北海道の企業が「採用要件」を経営戦略から逆算する方法——「欲しい人材像」を事業計画から導き出す実践ガイド
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北海道の企業が「採用要件」を経営戦略から逆算する方法——「欲しい人材像」を事業計画から導き出す実践ガイド

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北海道の企業が「採用要件」を経営戦略から逆算する方法——「欲しい人材像」を事業計画から導き出す実践ガイド

「営業を2名採用したい」と社長から言われて、すぐに求人票を書き始める。よくある光景ですが、私はここに大きな落とし穴があると考えています。「なぜ営業が2名必要なのか」「その営業にはどんな能力が求められるのか」「3年後の事業を見据えたとき、本当に営業職が最適なのか」——こうした問いを立てないまま採用活動を始めると、採用できたとしてもミスマッチが生じやすくなります。

北海道の企業が採用市場で厳しい競争に直面しているのは周知の事実です。有効求人倍率は全国平均を上回る水準で推移し、特に札幌圏以外の地域では人材確保がますます困難になっています。だからこそ、限られた採用機会を最大限に活かすために、「経営戦略から逆算した採用要件」の設計が不可欠なのです。

私はこれまで多くの企業の採用支援に携わってきましたが、採用がうまくいっている企業には共通点があります。それは、「どんな人が欲しいか」ではなく、「事業がどこに向かっていて、そのために何ができる人が必要か」という問いから採用要件を設計しているということです。この記事では、北海道の企業が経営戦略から採用要件を逆算するための具体的な方法を解説します。


なぜ「経営戦略から逆算」が必要なのか

理由1:採用のミスマッチを防ぐ

「いい人が来たんだけど、半年で辞めてしまった」——こうした声を北海道の中小企業経営者から頻繁に聞きます。原因を探ると、採用時の要件定義が曖昧だったケースが多いのです。「明るくてコミュニケーション力がある人」「やる気のある人」といった抽象的な要件では、入社後に「思っていたのと違う」が双方に生じます。

経営戦略から逆算すれば、「3年後に道東エリアの売上を1.5倍にするために、既存顧客のアップセルができる法人営業経験者」という具体的な要件に変わります。候補者も自分に合うかどうかを判断しやすくなり、結果としてミスマッチが減少します。

理由2:採用コストの最適化

北海道の中小企業にとって、採用にかけられる予算は限られています。人材紹介会社の手数料、求人広告費、面接にかかる人件費——1名の採用に100万円以上かかることも珍しくありません。要件が曖昧なまま採用活動を進めると、「なんとなく良さそうな人」を複数面接し、結局誰も採用に至らないという事態が起こります。

経営戦略から逆算した明確な要件があれば、書類選考の段階でフィルタリングの精度が上がり、面接回数の削減につながります。

理由3:既存社員への説明責任

新しい人を採用するということは、既存の組織に変化をもたらすということです。「なぜこの人を採用したのか」を既存社員に説明できなければ、チームへの統合がうまくいきません。経営戦略に紐づいた採用要件があれば、「来期のこの事業展開のために、この能力を持つ人が必要だった」と論理的に説明できます。

理由4:事業成長のタイミングを逃さない

事業にはスピードが求められる局面があります。新規事業の立ち上げ、大型案件の受注、新拠点の開設——こうしたタイミングで「どんな人が必要か」がすでに整理されていれば、即座に採用活動を開始できます。経営戦略と採用要件が連動していない企業では、「人が足りない」と気づいてから要件を考え始めるため、常に後手に回ります。


経営戦略から採用要件を逆算する5つのステップ

ステップ1:経営計画の「人材面」を言語化する

まず、自社の中期経営計画(3〜5年)を確認します。中小企業の場合、明文化された中期経営計画がないことも多いでしょう。その場合は、社長に以下の質問をぶつけてみてください。

  • 3年後、売上をどの程度にしたいか
  • どの事業・商品・サービスを伸ばしたいか
  • 新たに参入したい分野はあるか
  • どの地域でのプレゼンスを強化したいか
  • 今のビジネスモデルで変えたい部分はあるか

