
北海道の企業がキャリア面談を「形だけ」にしない実践アプローチ——「で、何か困ってることある?」で終わらせない
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北海道の企業がキャリア面談を「形だけ」にしない実践アプローチ——「で、何か困ってることある?」で終わらせない
「キャリア面談、やってはいるんですけど……正直、お互いに何を話せばいいかわからなくて。毎回『最近どう?困ってない?』で10分くらいで終わっちゃうんです」
札幌のIT企業の管理職から聞いた、この言葉に思わずうなずいてしまいました。こうした「形だけのキャリア面談」は、実に多くの企業で行われています。
キャリア面談の制度を導入した。しかし、面談をする側もされる側も、何を話せばいいかわからない。結果として、「やっている」という形式だけが残り、中身は空っぽ。社員は「時間の無駄」と感じ、管理職は「負担が増えただけ」と感じる。
私はこれまで500社以上の企業の人事を支援してきましたが、キャリア面談が「形だけ」になる原因は明確です。それは、「面談のスキル」の問題でも「社員のやる気」の問題でもなく、「設計」の問題です。この記事では、北海道の企業がキャリア面談を意味のあるものにするための実践的なアプローチを紹介します。
キャリア面談が「形だけ」になる5つの原因
原因1:面談の目的が曖昧
「キャリア面談をやりましょう」——このお達しだけでは、何のために面談するのかがわかりません。業績の振り返りなのか、キャリアの相談なのか、不満のヒアリングなのか。目的が曖昧だから、話す内容も曖昧になります。
原因2:面談する側のスキルが不足している
管理職の多くは、「面談の仕方」を学んだことがありません。営業のスキル、技術のスキルは学んでも、「部下のキャリアについて対話するスキル」は学ばないまま、面談の場に座っています。
結果として、「最近どう?」「困ってない?」「じゃあ頑張って」——この3つの質問で面談が終わってしまいます。
原因3:面談される側の準備がない
「来週キャリア面談ね」と言われても、何を準備すればいいかわからない。自分のキャリアについて深く考えたことがない社員にとって、「キャリアの希望は?」と聞かれても、答えようがありません。
原因4:面談の結果が何にもつながらない
面談で「こういう仕事をしてみたい」「スキルアップしたい」と話しても、その後何も変わらない。「言っても無駄だ」と感じた社員は、次から本音を話さなくなります。
原因5:時間が確保されていない
忙しい業務の合間に、「ちょっと15分だけ」で行われる面談は、深い対話になりません。面談のために十分な時間が確保されていないことが、形骸化の一因です。
キャリア面談の「本来の目的」を明確にする
キャリア面談の目的は、「社員のキャリアを会社が管理する」ことではありません。目的は、以下の3つです。
目的1:社員の「自己理解」を深める
「自分は何が得意か」「何にやりがいを感じるか」「将来どうなりたいか」——これらの問いに対する答えは、日常業務の中では考える機会がありません。面談は、社員が自分自身について考えるきっかけを提供する場です。
目的2:社員と会社の「接点」を見つける
社員の希望と、会社の方向性。この2つの接点を見つけることが、キャリア面談の最も重要な成果です。「あなたがやりたいことと、会社が必要としていることの重なりはここにある」——この発見が、社員のモチベーションと貢献の両方を高めます。
目的3:早期の「変化」に気づく
社員のキャリアに対する意識の変化、モチベーションの変化、不満の蓄積——これらに早期に気づくことで、離職を防ぎ、適切な対応ができます。
キャリア面談を「意味あるもの」にする設計——7つの要素
要素1:面談の目的とルールを明文化する
キャリア面談の目的、頻度、時間、守秘義務のルールを明文化し、面談をする側・される側の両方に事前に共有します。
- 目的:社員のキャリアについて対話し、成長を支援すること
- 頻度:半年に1回(四半期に1回が理想的)
- 時間:1回あたり45〜60分
- ルール:面談の内容は本人の同意なく第三者に共有しない。評価面談とは別の場として実施する
