
北海道の不動産企業が営業人材の定着率を高める方法——「根性論」から「仕組み」への転換
目次
北海道の不動産企業が営業人材の定着率を高める方法——「根性論」から「仕組み」への転換
「採用してもすぐ辞める。3年以内に半分以上がいなくなるんです」
札幌の不動産会社の営業部長が、渋い顔でこう話しました。不動産業界の営業職の離職率は、全産業の中でも高い水準にあります。北海道の不動産企業も例外ではありません。新卒を採用しても、中途を採用しても、気がつけば数年で辞めていく。その度に、採用と教育をやり直す。
「営業は向き不向きがある。合わない人が辞めるのは仕方ない」——こう割り切っている経営者も少なくありません。しかし、本当に「向き不向き」だけの問題でしょうか。
私はこれまで500社以上の企業の人事に関わってきましたが、不動産営業の離職の多くは、「人」の問題ではなく「仕組み」の問題です。適切な育成の仕組み、評価の仕組み、キャリアの仕組みがあれば、定着率は確実に改善します。
不動産営業が「辞める理由」の構造
不動産営業が離職する理由を、表面的な声と構造的な問題に分けて整理します。
表面的な理由
- 「ノルマがきつい」
- 「土日に休めない」
- 「歩合給の変動が大きくて不安」
- 「お客さんとのトラブルが精神的にきつい」
構造的な問題
表面的な理由の背後には、以下の構造的な問題があります。
問題1:「放り込み型」の新人教育
多くの不動産企業で、新人教育は「先輩の営業に同行して、見て学ぶ」というOJT一辺倒です。体系的な教育プログラムがなく、先輩の力量によって教育の質が大きくばらつく。
「営業は現場で覚えるもの」という考え方は、一面では正しい。しかし、「何を、どの順番で、どこまで学ぶか」が設計されていないと、新人は「何がわからないかもわからない」状態に陥ります。
問題2:「売上だけ」の評価制度
「今月の売上はいくらか」——不動産営業の評価は、ほとんどの企業で「売上」一本です。しかし、不動産の売買は成約までに数か月かかることも珍しくありません。新人が入社してすぐに成果を出すのは難しく、「結果が出ない→評価されない→自信を失う→辞める」という負のスパイラルに陥ります。
売上に至る「プロセス」を評価する仕組みがなければ、新人は「自分が成長しているかどうか」を実感できません。
問題3:キャリアパスの不在
「営業として売り続けるしかない」——キャリアの選択肢が「営業一筋」しかない企業では、社員は将来に不安を感じます。体力的にいつまで営業ができるのか。マネジメントのポジションはあるのか。営業以外のキャリアに進む道はあるのか。
問題4:孤立しやすい営業スタイル
不動産営業は個人の成果に依存する傾向が強く、チームの一体感が薄れがちです。「自分一人で数字を背負っている」という孤立感が、精神的な負担を増大させます。
北海道の不動産市場の特性と営業人材への影響
北海道、特に札幌の不動産市場には、本州の大都市圏とは異なる特性があります。
特性1:季節変動の影響
北海道の不動産市場は、季節による変動が大きい。冬場は物件の内覧が減り、引っ越しも少ない。逆に、春から夏にかけては繁忙期。この季節変動が、営業の収入と精神状態に影響します。
特性2:広域な営業エリア
北海道は広大です。営業エリアが広く、1日の移動距離が長い。冬場の移動は天候リスクも伴います。この物理的な負担が、営業の疲弊につながります。
特性3:地域密着型のビジネス
北海道の不動産ビジネスは、地域の人間関係に依存する面が大きい。地元の不動産オーナー、金融機関、行政との関係が重要。この人間関係の構築には時間がかかるため、新人が成果を出すまでの期間が長くなります。
営業人材の定着率を高める「5つの施策」
施策1:体系的な育成プログラムの設計
「見て覚えろ」式の教育から脱却し、体系的な育成プログラムを設計します。
入社〜3か月(基礎期)
- 不動産の基礎知識(法律、税務、金融、建築)の研修
- 商品知識(自社が取り扱う物件の特性、地域の市場動向)
- 営業の基本スキル(電話応対、接客マナー、ヒアリング技法)
- 先輩営業への同行(週3日以上)
4〜6か月(実践期)
- 初めてのお客様対応(先輩がバックアップ)
- ロールプレイング(毎週1回、上司とお客様役で練習)
- 物件案内の実践(先輩の立ち会いのもとで)
- 反省会(週1回、今週の学びと課題を振り返る)
7〜12か月(自立期)
- 一人でのお客様対応
- 初成約を目指す(上司のサポートあり)
- 月次の目標設定とフィードバック
- 自分の「得意分野」を見つける
このプログラムの各段階で「何ができるようになるべきか」を明確にし、達成度を確認する仕組みが重要です。
札幌の不動産会社(社員30名)でこのプログラムを導入した結果、新人の初成約までの平均期間が8か月から5か月に短縮されました。
施策2:「プロセス評価」の導入
売上だけでなく、売上に至るプロセスを評価する仕組みを作ります。
評価するプロセスの例:
- お客様との面談件数
- 物件案内件数
- お客様からのアンケートの満足度
- 知識テストの結果(法律、市場動向など)
- 提案書の質
- チームへの貢献(情報共有、後輩指導など)
プロセス評価を導入することで、「今月は成約に至らなかったが、面談件数は増えている。成約に近づいている」と、自分の成長を実感できるようになります。
