
北海道の企業が「採用広報」をゼロから始める方法——求人票だけでは届かない時代の人材獲得戦略
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北海道の企業が「採用広報」をゼロから始める方法——求人票だけでは届かない時代の人材獲得戦略
「求人広告を出しても応募が来ない。ハローワークにも出した。紹介会社にも頼んだ。でも、思うような人が来ない。もう打つ手がないんです」
旭川の食品メーカーの社長が、採用活動の行き詰まりをこう表現しました。求人広告を出して応募を「待つ」時代は終わりつつあります。北海道の中小企業が人材を獲得するために必要なのは、自社の魅力を自ら発信する「採用広報」の取り組みです。
しかし、「採用広報」と聞くと、大企業がやるような洗練された動画やSNSキャンペーンを思い浮かべ、「うちにはそんな予算もノウハウもない」と尻込みする経営者が多いのが現実です。
私はこれまで500社以上の企業の人事を支援してきましたが、採用広報は大きな予算がなくても始められます。むしろ、中小企業の「素」の姿を正直に伝えることこそが、最も効果的な採用広報になる場合が多いのです。この記事では、北海道の企業が採用広報をゼロから始めるための具体的な方法を考えます。
なぜ「求人票だけ」では人が集まらないのか
理由1:求人票は「条件」しか伝えられない
求人票に書けるのは、職種、給与、勤務時間、福利厚生といった「条件」です。しかし、求職者が本当に知りたいのは「この会社で働くとはどういう体験なのか」です。職場の雰囲気、上司の人柄、仕事のやりがい、成長できる環境かどうか——こうした「定性的な情報」は、求人票では伝えきれません。
理由2:求職者は応募前に「調べる」
今の求職者は、応募前に企業の情報を徹底的に調べます。企業のWebサイト、SNS、口コミサイト、社員のインタビュー記事——検索して情報が出てこない企業は、「よくわからない会社」として候補から外されます。
北海道の中小企業の多くは、この「調べられたときの情報」が圧倒的に不足しています。Webサイトが10年前のまま、SNSアカウントがない、社員の声がどこにも掲載されていない——これでは、求人票を見て興味を持った人も、次のステップに進めません。
理由3:求人広告は「一時的」な投資
求人広告は掲載期間が終われば効果もなくなります。月20万円の求人広告を年3回出せば60万円。それで採用できなければ、60万円が消えただけです。一方、採用広報のコンテンツは一度作れば長期間にわたって効果を発揮する「資産」になります。
理由4:北海道の中小企業は「知られていない」
札幌の大企業や有名企業であれば、社名だけで応募が集まることもあります。しかし、地方都市の中小企業は、そもそも「存在を知られていない」。求人広告で一瞬目に留まっても、会社のことがわからなければ応募には至りません。
帯広の建設会社では、年間100万円を求人広告に投じていましたが、応募は年間5件にとどまっていました。求人票を見ても「よくある建設会社」としか認識されず、他社との差別化ができていなかったのです。
採用広報とは何か——「会社のことを好きになってもらう」活動
採用広報とは、求職者に対して自社の魅力や実態を継続的に発信し、「この会社で働きたい」と思ってもらうための活動です。
採用広報と求人広告の違いは以下の通りです。
求人広告
- 目的:応募者を集める
- タイミング:採用ニーズがある時だけ
- 内容:募集要項、条件
- 効果の持続:掲載期間のみ
採用広報
- 目的:自社のファンを作る
- タイミング:常時(採用ニーズがない時も)
- 内容:会社の文化、社員の声、仕事の実態
- 効果の持続:長期(コンテンツが蓄積される)
重要なのは、採用広報は「今すぐ応募する人」だけでなく、「いつか転職を考えるかもしれない人」にも届くということです。「あの会社、なんか面白そうだな」という印象を持ってもらえれば、将来の転職時に候補に入る可能性が高まります。
採用広報をゼロから始める「5つのステップ」
ステップ1:自社の「採用上の強み」を棚卸しする
まず、自社が求職者に対して持っている強みを洗い出します。多くの企業は「うちには強みがない」と言いますが、必ずあります。
強みを見つけるための質問:
- 「なぜ今の社員はこの会社で働いているのか」——在籍社員に聞いてみる
- 「この会社の好きなところは何か」——入社3年以内の社員の声が特に参考になる
- 「前の会社と比べて何が良いか」——中途入社の社員の比較視点は貴重
- 「うちの会社らしさとは何か」——経営者の言葉で表現する
- 「北海道で働くことの良さは何か」——地域の魅力も採用広報の重要な要素
函館の水産加工会社で社員にインタビューしたところ、「社長が毎朝工場を回って声をかけてくれる」「先輩が丁寧に教えてくれる」「函館の海を見ながら仕事ができる」といった声が出てきました。求人票には載らないこうした「日常のリアル」が、最も説得力のある採用広報の素材です。
