北海道の企業が人事データ活用を始めるための第一歩——「データがない」のではなく「使っていない」だけ
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北海道の企業が人事データ活用を始めるための第一歩——「データがない」のではなく「使っていない」だけ

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北海道の企業が人事データ活用を始めるための第一歩——「データがない」のではなく「使っていない」だけ

「人事データの活用って、大企業がAIを使ってやるような話でしょう?うちには関係ないですよ」

函館の食品メーカーの社長から言われた言葉です。「人事データ活用」や「ピープルアナリティクス」と聞くと、大掛かりなシステムや高度なデータ分析を想像する方が多いかもしれません。

しかし、人事データ活用の本質は、「データに基づいて人事の意思決定をする」というシンプルなことです。そして、そのデータは、実はどの企業にも既に存在しています。

私はこれまで500社以上の企業の人事を支援してきましたが、「データがないから活用できない」という企業はほとんどありません。正確には、「データはあるが、使っていない」のです。この記事では、北海道の企業が人事データ活用を始めるための、現実的な第一歩を考えます。


人事データ活用とは何か——「感覚」から「根拠」へ

人事の意思決定は、多くの場合、経営者や人事担当者の「感覚」や「経験」に基づいて行われています。

  • 「あの部署は最近雰囲気が悪い気がする」
  • 「この人は伸びそうだから管理職に抜擢しよう」
  • 「うちの離職率は高いほうだと思う」

こうした感覚が間違っているとは限りません。しかし、感覚だけでは限界があります。

  • 「雰囲気が悪い」の原因は何か?残業時間か?人間関係か?評価への不満か?
  • 「伸びそう」の根拠は何か?過去の業績か?行動特性か?上司の好みか?
  • 「離職率が高い」は具体的に何%で、どの部署が、どの年次の社員が辞めているのか?

データを見ることで、「感覚」が「根拠」に変わります。根拠があれば、対策の精度が上がり、効果の検証もできる。これが人事データ活用の核心です。


北海道の企業が既に持っている「人事データ」

「うちにはデータなんてない」という企業でも、実は以下のデータを持っています。

データ1:勤怠データ

出退勤の記録、残業時間、有給休暇の取得状況——タイムカードやExcelで管理している企業でも、このデータは存在します。

このデータからわかること:

  • どの部署の残業が多いか
  • 有給休暇を取れていない社員は誰か
  • 遅刻・欠勤が増えている社員はいないか(メンタル不調の兆候)
  • 季節による勤務パターンの変化

データ2:入退社データ

入社日、退社日、退職理由——これらの記録は、人事部門が必ず持っています。

このデータからわかること:

  • 離職率の推移(全体、部署別、年次別)
  • 入社から退職までの平均在籍期間
  • 退職が集中する時期(3月、9月など)
  • 退職理由の傾向(人間関係、待遇、キャリア不安など)

データ3:人件費データ

給与、賞与、社会保険料、福利厚生費——経理部門が管理しているデータです。

このデータからわかること:

  • 人件費の対売上比率の推移
  • 部署ごとの一人当たり人件費と一人当たり売上の関係
  • 昇給の推移とその適正さ

データ4:採用データ

応募者数、面接通過率、内定承諾率、採用チャネル別の実績——採用活動の記録です。

このデータからわかること:

  • どの採用チャネルが最も費用対効果が高いか
  • 面接での評価と入社後の活躍に相関があるか
  • 採用コストの推移

データ5:評価データ

人事評価の結果、目標の達成度——評価制度がある企業なら、このデータが蓄積されています。

このデータからわかること:

  • 高評価者と離職者の関係(優秀な人が辞めていないか)
  • 評価の分布(特定の評価に偏っていないか)
  • 評価者ごとの評価傾向(甘い評価者、厳しい評価者はいないか)