施策3:メンター制度の導入
新人1名に対して、先輩1名を「メンター」として配置します。メンターは直属の上司とは別に、「相談相手」としての役割を担います。
メンターの役割:
- 週1回の30分面談で、業務の悩みや不安を聞く
- 営業スキルのアドバイスを行う
- 社内の人間関係の橋渡しをする
- キャリアの相談に乗る
メンターには「メンター手当」を支給し、この役割を正式な業務として位置づけることが重要です。
函館の不動産会社では、メンター制度を導入した結果、新人の1年以内離職率が45%から20%に改善しました。「相談できる先輩がいるだけで、こんなに安心するとは思わなかった」——新人からの声です。
施策4:キャリアパスの多様化
「営業を続けるか、辞めるか」ではない、多様なキャリアパスを示します。
- 営業のスペシャリスト:売買、賃貸、投資用不動産など、特定の分野のエキスパートとして活躍する
- 営業マネージャー:チームを率い、後輩の育成と組織の成果に責任を持つ
- 不動産コンサルタント:売買だけでなく、資産活用、相続対策、事業用不動産など、幅広いコンサルティングを行う
- 管理部門への異動:経理、マーケティング、人事など、営業以外のキャリアに進む選択肢
- 店舗開発・事業企画:新規店舗の出店計画、新事業の企画に関わる
「この会社にいれば、営業以外の選択肢もある」——この安心感が、定着率を高めます。
施策5:チームの一体感を生む仕組み
個人戦ではなく、チーム戦の要素を取り入れます。
- チーム目標の設定:個人のノルマだけでなく、チーム全体の目標を設定し、達成時にはチームで祝う
- 情報共有の場:週1回の「ナレッジ共有会」で、成功事例や市場情報を共有する
- チーム内の助け合い:お客様の紹介、物件情報の共有など、チーム内の協力を評価の対象にする
北海道の不動産企業の採用における差別化
定着率を高める取り組みは、採用面でも大きなアドバンテージになります。
「北海道で不動産営業をする魅力」の発信
- 札幌の不動産市場の活況(再開発、インバウンド需要)
- 北海道の暮らしの豊かさ(食事、自然、通勤の快適さ)
- 地域に根ざした仕事のやりがい
- 成長するマーケットでのキャリア形成
「うちの会社は辞めない」というメッセージ
「新人の3年定着率80%」——この数字は、不動産業界では異例の高さです。定着率の高さ自体が、採用における最大の差別化ポイントになります。
事例:営業人材の定着率を改善した北海道の不動産企業
事例:札幌の不動産会社(営業職20名)
この会社では、営業職の3年以内離職率が55%と高く、毎年の採用に多大なコストがかかっていました。
取り組み
- 12か月の体系的育成プログラムを設計し、導入
- プロセス評価を含む新しい評価制度を導入
- メンター制度を導入(メンター手当月1万円)
- キャリアパスを4つ明示し、全社員に公開
- 週1回の「ナレッジ共有会」を開始
結果(2年後)
- 3年以内離職率:55%から22%に改善
- 新人の初成約期間:平均8か月から5か月に短縮
- 営業部門の売上:前年比115%(人が辞めないから、ノウハウが蓄積された効果)
- 採用コスト:年間480万円から210万円に削減
- 社員紹介(リファラル)による応募:年間0名から4名に
最も印象的だったのは、営業部長の言葉です。「以前は『辞める奴は根性がない』と思っていた。でも、仕組みを変えたら辞めなくなった。根性の問題じゃなかったんだ」。
定着率向上の取り組みが「採用ブランド」を作る
営業人材の定着率が高い企業は、自然と「採用ブランド」も強くなります。
口コミの力
不動産業界は意外と狭い世界です。営業職は同業他社の人間との交流も多く、「あの会社は育成がしっかりしている」「あの会社は人を大切にしている」という評判は、業界内で自然に広がります。
逆に、「あの会社はすぐ辞める人が多い」「新人を使い捨てにする」という評判も広がります。定着率の高さは、採用の武器になるのです。
求人メッセージの説得力
「3年定着率80%」「新人の初成約を全力でサポート」「営業以外のキャリアも選べる」——こうしたメッセージは、定着率向上の取り組みがなければ掲げられません。実態が伴ったメッセージは、候補者に強く響きます。
特に、不動産営業は「きつい」というイメージが先行しがちです。だからこそ、「うちは違う」と具体的に示せる企業は、採用市場で圧倒的に有利になります。
営業人材の定着率向上の「はじめの一歩」
ステップ1:退職理由を正直に聞く
過去2年間に退職した営業職に連絡を取り、「なぜ辞めたか」を聞いてみてください。在職中には言えなかった本音が、退職後には出てくることがあります。
ステップ2:新人にメンターを一人つける
来月入社する新人に、先輩一人を「相談相手」としてつける。それだけで、新人の不安は大きく軽減されます。
ステップ3:プロセスを一つ評価に加える
「面談件数」でも「提案書の提出数」でも、売上以外の指標を一つ、評価の対象に加えてみる。
営業人材の定着は、「根性」の問題ではなく「仕組み」の問題です。適切な育成、公正な評価、多様なキャリア、チームの支え——これらの仕組みを一つずつ整えることが、北海道の不動産企業の競争力を高める最も確実な方法だと、私は考えています。
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