
北海道の企業が「組織風土」を変えるための最初の一歩——制度では変えられない「空気」をどう動かすか
北海道の企業が「組織風土」を変えるための最初の一歩——制度では変えられない「空気」をどう動かすか
「うちの会社、何を言っても変わらないんですよ」
苫小牧の製造会社の若手社員が、面談でぽつりと漏らした一言です。この会社は、制度上は「改善提案制度」を設けていました。提案書のフォーマットも用意されていて、月に1件以上の提案が奨励されていました。しかし実態はどうか。提出された提案に対するフィードバックは一度もなく、「出しても出さなくても同じ」という空気が定着していました。
これは制度の問題ではありません。組織風土の問題です。
組織風土とは、「この組織では何が良いとされ、何が避けられるか」という暗黙の共通理解のことです。マニュアルには書かれていないけれど、全員がなんとなく共有している「空気」。この空気が、社員の行動を最も強力に方向づけます。
私はこれまで多くの企業の組織変革を支援してきましたが、組織風土の変革が最も困難であると同時に、最もインパクトの大きい取り組みであることを実感しています。制度を変えても、風土が変わらなければ形骸化する。逆に、風土が変われば、制度の運用が自然と良くなる。この記事では、北海道の企業が組織風土を変えるための具体的な第一歩を提案します。
なぜ組織風土は変えにくいのか
理由1:風土は「目に見えない」
売上目標や品質基準は数値化できますが、組織風土は数値化が困難です。「うちの会社は風通しが悪い」と感じていても、それを客観的に証明するのが難しいため、問題として認識されにくいのです。
理由2:風土は「全員でつくっている」
組織風土は、特定の誰かがつくっているものではありません。全員の日常的な行動の積み重ねが風土を形成しています。だからこそ、「誰が悪い」と指差すことができず、改善の主体が不明確になります。
理由3:風土の変化は「ゆっくり」しか起きない
制度変更は決裁一つで実行できますが、風土の変化には時間がかかります。早くても半年、通常は1〜2年の継続的な取り組みが必要です。この「すぐに効果が見えない」という特性が、経営者の忍耐を試します。
理由4:「前からこうだった」の壁
長い歴史を持つ北海道の企業では、「前からこうだった」「昔からこういうやり方だ」という言葉が変化を阻みます。特に、地域の老舗企業では、伝統と風土が結びついており、「変えること=否定すること」と受け取られがちです。
組織風土の「現在地」を知る
変えるためには、まず現状を把握する必要があります。組織風土の現在地を知るための方法を4つ紹介します。
方法1:社員アンケート
最もスタンダードな方法です。以下のような質問を設定します。
- 意見や提案を自由に発言できる雰囲気があるか
- ミスをしたとき、正直に報告できる環境があるか
- 上司や同僚からの適切なフィードバックがあるか
- 新しいことに挑戦することが歓迎されるか
- 部門間の連携はスムーズか
- 会社の方向性が理解できているか
5段階のリッカート尺度(「非常にそう思う」〜「まったく思わない」)で回答してもらいます。匿名性の確保が非常に重要です。北海道の中小企業では、「誰が何と答えたかバレるのではないか」という警戒が強いため、外部のアンケートツールの利用を推奨します。
方法2:新入社員へのヒアリング
入社1年目の社員は、組織風土を「外部の目」で見ることができる貴重な存在です。「入社前のイメージと実際の違い」「驚いたこと」「違和感を感じたこと」を聞くと、長年いる社員には見えない風土の特徴が浮かび上がります。
旭川のIT企業では、入社半年の社員から「会議で若手が発言する雰囲気がない。先輩が話し終わるのを待つだけの時間が長い」というフィードバックがありました。これは、既存社員には「当たり前」で気づけなかった風土の課題でした。
方法3:退職者の声を分析する
退職面談の記録があれば、そこに組織風土の問題が集約されていることが多いです。「人間関係」「評価への不満」「成長実感の欠如」——これらはすべて組織風土と密接に関連しています。
方法4:日常の「小さな行動」を観察する
以下のような行動を観察してみてください。
- 朝、社員同士が挨拶を交わしているか
- 会議で若手が意見を述べる場面があるか
- 部門をまたいだ雑談は発生しているか
- 困っている同僚を助ける行動が見られるか
- 成功した社員を祝福する文化があるか
これらの「小さな行動」の集積が、組織風土の実態を映し出しています。
組織風土を変える5つのアプローチ
アプローチ1:経営者の行動を変える
組織風土に最も大きな影響を与えるのは、経営者の日常的な行動です。社長が「何でも言ってくれ」と朝礼で話しても、実際に意見を言った社員を叱責すれば、「意見を言っても無駄」という風土が強化されます。
