけの場として機能させる
  • ハラスメント防止の研修:年1回以上、全社員対象のハラスメント防止研修を実施する。「何がハラスメントに当たるか」の具体例を共有する
  • チーム編成の定期的な見直し:特定の人間関係がストレスの原因になっている場合、チーム編成を変えることで環境を変える

施策4:冬期の対策

北海道特有の課題である冬期のメンタルヘルスケアには、以下の対策が効果的です。

  • オフィスの照明を明るくする:冬期は特に、照明の照度を上げる。可能であれば、太陽光に近い波長のライトを導入する
  • 冬期の勤務時間の柔軟化:日照時間が少ない冬期に、勤務開始時間を遅らせる選択肢を提供する。「暗い中を通勤する」ストレスを軽減できる
  • 運動の機会を提供する:冬期は外出が減り、運動不足になりがち。社内での軽い体操の時間、スポーツジムの法人契約、ウォーキングイベントの開催など
  • 冬期特別休暇の導入:12〜2月に「ウィンターリフレッシュ休暇」を1日付与する

帯広の製造業では、冬期(11月〜3月)にオフィスの照明を通常の1.5倍に明るくし、昼休みに「日光浴タイム」として窓際で過ごす時間を推奨しています。小さな取り組みですが、「冬場に気分が落ち込む」という社員からの声が減少しました。


二次予防:変化に気づき、早期に対応する仕組み

一次予防で完全にメンタル不調を防ぐことは難しい。だからこそ、「早期に気づく」仕組みが重要です。

施策1:管理職の「気づく力」を高める

メンタル不調の兆候に最初に気づけるのは、日常的に接している上司や同僚です。しかし、多くの管理職は「部下のメンタルの変化にどう気づけばいいか」を知りません。

管理職向けのメンタルヘルス研修で、以下のサインに注意することを教育します。

  • 遅刻や欠勤が増えた
  • 仕事のミスが増えた
  • 表情が暗い、口数が減った
  • 周囲との交流を避けるようになった
  • 身だしなみに気を使わなくなった
  • 「辞めたい」「疲れた」という言葉が増えた

重要なのは、「診断する」ことではなく「気づいて声をかける」ことです。「最近、ちょっと様子が違うように見えるけど、大丈夫?」——この一言が、早期対応の第一歩になります。

施策2:ストレスチェックの「活用」

ストレスチェックは、50名以上の事業所に義務づけられていますが、「チェックして終わり」になっている企業が多い。結果を組織の改善に活かすことが重要です。

  • 個人結果のフィードバック:高ストレス者に対して、産業医やカウンセラーとの面談を勧奨する
  • 組織分析:部署ごとのストレス傾向を分析し、特にストレスが高い部署の原因を調査して対策を立てる
  • 経年比較:毎年の結果を比較し、改善の効果を測定する

札幌のIT企業では、ストレスチェックの組織分析結果を経営会議で報告し、ストレスが高い部署のマネージャーと一緒に改善策を検討しています。「ストレスチェックは経営課題のバロメーター」として位置づけることで、形骸化を防いでいます。

施策3:気軽に相談できるチャネルの多様化

「相談窓口」を設けても利用されないのは、「窓口に行く」という行動のハードルが高いからです。

  • 外部のEAP(従業員支援プログラム)の導入:社外の専門機関に相談できるようにする。「社内の人には知られたくない」という心理的ハードルを下げる
  • オンライン相談の導入:対面が難しい場合でも、電話やビデオ通話で相談できるようにする。特に地方拠点の社員にとって有効
  • セルフケアツールの提供:メンタルヘルスに関するアプリやWebサービスを導入し、匿名でセルフチェックができるようにする

三次予防:復職支援の仕組み

メンタル不調で休職した社員の復職支援も、予防の一環です。復職がうまくいかず再休職する「再発」を防ぐことが、本人にとっても組織にとっても重要です。

復職支援プログラムの設計

  • 休職中のコミュニケーション:完全に連絡を断つのではなく、月1回程度、人事担当者が状況を確認する(本人の同意のもと)
  • 段階的な復職:いきなりフルタイムに戻すのではなく、短時間勤務→半日勤務→フルタイムと段階的に復帰する
  • 復帰後のフォロー:復帰後3か月間は、週1回の面談を実施し、体調や業務負荷を確認する
  • 職場の理解促進:復帰する社員の受け入れ方について、チームメンバーに説明する。「腫れ物に触る」のではなく、「自然に接する」ことが大切