特に重要なのは、「キャリア面談は評価面談ではない」ということを明確にすること。評価面談では、社員は「良い評価を得たい」という意識が働き、本音を話しにくい。キャリア面談は、評価とは切り離された「安心して話せる場」であるべきです。
要素2:面談する側(管理職)の研修
キャリア面談のスキルを、管理職に教育します。最低限、以下のスキルを身につけてもらいます。
- 傾聴のスキル:相手の話を最後まで聞く。途中で遮らない。「うん、うん」と相づちを打つ
- 質問のスキル:オープンクエスチョン(「はい/いいえ」で答えられない質問)を使う。「どう思いますか?」「具体的にはどういうことですか?」
- リフレクション:相手の言葉を言い換えて返す。「つまり、○○ということですね」
- アドバイスではなく、問いを投げる:「こうしたほうがいい」と答えを与えるのではなく、「どうしたいと思いますか?」と本人に考えてもらう
函館の製造業では、キャリア面談を導入する前に、管理職8名に対して半日の「面談スキル研修」を実施しました。ロールプレイングで実際の面談場面を練習し、フィードバックを受ける。この研修があるかないかで、面談の質は大きく変わります。
要素3:面談される側(社員)の事前準備
社員に、面談前に以下の質問について考えてきてもらいます。
- この半年間で、最もやりがいを感じた仕事は何ですか?
- この半年間で、最も困ったことは何ですか?
- 今後、伸ばしたいスキルや経験は何ですか?
- 1年後、3年後にどうなっていたいですか?
- 会社や上司に対して、リクエストがありますか?
この「事前シート」を面談の3日前に配布し、記入してきてもらう。事前準備があるだけで、面談の質が格段に上がります。
要素4:面談の「型」を用意する
面談の流れを、ある程度の「型」に沿って進めることで、面談する側も安心して進行できます。
面談の流れ(45分の場合)
- 導入(5分):「今日はキャリアについてじっくり話しましょう」と場の雰囲気を作る
- 振り返り(10分):「この半年間で、やりがいを感じたことは?」「困ったことは?」
- 自己理解(10分):「自分の強みは何だと思いますか?」「どんな仕事をしている時が楽しいですか?」
- 将来の展望(10分):「1年後、3年後にどうなっていたいですか?」「挑戦してみたいことはありますか?」
- アクションの設定(5分):「この半年間で、何に取り組みますか?」具体的な行動を1〜2つ設定する
- クロージング(5分):「今日話したことをまとめると……」面談の内容を確認し、次回の面談日程を決める
要素5:面談の結果を「アクション」につなげる
面談で話した内容を、具体的なアクションにつなげることが最も重要です。
- 「マーケティングに興味がある」→ マーケティング部署のプロジェクトに参加する機会を調整する
- 「スキルアップしたい」→ 具体的な研修プログラムを紹介し、参加の手配をする
- 「マネジメントに挑戦したい」→ 小さなプロジェクトのリーダーを任せてみる
- 「ワークライフバランスを改善したい」→ 業務の優先順位を一緒に見直す
面談で「言ったことが実際に動いた」という経験が、次の面談への信頼を生みます。
要素6:記録と引き継ぎ
面談の内容を、簡潔に記録し、本人と共有します。次回の面談で、前回の内容を振り返ることで、「つながり」のある対話になります。
管理職が異動した場合にも、適切に引き継ぎができるよう、記録のフォーマットを統一しておくことが重要です。
要素7:経営者自身が面談を受ける
経営者やマネジメント層が自らキャリア面談を受ける経験をすることで、面談の価値を実感できます。外部のコーチやメンターとの対話を通じて、「面談される側の気持ち」を理解することが、組織全体の面談の質を高めます。
北海道の中小企業ならではのキャリア面談の工夫
工夫1:「北海道で働くキャリア」を語る場にする
北海道で働くことの意味、地域への貢献、北海道ならではのキャリアの形——面談の中で、こうしたテーマを語ることで、社員の「ここで働く理由」が明確になります。
「東京に行けば選択肢は広がるかもしれない。でも、北海道だからこそできるこの仕事に、自分はやりがいを感じている」——こうした気づきを促す面談は、社員の定着に大きく寄与します。