函館の建設会社の社長は、「自分が組織風土の最大の障壁だった」と振り返っています。「社員の報告に対して、つい『それで? だからどうしたいの?』と問い詰めてしまう癖があった。社員からすれば、報告するのが怖くなるのは当然だった」。
この社長が取った対策はシンプルでした。報告を受けたときの最初の一言を「ありがとう、教えてくれて助かる」に変えたのです。たったこれだけの変化で、3ヶ月後には社員からの報告件数が2倍に増え、問題の早期発見につながるようになりました。
経営者が変えるべき行動の例を挙げます。
- 報告・相談への最初の反応を肯定的にする
- 失敗を叱責せず、「何が学べたか」を問う
- 自ら新しい取り組みに挑戦し、その姿勢を見せる
- 社員の成功を公の場で承認する
- 会議で最初に発言せず、社員の意見を先に聞く
アプローチ2:「心理的安全性」の土壌をつくる
心理的安全性とは、「このチームでは、自分の意見を言っても、質問をしても、ミスを認めても、否定されたり罰せられたりしない」という感覚のことです。
心理的安全性が低い組織では、以下のような行動が蔓延します。
- ミスを隠す(報告すると叱られるから)
- 意見を言わない(否定されるのが怖いから)
- 挑戦しない(失敗したら評価が下がるから)
- 知らないことを聞けない(無能だと思われるから)
心理的安全性を高めるための具体的な施策は以下の通りです。
「ミスの共有会」の実施
月に一度、チーム内で「今月の失敗談」を共有する場を設けます。重要なのは、最初に上司が自分の失敗を話すことです。上司が弱みを見せることで、部下も安心して失敗を語れるようになります。
帯広の食品会社では、毎月の朝礼で「今月の"いい失敗"」を表彰するようにしました。「いい失敗」とは、挑戦の結果として生じた失敗のことです。これにより、「挑戦すること」自体が肯定される風土が徐々に醸成されました。
「1on1ミーティング」の導入
上司と部下が定期的に1対1で対話する場を設けます。業績の話だけでなく、「困っていること」「モヤモヤしていること」を聞く時間を確保します。
アプローチ3:「小さな成功体験」を積み重ねる
組織風土を一気に変えようとすると、抵抗が大きくなります。まず小さな変化を起こし、その成功体験を広げていく方法が効果的です。
具体的には、以下のような「小さな実験」を行います。
- 朝の挨拶を全員が行う(まず1つの部署から)
- 会議の最初5分を「良かったこと共有」に使う
- 社内の掲示板に「感謝のメッセージ」を掲示するスペースを設ける
- 月に1回、他部署の仕事を見学する「社内見学会」を実施する
北見の食品加工会社では、「ありがとうカード」という取り組みを始めました。名刺サイズのカードに、同僚への感謝のメッセージを書いて渡すというシンプルな仕組みです。最初の1ヶ月は5枚程度しか出ませんでしたが、半年後には月30枚以上のカードが交換されるようになり、部門間のコミュニケーションが明らかに改善しました。
アプローチ4:物理的環境を変える
風土は空間にも影響されます。物理的な環境の変化が、行動の変化を促すことがあります。
- 社長室のドアを常時開放する(物理的な「オープンドアポリシー」)
- 部門間の壁を取り払う(フロアレイアウトの変更)
- 共有スペースを設ける(コーヒーコーナー、休憩スペース)
- 掲示物を更新する(古い社訓のポスターから、現在の目標やチームの成果に変更)
釧路の建設会社では、現場事務所のレイアウトを変更し、工事部門と営業部門の島を隣接させました。それだけで、「ちょっと相談したいんだけど」という部門間の声掛けが増え、工事の手戻りが減少しました。
アプローチ5:「採用」で風土を変える
組織風土を変える最も確実な方法の一つは、「望む風土を体現する人材」を採用することです。
既存の社員だけで風土を変えようとすると、全員が同じ「空気」の中にいるため、変化のきっかけを掴みにくい。外部から異なる価値観や行動様式を持つ人材が加わることで、「当たり前」が揺さぶられます。
ただし、1名の中途採用者が風土を変えるのは困難です。既存の風土に同化させられてしまう可能性が高い。風土の変化を狙う場合は、同じタイミングで2〜3名の採用を行うか、影響力のあるポジション(管理職など)に新しい風土を体現する人材を配置することが効果的です。
北海道の企業に多い組織風土の課題と対処法
課題1:「年功序列」の意識が根強い
北海道の中小企業、特に老舗企業では、「年長者の意見が絶対」という風土が残っていることがあります。
対処法としては、「年齢に関係なく、良いアイデアを出した人が認められる」仕組みを作ること。たとえば、改善提案制度で提案者の名前を伏せて評価する方式を導入した旭川の製造会社では、若手の提案採用率が大幅に向上しました。
課題2:「本音を言わない」文化
