
北海道の企業がエンゲージメントサーベイを活用する方法——「調査して終わり」から脱却する
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北海道の企業がエンゲージメントサーベイを活用する方法——「調査して終わり」から脱却する
「エンゲージメントサーベイ、去年やったんですけど、結果を見て終わりでした。社員からは『あのアンケート、何のためだったの?』って言われて。今年やる意味あるんですかね」
札幌のサービス業の人事部長が、苦笑いしながらこう話しました。エンゲージメントサーベイ——社員の仕事への意欲や組織への帰属意識を測る調査——を導入する企業は増えています。しかし、「調査して、レポートを見て、それで終わり」というケースが非常に多い。
私はこれまで500社以上の企業の人事を支援してきましたが、エンゲージメントサーベイで最も重要なのは「調査すること」ではなく、「結果を使って組織を変えること」です。調査は手段であり、目的ではありません。
しかし、結果を施策に変える方法がわからない。結果が悪くて共有しにくい。そもそも忙しくて手が回らない——こうした理由で、サーベイ結果が「お蔵入り」になっている北海道の企業を数多く見てきました。この記事では、エンゲージメントサーベイの結果を「施策に変える」ための実践的な方法を考えます。
エンゲージメントサーベイが「無駄」になる典型パターン
パターン1:結果を経営層だけで見て、現場に共有しない
「結果が悪いから、社員に見せたら士気が下がる」——この判断は逆効果です。社員は「自分たちが答えたアンケートがどうなったか」を知りたがっています。結果が共有されなければ、「やっぱり意味なかった」と次回の回答率が下がります。
パターン2:結果を「数字」としか見ない
「エンゲージメントスコアが3.2だった。全国平均は3.5だから、うちは低い」——数字だけを見ても、何をすれば改善するかはわかりません。重要なのは、「なぜ3.2なのか」「どの項目が低いのか」「どの部署が特に低いのか」という分析です。
パターン3:一度に全部変えようとする
結果を見て「あれもこれも改善しなきゃ」と焦り、同時に多くの施策を打とうとする。結果として、どれも中途半端になり、何も変わらない。
パターン4:毎年同じ調査をするが、変化を追わない
「今年のスコアは3.3でした」——去年は?一昨年は?どの項目が改善し、どの項目が悪化した?経年比較をしなければ、施策の効果検証ができません。
帯広の製造業では、3年間エンゲージメントサーベイを実施していましたが、結果の共有も施策も行われず、3年目の回答率は45%まで低下。「どうせ何も変わらない」という諦めが蔓延していました。
エンゲージメントサーベイの「正しい使い方」——4つのステップ
ステップ1:調査の目的を明確にし、社員に伝える
サーベイを実施する前に、「なぜこの調査を行うのか」「結果をどう使うのか」を全社員に伝えます。
- 「この調査は、皆さんが働きやすい環境を作るために実施します」
- 「結果は、経営層と管理職で共有し、具体的な改善施策に活かします」
- 「個人が特定される形では使用しません。率直に答えてください」
この事前のコミュニケーションが、回答率と回答の質を大きく左右します。
ステップ2:結果を「3つのレイヤー」で分析する
サーベイ結果を以下の3つのレイヤーで分析します。
レイヤー1:全社レベル
- 全体のエンゲージメントスコアはどうか
- 前回と比較して、改善したか悪化したか
- 特にスコアが低い項目は何か
- 特にスコアが高い項目は何か(これは自社の強みとして認識する)
レイヤー2:部署レベル
- 部署ごとのスコアの違い
- 特にスコアが低い部署と、その項目
- 特にスコアが高い部署と、その項目(好事例として活用できる)
レイヤー3:属性レベル
- 年次別のスコアの違い(入社3年未満、3〜10年、10年以上など)
- 職種別のスコアの違い(営業、製造、事務など)