旭川の食品加工会社では、社長との面談で「3年後にEC売上を全体の30%にしたい」という方針が出てきました。この一言から、「EC運営の経験者」「デジタルマーケティングのスキルを持つ人材」という採用の方向性が導き出されたのです。

重要なのは、この段階では「どんな人を採用するか」を考えないことです。まず「事業がどこに向かうか」を明確にすること。これが逆算の起点になります。

ステップ2:事業計画を「必要な機能」に分解する

経営計画が言語化できたら、次はその実現に必要な「機能」を洗い出します。ここでの「機能」とは、具体的な業務や役割のことです。

たとえば「EC売上を30%にする」という目標を分解すると、以下のような機能が必要になります。

  • ECサイトの構築・運用
  • 商品撮影とコンテンツ制作
  • 受注管理と出荷オペレーション
  • カスタマーサポート
  • デジタル広告の運用
  • データ分析と改善

これらの機能のうち、現在の社員でカバーできるものと、外部調達(採用・業務委託)が必要なものを仕分けます。

帯広の建設会社では、「道央エリアの公共工事を拡大する」という方針を分解した結果、「公共工事の入札実務」「道央の自治体との関係構築」「現場管理の増員」という3つの機能が不足していることが明らかになりました。

ステップ3:「必要な機能」を「人材要件」に変換する

洗い出した機能を、具体的な人材要件に変換します。ここで重要なのは、「経験・スキル」「行動特性」「条件面」の3つの軸で整理することです。

経験・スキル(Must/Want)

Must(必須)とWant(あれば望ましい)を明確に区分します。すべてをMustにすると、北海道の採用市場では候補者がほとんどいなくなります。

  • Must:その業務を遂行するために絶対に必要な経験やスキル
  • Want:あれば即戦力度が高まるが、入社後に習得可能なもの

苫小牧の物流会社の例では、倉庫管理の責任者採用にあたり、当初は「WMS(倉庫管理システム)の運用経験3年以上」をMustにしていました。しかし、この条件では候補者がほぼゼロだったため、「物流業界での管理職経験3年以上」をMust、「WMS運用経験」をWantに変更。結果として、WMS未経験ながら倉庫管理の改善実績が豊富な人材を採用でき、入社後3ヶ月でWMSにも習熟しました。

行動特性(コンピテンシー)

スキルや経験と同じくらい重要なのが、行動特性です。特に北海道の中小企業では、一人で複数の役割をこなす場面が多いため、以下のような行動特性が重要になります。

  • 自律的に動けるか(指示待ちではなく、自分で判断して行動できるか)
  • 変化への適応力があるか(業務範囲が変わっても柔軟に対応できるか)
  • 周囲との協調性があるか(少人数の組織では人間関係が業績に直結する)

条件面

北海道特有の条件も明確にしておきます。

  • 勤務地(札幌か地方か。転勤の有無)
  • 車の運転(地方では必須の場合が多い)
  • 冬期の通勤(積雪地域では重要な確認事項)
  • Uターン・Iターンの受け入れ体制

ステップ4:優先順位をつける

すべての採用ニーズに同時に対応することは、リソースの限られた中小企業では困難です。優先順位の判断基準は以下の通りです。

緊急度×重要度のマトリクス

  • 緊急度が高い:現在の業務に支障が出ている。既存社員の負荷が限界に近い
  • 重要度が高い:経営戦略の実現に直結する。この人材がいないと事業計画が遅延する

函館の水産加工会社では、「HACCP対応の品質管理責任者」と「EC担当者」の2名の採用ニーズがありました。緊急度ではHACCP対応が高かったのですが、経営戦略上の重要度ではEC事業の立ち上げが優先でした。結果、EC担当者の採用を先行し、HACCP対応は既存社員の研修で一時的にカバーする判断をしました。

