人事が「経営の話」をするとき——北海道の現場で数字と向き合う
経営参画・数字

人事が「経営の話」をするとき——北海道の現場で数字と向き合う

#1on1#採用#評価#研修#組織開発

人事が「経営の話」をするとき——北海道の現場で数字と向き合う


1. 冒頭:読者のモヤモヤを言葉に

「経営に参画したい」と思っているけれど、どこから手をつければいいかわからない——そんな感覚を持っている人事担当者の方は多いのではないでしょうか。

会議に出ても、財務や営業の話になると途端についていけなくなる。自分が担当している採用や研修の話はできても、「それが会社の業績にどうつながるのか」を説明しようとすると言葉に詰まる。

ある北海道の食品加工メーカーで人事を担当している方から、こんな話を聞いたことがあります。「社長から"最近、若手が辞めるんだよな"と言われたとき、最初は"コミュニケーション不足があるかもしれません"と答えていた。でもそれでは社長の表情が変わらなかった。あるとき試しに"過去3年の離職コストを試算すると約900万円になります。この半分の予算で育成施策を打てます"と言ったら、社長がぐっと前のめりになった」。数字を持って経営と話すことの重みを、身をもって体感した経験だったと話してくれました。

「経営に参画したい」というのは権限の話ではなく、「経営言語で話せるかどうか」の話だと感じています。


2. 北海道ならではの文脈

北海道の企業、特に中小企業では、経営者と従業員の距離が物理的にも心理的にも近いケースが多い。社長が現場に出ている、経営者が社員の名前をほぼ全員知っている——そういう組織では、逆に「人事機能」が経営の補完として動いていることがあります。

一方で、農業・酪農・水産業・食品加工業など、季節や自然条件に左右される産業では、経営の不確実性が高い。「今年の売上がどうなるか」を年初から確定的に言えない中で、人件費や採用への投資をどう正当化するかは、常に悩ましい問いです。「今年は採れ高がよくないから採用を控えよう」という判断と、「長期的に人材を育てなければ次の繁栄はない」という視点を、どう両立させるか。この問いに人事が関与できるかどうかが、組織の持続可能性を左右します。

IT・データセンター関連では、寒冷地という地理的強みを背景に北海道が注目を集めていますが、技術人材の獲得競争は全国規模で起きています。エンジニアの採用コストは1人あたり100〜200万円を超えることも珍しくなく、「採用投資が事業にどう効いているか」を数字で語れる人事が求められています。

また、UIターン・移住者の採用が主要な手段になっている企業では、「なぜ北海道でなければならないのか」「この会社の将来性は何か」という問いに、経営と一体となって答えられる人事が必要とされています。求職者は複数地域・複数企業を比較しています。「人と組織の魅力」を言語化して伝える力が、採用の勝敗を分けます。


3. なぜ今この課題が重要か

「人事が経営に参画する」というテーマが注目されるのには、理由があります。

労働人口が減少する中、採用・定着・育成の効率と効果が、企業の競争力に直結するようになっています。かつては「人事=サポートスタッフ」という認識だったとしても、今は人材戦略が経営戦略の一部になっています。

その流れの中で、人事担当者が「採用して、手続きして、研修を手配する」という業務を超えて、「どんな人材が何人いれば、この事業計画を実現できるか」という問いに答えられるかどうかが問われています。

数字で語る人事は、経営会議での発言力が変わります。「離職率が上がっています」ではなく、「離職率が1%上がると、採用・引継ぎコストで年間○百万円の追加支出になります」という伝え方ができると、経営者の表情が変わることがあります。北海道の場合、中小企業で社員100名・中途採用コスト1人80万円とすると、離職率を10%から7%に改善するだけで年間240万円のコスト削減になる計算です。この「具体的な金額」が、人事施策への投資を「コスト」ではなく「経営判断」として捉えてもらうための材料になります。


4. 実践に向けた3つの視点

視点1:人事指標を「経営数字」に翻訳する習慣を持つ

人事がよく使う指標——離職率、採用充足率、研修実施時間——は、それ自体では経営に伝わりにくい。重要なのは、これらを「事業への影響」に翻訳することです。

たとえば、「年間離職率10%、社員100名の会社で中途採用コストが1人80万円とすると、離職を5%に改善できれば年間400万円のコスト削減効果がある」という計算は、人事施策への投資を経営判断として捉えやすくします。さらに「採用充足率が90%を下回ると、既存社員の残業増加で月○万円の追加コストが発生する」という計算を加えることで、「採用への投資は保険でもある」という視点が生まれます。

こうした翻訳ができると、経営会議での発言の「重み」が変わります。感情や理念だけでなく、数字が根拠として加わることで、人事の提案が予算審議を通りやすくなります。

視点2:経営計画を「人材視点で読む」訓練をする

経営計画書や事業計画を読んで、「この計画を実現するために、どんな人材が何人必要か」「そのためにどんな採用・育成施策が必要か」を考える習慣をつけることが、経営参画の第一歩になります。

特に中小企業では、経営計画が「売上目標と経費計画」で完結していて、人材の計画が抜けているケースがあります。そこに人事として「この計画を実現するための人材要件はこれだと思います」と加えていく役割は、人事にしかできません。経営計画を「読んで理解する」だけでなく、「人材の観点から補完する」——この一歩が、人事と経営の対話の質を変えます。