人事データ活用の「始め方」——3つのステップ

大げさなシステム導入は不要です。まず、以下の3ステップから始めましょう。

ステップ1:一つの「問い」を立てる

データを分析する前に、「何を知りたいのか」を明確にすることが最も重要です。目的のないデータ分析は、時間の浪費です。

北海道の中小企業でよくある「問い」の例を挙げます。

  • 「なぜ入社3年以内の若手が辞めるのか?」
  • 「どの部署の残業が多く、その原因は何か?」
  • 「採用にいくらかけていて、費用対効果はどうか?」
  • 「評価が高い社員に共通する特徴は何か?」
  • 「パート・アルバイトの定着率を上げるには何が効果的か?」

まずは、「今、最も知りたいこと」を一つ選んでください。

ステップ2:既存データを「集めて、並べる」

問いが決まったら、その答えを得るために必要なデータを集めます。多くの場合、Excelで十分です。

例えば、「なぜ入社3年以内の若手が辞めるのか?」という問いに対しては、以下のデータを集めます。

  • 過去5年間の入社者リスト(入社日、部署、年齢、採用チャネル)
  • うち退職した人のリスト(退職日、退職理由、在籍期間)
  • 退職者の勤怠データ(退職前6か月の残業時間、有給取得率)
  • 退職者の評価データ(直近の評価結果)

このデータをExcelに並べるだけで、「見えなかったパターン」が見えてきます。

帯広の製造業でこの作業を行ったところ、「入社3年以内の退職者の80%が、退職前3か月間に残業時間が急増していた」というパターンが見つかりました。「若手が辞めるのは、残業の急増がきっかけかもしれない」——この仮説は、データなしには生まれませんでした。

ステップ3:データから「仮説」を立て、「施策」につなげる

データから読み取れたパターンをもとに、仮説を立てます。そして、その仮説に基づいた施策を実行し、効果を検証します。

先ほどの例で言えば、「残業の急増が若手の離職を引き起こしている」という仮説に対して、「若手の残業が月40時間を超えた場合、上司にアラートを出す」という施策を導入。その結果、翌年の入社3年以内の離職率がどう変化したかを確認する。

この「問い→データ→仮説→施策→検証」のサイクルが、人事データ活用の基本的な流れです。


北海道の中小企業で「すぐに使える」データ活用の例

例1:離職予兆の把握

勤怠データを月次で確認し、以下のサインが出ている社員をリストアップします。

  • 遅刻・早退が前月比で増加している
  • 有給休暇の申請が急に増えた(もしくは、まったくなくなった)
  • 残業時間が急増、または急減した

これらのサインは、メンタル不調や離職の予兆である可能性があります。サインが出ている社員に対して、上司が声をかける、1on1を実施する——早期のアプローチが、離職やメンタル不調を防ぎます。

例2:採用チャネルの最適化

過去の採用実績を、チャネル別に整理します。

| 採用チャネル | 応募数 | 採用数 | 1年後定着数 | コスト | 1名あたりコスト | |---|---|---|---|---|---| | 求人サイトA | 30 | 3 | 2 | 120万円 | 60万円 | | 求人サイトB | 15 | 2 | 2 | 80万円 | 40万円 | | リファラル | 8 | 4 | 4 | 20万円 | 5万円 | | ハローワーク | 20 | 2 | 1 | 0円 | 0円 |

この表を作るだけで、「どのチャネルに投資すべきか」が明確になります。「応募数が多い」チャネルと「定着する人材が採れる」チャネルは、必ずしも一致しません。

例3:残業の偏りの可視化

部署別・個人別の月間残業時間を棒グラフにしてみる。すると、特定の部署や特定の個人に残業が集中していることが一目でわかります。

「全社平均の残業時間は月20時間」でも、「Aさんは月60時間、Bさんは月5時間」というような偏りがあるかもしれない。この偏りの原因を探り、業務の再配分を行うことで、長時間労働のリスクを軽減できます。