ステップ5:採用要件を「社内で合意する」

作成した採用要件を、経営者・現場管理者・人事で共有し、合意を取ります。これは非常に重要なステップですが、多くの企業で省略されています。

合意が取れていないと、面接の評価がバラバラになります。「社長は即戦力を求めているのに、現場はポテンシャル採用を望んでいる」というズレは頻繁に起こります。

合意のためのポイントは以下の通りです。

  • 経営者には「なぜこの人材が経営計画の実現に必要か」を説明する
  • 現場管理者には「この人材が配属後にどんな業務を担うか」を具体的に示す
  • Must要件とWant要件の区分について全員の認識を揃える
  • 選考基準(何をどう評価するか)を事前に決めておく

北海道の産業別・採用要件設計のポイント

農業・食品加工業

北海道の基幹産業である農業・食品加工業では、以下の観点が重要です。

  • 季節変動への対応力:繁忙期と閑散期の差が大きいため、柔軟に役割を切り替えられる人材が求められます
  • 品質管理の知識:HACCPやGAP認証など、取引先が求める品質基準への対応能力
  • 6次産業化への対応:生産だけでなく、加工・販売まで一気通貫で考えられる視点

十勝の農業法人では、「農業の経験」をMustにしていたところ、3年間採用できませんでした。経営戦略を整理した結果、「直販比率を50%に高める」という方針が明確になり、採用要件を「食品の品質管理または営業の経験」に変更。農業未経験ながら食品メーカーでの営業経験を持つ人材を採用し、直販チャネルの開拓に成功しました。

観光・ホスピタリティ業

インバウンド需要の回復とともに、北海道の観光業では以下の人材ニーズが高まっています。

  • 多言語対応力:英語に加え、アジア圏の言語対応
  • デジタルマーケティング:OTA(オンライン旅行代理店)やSNSでの集客
  • 地域連携力:周辺の観光資源と連携した体験型サービスの企画

ニセコのリゾートホテルでは、支配人候補の採用にあたり、「ホテル業界の経験10年以上」を要件にしていました。経営戦略を確認すると「富裕層向けの長期滞在プランの開発」が最重要課題だったため、要件を「富裕層向けサービスの企画・運営経験」に変更。結果、ホテル業界ではなく高級不動産の営業経験者を採用し、長期滞在プランの売上が前年比2倍になりました。

IT・情報サービス業

札幌を中心に成長するIT業界では、技術スキルだけでなく以下の観点が重要です。

  • ビジネス理解力:技術を事業価値に変換できる思考力
  • リモートワーク適性:本州のクライアントとの遠隔コミュニケーション能力
  • マネジメント志向:組織拡大に伴うチームリードの意欲と能力

札幌のSaaS企業では、「Pythonの開発経験3年以上」という技術要件で採用活動をしていました。しかし経営戦略を確認すると、「大企業向けカスタマイズ案件の拡大」が優先課題でした。技術要件を「Webアプリケーション開発経験」に緩和し、「大企業との折衝経験」をMust要件に追加。技術力は中程度ながら、大企業のIT部門との調整に長けた人材を採用でき、大型案件の受注率が向上しました。

製造業

北海道の製造業では、以下の観点が特に重要です。

  • 多能工としての適性:少人数体制で複数の工程を担当する場面が多い
  • 設備管理の知識:老朽化した設備の維持管理、更新の判断ができる人材
  • 改善マインド:QC活動や5S活動を推進できる主体性

室蘭の金属加工会社では、「NC旋盤の操作経験5年以上」をMust要件にしていました。経営戦略を確認すると「航空宇宙部品の受注拡大」が目標でした。要件を「精密加工の品質管理経験」をMustに、「NC旋盤の操作」をWantに変更。品質管理のスペシャリストを採用した結果、航空宇宙規格の認証取得が加速し、新規受注につながりました。


