北海道の企業が外国人材の受け入れを成功させるための組織づくり——「安い労働力」ではなく「共に働く仲間」として
制度設計・運用

北海道の企業が外国人材の受け入れを成功させるための組織づくり——「安い労働力」ではなく「共に働く仲間」として

#研修#組織開発#経営参画#キャリア#制度設計

北海道の企業が外国人材の受け入れを成功させるための組織づくり——「安い労働力」ではなく「共に働く仲間」として

「正直なところ、技能実習生がいなければ工場は回りません。でも、受け入れ方がこれでいいのか、ずっと悩んでいるんです」

紋別の水産加工会社の社長がこう打ち明けてくれたのは、数年前のことでした。北海道は、外国人材の受け入れが全国的にも多い地域です。農業、水産加工、食品製造、介護、建設——多くの産業で、外国人材は不可欠な存在になっています。

しかし、「受け入れている」ことと「うまくいっている」ことは別の問題です。言葉の壁、文化の違い、生活の不安、孤立感——外国人材が抱える課題は多く、企業側も対応に苦慮しています。そして、受け入れが「うまくいかない」結果として、途中離脱、トラブル、地域社会との摩擦が生じることもあります。

私はこれまで500社以上の企業の人事を支援してきましたが、外国人材の受け入れの成否は、「制度」の問題ではなく「組織づくり」の問題であることが多いと感じています。この記事では、北海道の企業が外国人材の受け入れを成功させるための組織づくりを考えます。


北海道における外国人材の現状

北海道で働く外国人材は、在留資格別に見ると以下のような構成です。

  • 技能実習:農業、水産加工、食品製造、建設など、主に一次産業・二次産業
  • 特定技能:技能実習からの移行者が多い。介護、農業、食品製造など14分野
  • 技術・人文知識・国際業務:IT企業、翻訳・通訳、ホテル、商社など
  • 留学生のアルバイト:コンビニ、飲食、観光施設など

出身国も多様です。ベトナム、インドネシア、フィリピン、ミャンマー、中国——それぞれの文化、宗教、価値観が異なります。「外国人」と一括りにせず、個人として向き合うことが大切です。


外国人材の受け入れが「うまくいかない」典型的なパターン

パターン1:「労働力」としか見ていない

「安い労働力」として外国人材を受け入れる。最低限の給与を払い、最低限の住居を提供し、最低限の指示を出す。この「最低限」の姿勢が、外国人材のモチベーションを奪い、離脱やトラブルの原因になります。

パターン2:コミュニケーションを放棄している

「言葉が通じないから仕方ない」——この一言で、コミュニケーションの努力を諦めている企業があります。結果として、外国人材は何を求められているかわからず、日本人社員は何を考えているかわからず、お互いに不信感が蓄積されます。

パターン3:「日本のやり方」を押し付ける

「日本ではこうするものだ」と、自国の文化や慣習を一切認めない。宗教的な食事制限に配慮しない、母国の祝祭日を考慮しない、日本語だけでのコミュニケーションを強要する。この姿勢は、外国人材にとって「尊重されていない」というメッセージになります。

パターン4:日本人社員への準備がない

外国人材の受け入れは、外国人材だけの問題ではありません。一緒に働く日本人社員の準備が不足していると、「なんで外国人と一緒に働かなきゃいけないんだ」という抵抗が生まれます。


外国人材の受け入れを成功させる「5つの組織づくり」

組織づくり1:受け入れ前の「準備」を徹底する

外国人材が来る前に、組織として準備すべきことは多くあります。

日本人社員への説明と意識づけ

  • なぜ外国人材を受け入れるのか(経営上の必要性)を説明する
  • 外国人材の出身国の文化、宗教、習慣を共有する
  • 「やさしい日本語」の使い方を研修する
  • 一緒に働く上での心構えを伝える

受け入れ体制の整備

  • 住居の確保と生活必需品の準備
  • 通勤手段の確保
  • 近隣の病院、スーパー、銀行などの生活情報の整理(多言語で)
  • 緊急時の連絡体制
  • 受け入れ担当者(生活面と業務面それぞれ)の指名

業務面の準備

  • 作業手順書の多言語化(翻訳が難しければ、写真やイラストを多用する)
  • 安全に関するルールの多言語化
  • 業務で使う基本的な日本語のリスト作成

根室の水産加工会社では、ベトナム人技能実習生の受け入れに先立ち、日本人社員全員にベトナムの文化に関する1時間の研修を実施しました。「ベトナムではこういう挨拶をする」「テト(旧正月)はベトナム人にとって最も大切な行事」——こうした基礎知識が、日常のコミュニケーションを円滑にしています。

組織づくり2:日本語教育と業務教育を一体で設計する

外国人材にとって、日本語の習得は最大の課題の一つです。日本語ができるようになれば、仕事のパフォーマンスが上がり、生活の質も向上し、地域社会への参加もしやすくなります。

しかし、「一般的な日本語教育」と「業務に必要な日本語教育」は異なります。両者を一体で設計することが効果的です。

  • 業務用語リスト:業務で使う専門用語を、母国語の対訳付きでリスト化する
  • 場面別フレーズ集:「ここが異常です」「確認してください」「わかりません」など、業務で頻出するフレーズを教える
  • 段階的な日本語教育:入社後3か月は「業務に最低限必要な日本語」に集中し、その後徐々に日常会話に範囲を広げる
  • 日本語教室の開催:地元のボランティアや日本語教師と連携し、週1回の日本語教室を開催する

稚内の建設会社では、フィリピン人技能実習生に対して、「建設現場の安全用語」を最初の2週間で集中的に教育しました。「危ない」「止まれ」「ヘルメット」「高所注意」——安全に直結する用語を最優先で教えることで、現場での事故リスクを低減しています。