メンタルヘルス対策の経営的な根拠

「メンタルヘルス対策にお金をかける余裕がない」——中小企業の経営者からよく聞く言葉です。しかし、メンタルヘルス対策をしないことのコストを考えてみましょう。

コスト1:休職者の代替要員コスト

社員1名がメンタル不調で休職した場合、代替要員の採用・教育コスト、残った社員への業務の再配分による負荷増大、チーム全体の生産性低下——これらのコストは、少なく見積もっても数百万円にのぼります。

コスト2:離職コスト

メンタル不調が原因で退職する社員のコストは、採用費用、教育投資の損失、残された社員のモチベーション低下を含めると、年収の1〜2倍程度と推定されます。

コスト3:プレゼンティーズム(出勤しているが生産性が低い状態)のコスト

メンタルの不調を抱えながら出勤している社員の生産性低下は、実は休職のコストよりも大きいことがわかっています。「出勤しているから大丈夫」ではなく、「出勤していても本来の力を発揮できていない」状態のコストを認識する必要があります。

これらのコストと比較すれば、予防に投資するほうが明らかに合理的です。


事例:予防型メンタルヘルス対策で休職者を減らした北海道の企業

事例:札幌の中堅IT企業(従業員150名)

この企業では、毎年3〜5名のメンタル不調による休職者が発生していました。相談窓口とストレスチェックは実施していましたが、効果が見えませんでした。

「問題が起きてからの対応」では限界があると判断し、一次予防に重点を移しました。

取り組み1:マネージャー向けメンタルヘルス研修の実施

全マネージャー(20名)に、部下のメンタル変化への気づき方、声のかけ方、対応の基本を学ぶ研修を実施。年2回、計4時間の研修です。

取り組み2:冬期の「ウェルビーイング施策」

11月〜3月の冬期限定で、以下の施策を実施しました。

  • オフィスの照明強化
  • 週1回の15分「朝ストレッチタイム」
  • 冬期特別リフレッシュ休暇1日の付与
  • オンラインカウンセリングの利用無料化

取り組み3:1on1の質の向上

月2回の1on1ミーティングで、業務の進捗だけでなく「体調」「気分」「困っていること」を聞くことを標準化。マネージャーに「聴き方」のスキルを教育しました。

取り組み4:業務量の可視化

チームごとの業務量を可視化し、特定の人に負荷が偏っていないかを月次で確認する仕組みを導入しました。

結果(2年間の変化)

  • メンタル不調による休職者:年間4〜5名から年間1名に減少
  • ストレスチェックの高ストレス者割合:18%から9%に改善
  • 社員満足度調査の「働きやすさ」スコア:62点から78点に向上
  • 有給休暇取得率:48%から65%に増加

メンタルヘルス対策の「はじめの一歩」

ステップ1:管理職に「声をかける」ことを実践してもらう

大掛かりな制度よりも、まず「最近どう?」と部下に声をかけることから始める。この一言が、メンタル不調の早期発見の第一歩です。

ステップ2:「休んでいい」というメッセージを発信する

経営者自身が休暇を取り、その姿を見せる。「休むことは悪いことではない」という文化を、トップから作っていく。

ステップ3:冬期の対策を一つ取り入れる

照明を明るくする、朝ストレッチの時間を設ける、冬期の特別休暇を1日作る——一つでいいので、冬のメンタルヘルスケアを始めてみる。

メンタルヘルス対策は、「問題社員への対応」ではありません。すべての社員が心身ともに健康に働ける環境を作ること——それが、組織のパフォーマンスを最大化する土台です。北海道の厳しい冬を乗り越え、社員と共に事業を成長させるために、まずは「予防」の第一歩を踏み出していただきたいと思います。

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