採用要件を運用する際の注意点

注意点1:要件は「固定」ではなく「更新」するもの

経営環境は常に変化します。コロナ禍で観光業の採用要件が一変したように、半年〜1年ごとに経営計画と採用要件の整合性を確認してください。

注意点2:「理想の人材像」と「採用可能な人材像」のバランス

北海道の採用市場の現実を踏まえ、理想を追いすぎないことも重要です。Must要件を3つ以内に絞り、残りはWant要件とする。この割り切りが、採用成功の鍵です。

注意点3:採用要件と評価制度の連動

採用時に求めた能力が、入社後の評価制度で正しく評価される仕組みになっているか。この連動がないと、「採用時に重視した能力が、評価されない」という矛盾が生じ、早期離職の原因になります。

注意点4:現場の声を過度に反映しない

現場の管理者は、「今の業務」を基準に人材要件を考えがちです。しかし、経営戦略から逆算した採用は、「3年後の事業」を基準にするもの。現場の声は重要なインプットですが、それだけで要件を決めないようにしましょう。


実践事例:釧路の水産加工会社の場合

最後に、経営戦略から採用要件を逆算した具体的な事例を紹介します。

企業概要

  • 釧路市の水産加工会社。従業員45名
  • 主力商品:鮭・ホタテの加工品。大手スーパーへのOEM供給が売上の70%
  • 課題:OEM依存からの脱却。自社ブランドの売上比率を高めたい

経営戦略の確認(ステップ1)

社長との面談で、以下の方針が明確になりました。

  • 3年後に自社ブランド売上比率を現在の15%から40%に引き上げる
  • ECチャネルを中心に、消費者直販を強化する
  • 商品開発力を強化し、高付加価値商品のラインナップを拡充する

必要機能の洗い出し(ステップ2)

自社ブランド強化に必要な機能を整理した結果、以下が不足していました。

  • 商品企画・開発(消費者ニーズを捉えた商品設計)
  • EC運営(サイト構築・運用・改善)
  • ブランディング(パッケージデザイン・SNS発信)

人材要件への変換(ステップ3)

3つの機能を検討した結果、「商品企画とEC運営を1名で担当できる人材」を採用し、ブランディングは外部のデザイナーに委託する方針に決まりました。

採用要件は以下の通りです。

  • Must:食品業界での商品企画または営業の経験2年以上
  • Must:ECサイトの運用経験(プラットフォームは問わない)
  • Want:SNSマーケティングの実務経験
  • Want:北海道の食文化への関心
  • 行動特性:自律的に業務を設計・推進できること。少人数体制でも成果を出せること

結果

この要件で採用活動を行った結果、東京の食品メーカーでEC事業の立ち上げ経験を持つUターン希望者を採用。入社1年目で自社ECサイトを開設し、自社ブランド売上比率は15%から28%に向上しました。

社長は「以前は『営業を1名採用したい』としか言えなかった。経営戦略から逆算する方法を知って、『何のために、どんな人材が必要か』を自分の言葉で説明できるようになった」と話しています。


はじめの一歩

ステップ1:社長に「3年後の事業」を聞く

まず、経営者に「3年後、この会社をどうしたいですか」と聞いてみてください。中期経営計画がなくても構いません。社長の頭の中にある「方向性」を言語化するだけで、採用の考え方が変わります。

ステップ2:現在の採用要件を「3つの問い」で検証する

今の求人票に書かれている採用要件を、以下の3つの問いで検証してください。

  • この要件は、経営計画のどの部分に紐づいているか
  • Must要件は本当にMustか(入社後に習得できないか)
  • この要件で、北海道の採用市場に候補者は存在するか

ステップ3:次の採用案件で「逆算」を試す

次に採用ニーズが発生したら、求人票を書く前に「なぜこの人材が必要なのか」「経営計画のどの目標の実現に貢献する人材なのか」を言語化してみてください。この一手間が、採用の成功率を大きく変えます。

採用要件の設計は、人事だけの仕事ではありません。経営者と現場管理者を巻き込み、「事業の未来」を起点に考える。この視点の転換が、北海道の企業の採用力を根本から変える第一歩になると、私は確信しています。

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