視点3:経営者と「定期的な対話の場」を作る

経営参画は一朝一夕には実現しません。経営者が「人事に話を聞いてみようか」と思う関係性を、日常から作っておくことが重要です。

定期的な1on1、経営会議への陪席、月次報告の機会——形式は問いませんが、「人事からの視点」を経営者が定期的に聞く機会があることで、信頼関係が育ちます。情報を「上げるだけ」でなく、「意見と提案を持って話す」姿勢が、対等な対話を作っていきます。最初は月1回15分でもいい。「この会社の人材課題で私が気になっていること」を1つ持ち込むだけで、対話の質が変わります。

視点4:「人材データ」を蓄積・活用する習慣を持つ

経営と人事の対話の質を高めるためには、「データを持っている人事」になることが近道です。採用した人の1年後の評価スコア、チャネル別の内定承諾率、部署別の離職率——こうしたデータを地道に蓄積することで、「感覚ではなくデータで語る人事」という信頼が積み上がっていきます。

北海道の中小企業では、人事データをきちんと管理している企業はまだ多くありません。だからこそ、「データを持っている人事」は希少価値があります。ExcelでもGoogleスプレッドシートでも構いません。「採用データ・離職データ・評価データを一元管理する」という習慣が、1〜2年後に「経営の言語で話せる人事」という評価につながっていきます。


5. 事例・エピソード:ある北海道の食品メーカーの変化

ある北海道の食品メーカーでは、人事担当者が「採用と研修の実務担当」という位置づけで、経営会議には呼ばれていませんでした。

転機は、社長から「最近、若手が辞めるんだよな」という一言でした。人事担当者はその場で感覚的に答えるのではなく、「少し調べてから報告します」と言い、退職者のデータを分析。在籍2〜3年目の若手が、「成長実感が得られない」という理由で辞めているパターンを数字で示しました。

「過去3年で離職した若手の採用・引継ぎコストを試算すると、約900万円になります。この会社で毎年50万円の育成プログラムに投資した場合のコストと比べると、18年分に相当します」という資料を1枚にまとめて提示したところ、社長が真剣に聞き始めたといいます。「コストの問題だったんだな」という社長の一言が、育成投資へのゴーサインになりました。

それ以降、人事担当者は四半期ごとに「人材に関する経営課題レポート」を経営会議に提出するようになり、徐々に経営判断に関わる場が増えていきました。「以前は経営会議が終わった後に結果を聞かされていた。今は会議の場で意見を聞かれるようになった」と、その方は話してくれました。


6. よくある失敗パターン

「経営に近づこうとして、業務オペレーションが疎かになる」:経営参画を目指すあまり、日々の採用・手続き・従業員対応がおろそかになると、現場からの信頼を失います。経営への関与と現場への貢献は、二択ではなく両立するものです。「現場を知っているから経営に近い話ができる」——この順番を忘れないことが大切です。

「経営者の考えを否定するような伝え方をする」:「経営がわかっていない」という目線で話してしまうと、関係が壊れます。経営者は人事よりも、人のことや事業のことを真剣に考えている場合が多い。人事の役割は「補完する」ことであって、「替わりに考える」ことではありません。「こういう観点もあります」という提案姿勢が、対話を続かせます。

「一度の提案が通らないと諦める」:経営参画は長期的な信頼構築の積み重ねです。一度の提案が否定されても、それをデータとして蓄積し、次の提案を改善していく粘り強さが必要です。「この提案が通らなかった理由」を考えることが、次の提案の質を上げる最短ルートです。


7. 「事業を伸ばす人事」を北海道から

北海道の人事担当者が経営の言語を話せるようになると、地域の企業が変わっていく可能性があると感じています。人口が減り、採用が難しくなる中で、「今いる人材をどう活かすか」「どんな組織を作れば長く働いてもらえるか」という問いに、数字と人材の両方の視点で答えられる人事が求められています。

経営参画は権限の話ではなく、「経営のパートナーとして信頼される」という関係性の話です。その信頼は、数字を持ち込み、現場を知り、経営者の言葉を理解しようとする姿勢から生まれます。

「採用・評価・育成といったスキル」を持ちながら、「事業への貢献を語れる」——この両輪を回せる人事が、北海道の企業の未来を支えていくと思っています。

「両利きの人事」という言葉があります。「経営数字からの発想×組織状況からの発想」の両方を持てる人事です。「5人採用できた」ではなく「この採用が事業のどの課題を解決し、どれくらいの価値を生んでいるか」を語れる人事——これが北海道の企業が必要としている人事の姿です。数字を語ることへの怖さは、最初の一歩を踏み出すことで薄れていきます。まず「この施策のコストとリターンの概算を出してみる」という小さな習慣が、経営参画への第一歩になります。

経営参画は、急には実現しません。「経営会議に出たい」という気持ちより先に、「経営者が信頼して話せる人事になる」という積み重ねが必要です。人事の強みは、「数字を持ちながら人の現実も知っている」という稀有な視点にあります。北海道の中小企業では、この視点を持てる人事が経営の意思決定を豊かにするパートナーになれます。経営参画の第一歩は、「自分から話題を持っていく」という小さな勇気から始まります。月に1回、「気になっている数字を一つ持って経営者に声をかける」——このシンプルな行動が、関係性を育てていきます。


8. CTA

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