- 勤務形態別のスコアの違い(正社員、パートなど)
この3つのレイヤーで分析することで、「全社的な課題」と「特定の部署・属性の課題」を区別できます。全社的な課題には全社施策を、特定の課題にはピンポイントの施策を打つことで、効率的な改善が可能になります。
ステップ3:結果を全社に共有し、対話の場を設ける
分析結果を全社員に共有します。ここで大切なのは、「良い結果も悪い結果も正直に伝える」ことです。
結果の共有方法として、以下のステップが効果的です。
- 全社ミーティング(30分):経営者から、調査結果の概要と、「これから何に取り組むか」を伝える
- 部署別の対話セッション(60分):管理職が各部署で、部署ごとの結果を共有し、「なぜこの結果になったか」「何を改善すべきか」を社員と議論する
- アクションプランの作成:対話セッションで出た意見をもとに、部署ごとのアクションプランを作成する
この「共有→対話→アクション」のプロセスが、サーベイを「調査」から「組織改善の起点」に変えます。
札幌のIT企業(社員80名)では、サーベイ結果を全社ミーティングで共有した後、各チームで「結果を踏まえて、自分たちで変えられることを1つ決めよう」というワークショップを実施しています。「自分たちで課題を選び、自分たちで解決策を考える」このプロセスが、エンゲージメント向上そのものに寄与しています。
ステップ4:「一つだけ」改善に取り組み、効果を検証する
すべての課題に同時に取り組むのではなく、最もインパクトの大きい課題を一つ選び、集中的に改善に取り組みます。
改善テーマの選び方:
- スコアが低く、かつ改善の余地が大きい項目
- 多くの部署・社員に共通する課題
- 比較的短期間で効果が見えやすい項目
たとえば、「上司とのコミュニケーション」のスコアが低かった場合、「全管理職に月2回の1on1を必須化する」という施策に集中する。半年後のサーベイで、このスコアが改善していれば、施策の効果が検証できます。
サーベイ結果から施策につなげた「具体的な例」
例1:「成長機会」のスコアが低い場合
社員が「この会社にいても成長できない」と感じている状態。
考えられる施策:
- スキルマップの整備と公開(「何を身につければ次のレベルに進めるか」の可視化)
- 年間の教育計画の策定と予算化
- 社内勉強会の定期開催
- 外部研修への参加支援
例2:「評価の公平感」のスコアが低い場合
社員が「評価が不透明」「何を頑張ればいいかわからない」と感じている状態。
考えられる施策:
- 評価基準の明文化と全社公開
- 評価者研修の実施
- フィードバック面談の必須化
- 目標設定プロセスの見直し
例3:「上司との関係」のスコアが低い場合
社員が「上司に話を聞いてもらえない」「上司のマネジメントに不満がある」状態。
考えられる施策:
- 1on1ミーティングの導入・定着
- 管理職向けコミュニケーション研修
- 360度フィードバックの導入(管理職に対する部下からのフィードバック)
例4:「ワークライフバランス」のスコアが低い場合
社員が「残業が多い」「休みが取れない」と感じている状態。
考えられる施策:
- 業務の棚卸しと不要業務の廃止
- 属人化の解消(クロストレーニング)
- ノー残業デーの導入
- 有給休暇の計画取得の推進
北海道の企業ならではのサーベイ活用の注意点
注意点1:冬期のメンタル低下を考慮する
北海道では、冬期(11月〜3月)にエンゲージメントスコアが下がる傾向があります。日照時間の短さ、通勤のストレス、屋外活動の制限——これらが社員の気分に影響するためです。
サーベイの実施時期を考慮するか、冬期のスコアの低下を「季節要因」として把握した上で、経年比較を行うことが重要です。
注意点2:拠点間の格差に注目する
札幌本社と地方拠点で、エンゲージメントスコアに差が出ることがあります。地方拠点は「本社から情報が来ない」「キャリアの選択肢が少ない」といった不満を抱えがちです。拠点別の分析を行い、地方拠点の声に耳を傾けることが大切です。