ステップ2:発信するチャネルを決める
採用広報の発信チャネルは多様ですが、最初からすべてに手を出す必要はありません。自社のリソースと求職者の行動に合わせて、優先順位をつけます。
チャネル1:自社Webサイトの採用ページ 最も基本的で重要なチャネルです。求人広告を見た求職者が次に訪れるのが企業のWebサイト。ここに採用情報が充実していなければ、応募にはつながりません。
最低限掲載すべき情報:
- 会社の理念・ビジョン
- 事業内容の具体的な説明
- 社員インタビュー(2〜3名)
- 職場の写真
- 募集要項
- 応募方法
チャネル2:SNS(Instagram、X) 若手の求職者へのリーチに効果的です。週1〜2回の投稿から始められます。
- Instagram:職場の写真、社員の紹介、仕事の様子
- X:業界の話題、社内の日常、社長の考え
チャネル3:note・ブログ 社員インタビューや仕事紹介の記事を掲載。SEO効果もあり、長期的に検索経由でのアクセスが期待できます。
チャネル4:動画(YouTube、TikTok) スマートフォンで撮影した短い動画でも効果は十分です。「社員の1日」「オフィスツアー」「仕事の紹介」など。
北海道の中小企業であれば、まず「自社Webサイトの採用ページ」と「Instagram」の2つから始めるのが現実的です。
ステップ3:コンテンツを作る——「社員の声」が最強
採用広報で最も効果的なコンテンツは、「社員の生の声」です。プロのカメラマンや動画クリエイターが作る洗練されたコンテンツよりも、社員が自分の言葉で語るインタビューのほうが、求職者の心に響くことが多いのです。
コンテンツ例1:社員インタビュー
- 入社の経緯(なぜこの会社を選んだか)
- 仕事の内容(具体的に何をしているか)
- やりがいと大変なこと(リアルに伝える)
- 会社の好きなところ
- 今後の目標
苫小牧の製造業では、入社2年目のエンジニアに30分のインタビューを行い、それを記事にまとめて自社サイトに掲載しました。「工場の仕事って地味に思えるかもしれませんが、自分が作った製品が全国に届くのを見ると、本当にやりがいを感じます」——この素朴な言葉が、候補者からの反響を呼びました。
コンテンツ例2:社長メッセージ
- 会社の創業ストーリー
- 経営のビジョンと方向性
- 社員に対する思い
- 北海道でこの事業を続ける理由
コンテンツ例3:仕事紹介
- 具体的な1日のスケジュール
- プロジェクトの進め方
- チームの雰囲気
- 使用するツールや技術
コンテンツ例4:職場の日常
- ランチの風景
- 社内イベントの様子
- 北海道の季節を感じる職場環境
- 通勤の様子(冬の通勤も含めて正直に)
コンテンツ例5:福利厚生・制度の紹介
- 具体的な制度の内容と利用実績
- 制度を利用した社員の声
ステップ4:発信を継続する仕組みを作る
採用広報で最も難しいのは「継続」です。最初は意気込んで始めても、日常業務に追われて更新が止まる——このパターンが最も多い。
継続するための仕組み:
- 担当者を決める:「全員でやる」は「誰もやらない」と同義。一人の担当者を明確に決める
- スケジュールを固定する:「毎週水曜日にInstagram投稿」「月1回の社員インタビュー記事」など、スケジュールを決めて習慣化する
- ネタのストックを作る:「今月のテーマ:社員紹介」「来月のテーマ:仕事の裏側」など、3か月分のテーマを事前に決めておく
- 完璧を求めない:写真の画質が多少低くても、文章が完璧でなくても、発信を続けることが重要。完璧主義は継続の敵
札幌のIT企業では、「採用広報委員会」を3名で発足し、週1回30分のミーティングで投稿内容を決めています。メンバーが持ち回りで投稿を担当することで、負荷を分散しながら継続しています。
ステップ5:効果を測定し、改善する
採用広報の効果を定期的に測定し、改善につなげます。
測定すべき指標:
- 認知指標:Webサイトのアクセス数、SNSのフォロワー数、投稿のリーチ数
- 興味指標:採用ページの閲覧数、SNS投稿へのいいね・コメント数
- 応募指標:採用ページ経由の応募数、「SNSを見て応募した」という声の数
- 採用指標:応募者数の変化、内定承諾率の変化、採用単価の変化
3か月に1回、これらの数字を確認し、「どのコンテンツが反響があったか」「どのチャネルが効果的か」を分析して、次の3か月の施策に反映します。
北海道の企業ならではの採用広報の強み
強み1:北海道の「暮らし」を発信できる
北海道で働くことの最大の魅力の一つは「暮らし」です。豊かな自然、美味しい食事、通勤のしやすさ、子育て環境——これらは、東京や大阪の企業には発信できない、北海道企業固有の強みです。
採用広報に「北海道の暮らし」を盛り込むことで、Uターン・Iターンの求職者に対して強力なメッセージになります。
「社員の休日の過ごし方」「北海道の四季と仕事」「家族が喜ぶ北海道生活」——こうしたコンテンツは、仕事の魅力と生活の魅力を同時に伝えることができます。