「波風を立てたくない」「協調性が大事」という意識が強く、問題があっても指摘しない風土です。
対処法としては、匿名のフィードバック制度の導入が有効です。また、「KPT(Keep・Problem・Try)」というフレームワークを使った振り返り会議では、「Problem」の欄に問題を書くことが「業務の一環」として位置づけられるため、本音が出やすくなります。
課題3:「前例踏襲」の傾向が強い
「去年もこうだったから」「昔からこのやり方だ」という理由で、非効率な業務プロセスが温存される風土です。
対処法としては、定期的に「このプロセスは本当に必要か」を全員で問い直す場を設けること。函館の物流会社では、四半期ごとに「やめていいこと会議」を実施し、不要な業務を洗い出す取り組みを始めました。初回で年間120時間分の不要業務が特定されました。
課題4:「部門の壁」が厚い
部門間の連携が弱く、「あちらはあちら、こちらはこちら」という縄張り意識が強い風土です。
対処法としては、部門横断のプロジェクトチームを結成し、共通の目標に向けて協働する機会を設けること。また、月に1回の「部門間ランチ」のような非公式な交流の場も効果的です。
実践事例:千歳の食品メーカーの場合
企業概要
- 千歳市の食品メーカー。従業員68名
- 主力商品:乳製品の加工食品
- 課題:社員の受動的な姿勢。指示待ちが多く、自発的な改善提案がほとんど出ない
風土変革の取り組み
まず、社員アンケートで現状を把握しました。「意見を自由に言える雰囲気がある」に「そう思う」と答えた社員はわずか23%。「新しいことに挑戦しやすい」は18%でした。
社長はこの結果にショックを受け、自らの行動を振り返りました。「朝礼で『何かあったらいつでも言ってくれ』と言っていたが、実際に社員が相談に来ると『忙しいから後にして』と断っていたことがあった」と認めました。
以下の取り組みを12ヶ月間にわたって実施しました。
第1〜3ヶ月:経営者の行動変革
- 社長が週2回、30分間の「オープンドアタイム」を設定。この時間は社員からの相談を最優先
- 報告を受けたときの最初の言葉を「ありがとう」に統一
- 社長自ら「今月の失敗」を朝礼で共有
第4〜6ヶ月:コミュニケーションの仕組みづくり
- 全部門でKPTの振り返り会議を月1回実施
- 部門間の「お仕事見学会」を月1回実施
- 「ありがとうカード」の導入
第7〜9ヶ月:小さな成功の可視化
- 改善提案で実行されたものを全社に紹介
- 提案者を表彰(賞品は地元のスイーツなど、カジュアルなもの)
- チームとしての成功事例を社内報で共有
第10〜12ヶ月:定着と拡大
- 1on1ミーティングを全管理職に導入
- 新入社員のメンター制度を導入
- 社員アンケートの再実施
結果(1年後)
- 「意見を自由に言える雰囲気がある」:23%から52%に向上
- 「新しいことに挑戦しやすい」:18%から41%に向上
- 改善提案の件数:月平均2件から月平均12件に増加
- 離職率:11%から5%に低下
- 製品の品質クレーム:年間15件から6件に減少(報告文化の定着で問題の早期発見が可能に)
社長は「風土を変えるのは本当に時間がかかった。最初の3ヶ月は何も変わらない感覚で、正直不安だった。でも、自分の行動を変え続けることで、少しずつ社員の反応が変わっていった。振り返ると、最大の変化は自分自身の変化だった」と語っています。
はじめの一歩
ステップ1:「うちの組織の空気」を一言で表現する
自社の組織風土を、一言で表現してみてください。「慎重」「保守的」「活発」「硬直」「温かい」「冷めている」——この一言が、現在の風土を端的に示します。そして、「どんな風土にしたいか」も一言で書いてみてください。
ステップ2:「自分の行動」で一つだけ変えることを決める
組織風土を変えるには、まず自分の行動を変えることから始めます。明日からできる、たった一つの行動を決めてください。「朝、必ず全員に挨拶する」「報告を受けたら最初に感謝を伝える」「会議で最後に発言する(先に部下の意見を聞く)」——小さなことで構いません。
ステップ3:3ヶ月続ける
決めた行動を3ヶ月続けてください。最初の1ヶ月は何の変化も感じないかもしれません。しかし、3ヶ月継続すると、周囲の反応に小さな変化が見えてきます。その小さな変化が、組織風土を動かす最初の力になります。
組織風土の変革に、劇的な処方箋はありません。あるのは、経営者と人事が自らの行動を変え、小さな成功を積み重ね、根気強く続けること。北海道の企業が、社員一人ひとりが自分の力を発揮できる組織風土を築くこと。その第一歩は、明日の朝の「おはようございます」から始まります。
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