工夫2:小さな会社だからこそ「社長面談」
社員30名以下の企業なら、社長自身がキャリア面談を行うことも可能です。「社長が自分のキャリアに関心を持ってくれている」——この実感は、中小企業ならではの強みです。
北見の食品メーカー(社員20名)では、社長が全社員と年2回のキャリア面談を行っています。「社長と直接話せるから、自分の想いが会社に届いている気がする」という社員の声が、定着率の高さにつながっています。
工夫3:季節を活かした面談スケジュール
北海道の産業は季節の影響を受けます。農業、観光業、建設業——繁忙期を避け、比較的余裕のある閑散期にキャリア面談を設定することで、落ち着いた対話ができます。
キャリア面談で「聞いてはいけないこと」と「聞くべきこと」
聞いてはいけないこと
- 「いつまでうちにいるつもり?」(退職を前提にした質問は不信感を生む)
- 「転職は考えてないよね?」(プレッシャーをかけるとかえって本音を引き出せない)
- 「○○さんのことどう思う?」(人間関係の評価を求める質問は面談の場にふさわしくない)
聞くべきこと
- 「今の仕事で、一番面白いと感じることは?」
- 「もし何でもできるとしたら、どんな仕事をしてみたいですか?」
- 「自分の成長のために、会社に協力してほしいことはありますか?」
- 「仕事以外で大切にしていることは何ですか?」
- 「今の環境で、変えてほしいことはありますか?」
特に「もし何でもできるとしたら」という質問は、社員の潜在的な希望を引き出すのに効果的です。制約を外して考えることで、本当にやりたいことが見えてきます。
事例:キャリア面談の改革で組織が変わった北海道の企業
事例:札幌の中堅企業(従業員90名)
この企業では、年1回のキャリア面談を実施していましたが、「形だけ」の状態が3年以上続いていました。社員アンケートで「キャリア面談が役に立っている」と答えた社員はわずか18%。
取り組み
- 面談の目的とルールを明文化し、全社に共有
- 管理職12名に「面談スキル研修」を半日で実施。ロールプレイングを重視
- 事前準備シートを導入し、社員に面談3日前に記入してもらう
- 面談の頻度を年1回から半年に1回に変更
- 面談の結果を具体的なアクションにつなげる仕組みを構築
- 面談後のフォローアップを人事部門が担当
結果(1年後)
- 「キャリア面談が役に立っている」と答えた社員:18%から72%に増加
- 「自分のキャリアの方向性が見えている」と答えた社員:25%から61%に増加
- 面談をきっかけにした異動・配置転換:8件(うち7件が本人の希望に基づくもの)
- 離職率:14%から9%に改善
- 社員アンケートの「上司との信頼関係」スコア:58点から76点に向上
管理職の意識も変わりました。「最初は面倒だと思っていたが、部下のことを深く知れるようになって、日常のマネジメントもやりやすくなった」。
キャリア面談の「はじめの一歩」
ステップ1:事前シートを一つ作る
面談前に社員に考えてきてもらう質問を、5問程度まとめたシートを作る。このシートがあるだけで、面談の深さが変わります。
ステップ2:まず1人の社員と、45分の面談をやってみる
完璧な仕組みを作る前に、まず1人と面談してみる。うまくいかなくてもいい。その経験から、「次はこうしよう」というヒントが得られます。
ステップ3:面談の結果を一つの「アクション」にする
面談で話した内容から、一つだけ具体的なアクションを決める。「来月の○○研修に参加する」「○○のプロジェクトを見学する」——小さなアクションでいいので、面談が「具体的な一歩」につながる経験を作る。
キャリア面談は、「やるだけ」では意味がありません。しかし、正しく設計し、丁寧に実施すれば、社員と組織の両方を成長させる強力なツールになります。「で、何か困ってることある?」で終わる面談から、「今日話せて良かった」と思える面談へ。その変化が、北海道の企業の組織力を根本から高めると、私は信じています。
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