帯広の食品メーカーでは、Instagramで「帯広の暮らし」シリーズを連載しています。社員が週末に出かけたスポット、帯広のグルメ、十勝の季節の風景——「この街で、この会社で働きたい」と思わせるコンテンツが、道外からの応募増加に直結しています。
強み2:「社長の顔が見える」距離感
中小企業の採用広報は、「社長の人柄」が最大の武器になります。大企業では社長の存在は遠いものですが、中小企業では社長と社員の距離が近い。この近さを採用広報に活かします。
社長自らが語る動画メッセージ、社長が社員と会話する様子、社長の経営に対する思い——「この社長のもとで働きたい」と感じてもらえれば、それは大企業にはない強力な採用力です。
強み3:地域密着のストーリー
「地域に根ざして事業をしている」というストーリーは、採用広報の強力な素材です。「北海道の食を全国に届ける」「北海道のインフラを支える」「北海道の観光を盛り上げる」——こうした地域貢献の物語は、「意味のある仕事がしたい」という求職者の心に響きます。
採用広報の「やってはいけない」こと
やってはいけない1:実態と異なるイメージを発信する
「キラキラした」イメージだけを発信し、実態とのギャップがあると、入社後のミスマッチにつながります。良い面だけでなく、「大変なこと」「まだ課題があること」も正直に伝えることが、結果として定着率を高めます。
やってはいけない2:更新が止まったまま放置する
半年前の投稿が最後のSNSアカウント、3年前の情報のままの採用ページ——これは「やっていない」より印象が悪い。更新できないなら、無理に始めないほうがまだ良い。
やってはいけない3:社員に無理やり協力させる
「SNSに顔を出して」「インタビューに答えて」——社員が嫌がっているのに強制するのは逆効果です。まず「協力してもいい」という社員から始め、自然に輪を広げていきます。
やってはいけない4:すぐに効果を求める
採用広報は、短期的なROIが見えにくい取り組みです。3か月でフォロワーが急増したり、応募が殺到したりすることは稀です。6か月〜1年のスパンで、じっくりと効果を育てていく姿勢が必要です。
事例:ゼロから採用広報を始めて採用を変えた北海道の企業
事例:帯広の建設会社(従業員40名)
この会社は、年間100万円を求人広告に投じても応募が年間5件、うち採用できたのは1名という状況でした。「このままでは事業の維持すら危うい」という危機感から、採用広報に取り組むことを決断しました。
取り組み(初年度の予算30万円)
- 自社Webサイトに採用ページを新設。社員インタビュー3名、社長メッセージ、仕事紹介、職場写真を掲載
- Instagramアカウントを開設。週2回の投稿(現場の様子、社員紹介、帯広の暮らし)
- 月1回のnote記事(社員のキャリアストーリー、仕事のやりがい)
- 採用担当者1名を「採用広報兼任」として、週3時間を採用広報に充てる
結果(1年後)
- Webサイトの採用ページ月間閲覧数:0から420PVに
- Instagramフォロワー:0から850名に成長
- note記事の累計閲覧数:3,800回
- 応募者数:年間5名から18名に増加
- 採用人数:1名から4名に増加
- 求人広告費:100万円から40万円に削減(自社メディア経由の応募が増えたため)
- 応募者の質:「SNSや記事を見て会社に興味を持った」という動機の応募者が増え、入社後のミスマッチが減少
- 採用単価:100万円/人から20万円/人に大幅改善
社長はこう話しています。「最初は『建設会社がInstagramなんて』と思っていた。でも、現場の写真を投稿し始めたら、『かっこいい』『この仕事に興味がある』というコメントがつくようになった。建設業の仕事の魅力は、見せ方次第で伝わるんだと知った」。
採用広報の「はじめの一歩」
ステップ1:社員3名に「この会社の好きなところ」を聞く
明日、社員3名に「この会社で働いていて良いと思うことは何ですか?」と聞いてみてください。その答えが、採用広報の最初のコンテンツになります。
ステップ2:スマートフォンで職場の写真を3枚撮る
明日の職場で、「仕事の様子」「チームの雰囲気」「職場からの景色」を各1枚ずつ撮影してみてください。この3枚が、採用広報の最初のビジュアル素材になります。
ステップ3:自社Webサイトの採用ページを確認する
自社のWebサイトの採用ページを開いて、「もし自分が求職者だったら、この情報で応募したいと思うか」を正直に評価してみてください。足りないものが見えてくるはずです。
採用広報は、「お金をかけて華やかに発信する」ことではありません。自社の「ありのまま」を正直に、継続的に伝えること。それが、北海道の企業が「求人票だけでは届かない」時代に人材を獲得するための、最も確実な方法だと考えています。
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