注意点3:匿名性の担保を徹底する
北海道の中小企業では社員数が少ないため、「部署×年次」で絞ると個人が特定されてしまうリスクがあります。匿名性が担保されないと、社員は本音を書きません。少人数の部署は他部署とまとめて集計するなどの配慮が必要です。
サーベイの「頻度」と「設計」
年次サーベイ(年1回)
包括的な調査。30〜50問程度。全社員を対象に、エンゲージメントの全体像を把握する。
パルスサーベイ(月次または四半期)
簡易な調査。5〜10問程度。「直近の仕事への意欲」「チームの雰囲気」など、変化を素早く捉えるための調査。
おすすめは、年1回の包括的なサーベイと、四半期に1回のパルスサーベイの組み合わせです。年次サーベイで全体像を把握し、パルスサーベイで変化を追跡する。施策を打った後のパルスサーベイで、効果を迅速に確認できます。
事例:サーベイ結果を施策に変えて組織を改善した北海道の企業
事例:札幌の中堅企業(従業員120名)
この企業は、毎年エンゲージメントサーベイを実施していましたが、「調査して報告書を作って終わり」が3年間続いていました。4年目に、「結果を施策に変える」プロセスを導入しました。
サーベイ結果で明らかになった課題
- 全社のエンゲージメントスコア:3.1(5点満点)——全国平均を下回る
- 最もスコアが低い項目:「自分の成長に対する支援」(2.4)
- 部署別で最もスコアが低い:営業部(2.8)——「上司のマネジメント」が特に低い
- 年次別で最もスコアが低い:入社3〜5年目(2.7)——「キャリアの見通し」が低い
選択した重点テーマと施策
テーマ:「成長支援」と「マネジメントの質」の2つに絞り込み
施策1:全社員にスキルマップを導入し、「次に身につけるべきスキル」を可視化 施策2:年間の教育計画を策定。一人当たり年間3万円の教育予算を確保 施策3:営業部のマネージャー3名に対して、コミュニケーション研修を実施 施策4:入社3〜5年目の社員に対して、キャリア面談を半年に1回実施 施策5:四半期ごとのパルスサーベイを導入し、変化を追跡
結果(1年後)
- エンゲージメントスコア:3.1から3.6に向上
- 「成長支援」のスコア:2.4から3.3に改善
- 営業部のスコア:2.8から3.4に改善
- 入社3〜5年目のスコア:2.7から3.5に改善
- 離職率:年間16%から9%に改善
最も重要な変化は、「サーベイの回答率」が72%から91%に上がったことです。「答えたことが実際に変化につながった」という実感が、社員の調査への信頼を高めました。
エンゲージメントサーベイ活用の「はじめの一歩」
ステップ1:まず「簡易サーベイ」を5問だけ実施する
大掛かりなサーベイツールを導入しなくても、Google フォームなどで5問の匿名アンケートを実施するだけで、多くの発見があります。
- 「今の仕事にやりがいを感じているか」(1〜5)
- 「自分の成長に対する支援は十分か」(1〜5)
- 「上司との関係は良好か」(1〜5)
- 「この会社で働き続けたいと思うか」(1〜5)
- 「改善してほしいことを一つ挙げてください」(自由記述)
ステップ2:結果を社員に共有する
集計結果を全社ミーティングで共有し、「この結果を踏まえて、一つだけ改善に取り組みます」と宣言する。
ステップ3:一つの施策を実行し、半年後に再調査する
最もスコアが低い項目に対して、一つの施策を実行する。半年後に同じ5問のアンケートを実施し、スコアの変化を確認する。
エンゲージメントサーベイは、「組織の健康診断」です。健康診断の結果を見て何もしなければ、健康は改善しません。結果を受け止め、一つずつ改善に取り組むこと。その積み重ねが、北海道の企業を「社員が活き活きと働ける組織」に変えていくと、私は確信しています。
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