例4:評価と離職の関係分析

過去の退職者の評価結果を確認します。「高評価の社員が辞めている」のか、「低評価の社員が辞めている」のか——この傾向によって、打つべき施策が変わります。

高評価の社員が辞めている場合は、「優秀な人材にとって、この会社に留まる理由が弱い」可能性があります。キャリアパスの明示、報酬の見直し、挑戦的な仕事の提供が必要かもしれません。


データ活用の「ありがちな失敗」と対処法

失敗1:データの精度が低い

そもそも入力されたデータが不正確だと、分析結果も不正確になります。勤怠データが実態を反映していない(サービス残業がある)、退職理由が「一身上の都合」で統一されている——こうした状態では、データを活用しても正しい判断はできません。

対処法:まずは「正しいデータを取る」ことから始める。退職面談で本音の退職理由を聞く仕組みを作る。勤怠の入力ルールを徹底する。地味な作業ですが、データ活用の土台です。

失敗2:データを見ただけで「わかった気」になる

データはあくまで「傾向」を示すものであり、「原因」を直接教えてくれるわけではありません。「離職率が高い」というデータから、「なぜ高いのか」を突き止めるには、現場の声を聞く必要があります。

対処法:データ分析と現場ヒアリングをセットで行う。数字が示す傾向を、現場の実感で裏付ける。この「量と質の組み合わせ」が、正しい判断につながります。

失敗3:分析はしたが、施策に結びつかない

「離職率のレポートを作ったけど、結局何も変わらなかった」——分析がゴールになってしまうケースです。

対処法:分析の前に「この結果が出たら、こういう施策を打つ」と決めておく。分析と施策を一体で設計することで、「分析して終わり」を防ぎます。

失敗4:プライバシーへの配慮が不足

人事データは個人情報です。誰がどのデータにアクセスできるか、データをどう管理するか——プライバシーへの配慮が不十分だと、社員の信頼を損ないます。

対処法:データへのアクセス権限を明確にする。分析結果は個人が特定されない形で共有する。社員にデータの活用目的を説明し、理解を得る。


事例:人事データの活用で課題を解決した北海道の企業

事例:札幌のIT企業(従業員80名)

この企業では、入社2年以内の離職率が28%と高く、採用コストの無駄遣いが課題でした。

取り組み1:退職者データの分析

過去3年間の退職者30名のデータを集め、以下の項目で分析しました。

  • 入社時の採用チャネル
  • 配属部署
  • 入社時の面接評価
  • 退職前6か月の残業時間推移
  • 退職前3か月の1on1実施回数
  • 退職理由

発見されたパターン

  • 退職者の70%が、退職前3か月間の1on1が月1回以下だった(全社平均は月2回)
  • 退職者の60%が、特定の2部署に集中していた
  • 退職理由で最も多かったのは「キャリアの見通しが持てない」(40%)

施策

  • 全マネージャーに1on1を月2回以上実施することを義務化し、実施状況を月次で確認
  • 2部署のマネージャーに対して、マネジメント研修を実施
  • キャリアパスを明文化し、全社員に共有

結果

1年後、入社2年以内の離職率が28%から14%に改善。採用コストの削減効果は年間約400万円と推定されました。


人事データ活用の「はじめの一歩」

ステップ1:「知りたいこと」を一つ決める

「うちの離職率は何%だろう?」「どの部署の残業が多いだろう?」——まず一つ、具体的な問いを立てる。

ステップ2:Excelに既存データを集める

人事部門、経理部門、各部署が持っているデータを一つのExcelファイルに集める。この作業自体が、「うちにはこんなデータがあったのか」という発見になります。

ステップ3:データを眺めて、一つの仮説を立てる

難しい分析手法は不要です。表やグラフにしてみて、「何か気づくことはないか」と眺めてみる。パターンが見えたら、それが仮説になります。

人事データ活用は、大企業やIT企業だけのものではありません。Excelと既存のデータがあれば、今日から始められます。「感覚」で行ってきた人事の意思決定を、「根拠」に基づく意思決定に変えていく。この小さな変化が、北海道の中小企業の人事を、そして経営を、着実に前に進めていくと、私は確信しています。

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