組織づくり3:「バディ制度」で日常的なサポートを提供する

外国人材1名に対して、日本人社員1名を「バディ」として配置します。バディは、業務の指導だけでなく、日常生活の相談相手としても機能します。

バディの役割:

  • 業務上の疑問に答える(日常的な「ちょっとした質問」の窓口)
  • 日本語でのコミュニケーションを手助けする
  • 生活上の困りごとを聞く(病院の予約、銀行の手続き、買い物など)
  • 地域のイベントや交流の場への橋渡しをする

バディには月額5,000〜10,000円程度の手当を支給し、この役割を正式な業務として位置づけます。

網走の水産加工会社では、バディ制度を導入して3年。「最初は大変だったけど、今ではベトナム語のあいさつも覚えた。お互いに学び合う関係になっている」——バディを務める日本人社員の言葉が、この制度の価値を物語っています。

組織づくり4:文化的な配慮を仕組み化する

文化的な配慮は、「個人のやさしさ」に頼るのではなく、組織の仕組みとして設計します。

  • 食事の配慮:イスラム教徒のためのハラル対応、宗教上の食事制限への対応
  • 祝祭日の配慮:母国の重要な祝祭日に有給休暇を取りやすくする
  • 祈りの場の確保:イスラム教徒が1日5回の礼拝を行える場所を提供する
  • 文化交流の場:母国の料理を紹介する「インターナショナルランチ」、母国の文化を紹介するイベントなど

これらの配慮は、大きなコストがかかるものではありません。しかし、「自分の文化が尊重されている」という実感は、外国人材のモチベーションと定着に大きな影響を与えます。

組織づくり5:キャリアパスの提示と成長支援

外国人材も、日本人社員と同様に、「成長したい」「キャリアを築きたい」という意欲を持っています。

  • 技能実習から特定技能への移行支援:制度上の手続きを会社がサポートする
  • 正社員登用の道筋を示す:特定技能から正社員への転換制度を整備する
  • スキルアップの機会:技術研修、資格取得支援、日本語能力試験の受験支援
  • リーダーポジションへの登用:能力のある外国人材を、チームリーダーや指導者に登用する

帯広の食品メーカーでは、ベトナム人の元技能実習生が特定技能を経て正社員に登用され、現在は製造ラインのリーダーを務めています。「この会社で成長できた。次はベトナムから来る後輩を育てたい」——この人材が、組織にとってかけがえのない存在になっています。


外国人材受け入れの経営的な効果

外国人材の受け入れに投資することは、経営的にどのような効果があるのでしょうか。

効果1:労働力の安定確保

人口減少が進む北海道において、外国人材は重要な労働力です。適切な受け入れ体制を整え、定着率を高めることで、慢性的な人手不足を緩和できます。

効果2:技能実習→特定技能の定着によるコスト削減

技能実習生が途中離脱すると、受け入れにかかったコスト(渡航費、教育費、住居費など)が無駄になります。定着率を高めることで、このコストを回収できます。

効果3:組織の多様性の向上

外国人材の受け入れは、組織に多様な視点をもたらします。異なる文化的背景を持つ人材が加わることで、「今まで気づかなかった改善点」が見つかることがあります。

効果4:国際的な事業展開の基盤

海外からの観光客への対応、海外への輸出、海外との取引——外国人材の存在が、企業の国際的な事業展開を支える基盤になります。


事例:外国人材の受け入れに成功した北海道の企業

事例:釧路の食品メーカー(従業員80名、うち外国人15名)

この企業は、ベトナム、インドネシア、ミャンマーから計15名の外国人材を受け入れています。以前は外国人材の途中離脱や日本人社員との摩擦が問題でしたが、組織づくりを見直した結果、状況が大きく改善しました。

取り組み

  • 受け入れ前に日本人社員全員に異文化理解研修を実施
  • バディ制度を導入(バディ手当月8,000円)
  • 作業手順書を5か国語で作成
  • 週2回の日本語教室を社内で開催(地元のボランティアと連携)
  • 月1回の「インターナショナルランチ」で各国の料理を紹介
  • 技能実習から特定技能への移行を会社が全面支援

結果

  • 外国人材の途中離脱率:30%から5%に改善
  • 技能実習修了後の特定技能への移行率:40%から85%に向上
  • 日本人社員の「外国人と一緒に働くことへの抵抗感」がアンケートで大幅に低下
  • 外国人材のリーダーへの登用:2名が製造ラインのチームリーダーに

外国人材受け入れの「はじめの一歩」

ステップ1:日本人社員に「なぜ受け入れるのか」を説明する

外国人材の受け入れは、日本人社員の理解と協力なくしては成功しません。経営上の必要性と、一緒に働く上での心構えを、丁寧に説明することが第一歩です。

ステップ2:バディを1名つける

次に外国人材を受け入れる時、日本人社員1名を「バディ」として配置してみてください。公式な制度でなくても、「この人に相談していいよ」という存在がいるだけで、外国人材の不安は大きく軽減されます。

ステップ3:「やさしい日本語」を意識する

難しい敬語や慣用句ではなく、簡潔で明確な日本語を使う。主語を省略しない。一文を短くする。これだけで、コミュニケーションの質が大きく変わります。

外国人材は「安い労働力」ではありません。適切な環境と支援があれば、組織の中核を担う貴重な「仲間」です。北海道の企業が外国人材と共に成長していくために、「受け入れる」から「共に働く」への意識の転換が必要です。その転換こそが、人口減少時代の北海道の産業を支える力になると、私は確信しています。

0

人事の知見が集まるコミュニティで、実践知を学びませんか?

人事図書館は、人事のプロフェッショナルが集まる学びのコミュニティです。