
北海道の中小企業が「人事ポリシー」を言語化する方法——「なんとなく」の人事から「一貫した」人事へ
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北海道の中小企業が「人事ポリシー」を言語化する方法——「なんとなく」の人事から「一貫した」人事へ
「うちの人事って、その場しのぎなんですよ。採用も評価も異動も、その時々の状況で決めている。何か一本筋が通ったものがほしいんです」
釧路の建設会社の専務が、こう打ち明けました。多くの北海道の中小企業が同じ悩みを抱えています。採用方針が毎年変わる。評価の基準が曖昧。異動の理由が社員に説明できない。「なんとなく」「社長の判断で」「前例に倣って」——こうした属人的で場当たり的な人事が、社員の不信感や不公平感を生んでいます。
この問題を解決するのが「人事ポリシー」の言語化です。人事ポリシーとは、「この会社は人に対してどう向き合うか」を明文化したものです。採用、評価、育成、配置、報酬——すべての人事施策の基盤となる「考え方」です。
私はこれまで500社以上の企業の人事を支援してきましたが、人事ポリシーが明確な企業とそうでない企業では、社員の納得感と定着率に明確な差があります。この記事では、北海道の中小企業が人事ポリシーを言語化するための具体的なプロセスを考えます。
人事ポリシーがない企業で何が起きているか
問題1:人事の判断が属人的
「社長が決めたから」が唯一の根拠になっている人事判断。社長が代わったり、気分が変わったりすれば、基準も変わる。社員からすれば、「何を基準に決めているのかわからない」状態です。
問題2:採用のミスマッチ
「どんな人を採りたいか」が曖昧なまま採用活動を行うと、面接官の個人的な好みで採否が決まりがちです。結果として、組織の方向性に合わない人を採用してしまう。
旭川のサービス業では、「元気な人がいい」「コミュニケーション力がある人」という漠然とした採用基準で中途採用を3名行いましたが、1年以内に2名が退職。退職理由は「想像していた会社の雰囲気と違った」でした。
問題3:評価への不満
評価の基準が明文化されていないと、「何を頑張れば評価されるのか」がわからない。社員は「好き嫌いで決まっている」と感じ、評価への不信感が蓄積します。
問題4:社員のキャリア不安
「この会社はどんな人を大切にするのか」「どうすれば成長できるのか」がわからないと、社員は自分のキャリアに不安を感じます。特に若手社員にとって、この不安は離職の大きな要因です。
問題5:人事施策の一貫性の欠如
採用では「チームワーク重視」を謳いながら、評価は「個人の数字」だけで行う——こうした矛盾が、社員を混乱させます。人事ポリシーがなければ、各施策の間に一貫性を持たせることが難しい。
人事ポリシーとは何か——その構成要素
人事ポリシーは、以下の要素で構成されます。
要素1:人材に対する基本的な考え方
「この会社にとって、人材とは何か」「社員をどう扱うか」という根本的な姿勢を言葉にします。
例:
- 「私たちは、社員を最も重要な経営資源と考えます」
- 「社員の成長が会社の成長につながると信じています」
- 「一人ひとりの個性と強みを活かす組織を目指します」
要素2:求める人材像
「どんな人と一緒に働きたいか」「どんな人を評価するか」を具体的に定義します。
例:
- 「自ら考え、行動できる人」
- 「チームのために貢献できる人」
- 「変化を恐れず、挑戦し続ける人」
- 「誠実に仕事と向き合う人」
要素3:採用のポリシー
「どのような基準で採用するか」「何を重視するか」を明確にします。
例:
- 「スキルよりも人柄と成長意欲を重視します」
- 「北海道で長く働きたいという意志を大切にします」
- 「多様なバックグラウンドを持つ人材を歓迎します」
要素4:評価のポリシー
「何を評価するか」「どう評価するか」の方針を示します。
例:
- 「成果とプロセスの両方を評価します」
- 「透明な基準に基づき、対話を通じて評価します」
- 「評価は成長のためのフィードバックの機会です」
要素5:育成のポリシー
「社員の成長をどう支援するか」を示します。
例:
- 「挑戦する機会を意図的に提供します」
- 「失敗を学びの機会として受け止めます」
- 「OJTと研修の両輪で成長を支援します」
要素6:報酬のポリシー
「報酬をどう決めるか」の考え方を示します。
例:
- 「成果と能力に応じた公正な報酬を提供します」
- 「地域の相場を踏まえた競争力のある報酬を目指します」
- 「会社の業績を社員と共有するインセンティブ制度を設けます」
人事ポリシーを言語化する「5つのプロセス」
プロセス1:経営理念との接続
人事ポリシーは、経営理念やビジョンから導かれるものです。「会社として何を目指すか」→「そのためにどんな人材が必要か」→「その人材をどう採用し、育て、評価するか」——この流れで考えます。
帯広の食品メーカーでは、「北海道の食で人を幸せにする」という経営理念から、「食に情熱を持ち、品質にこだわり、チームで成果を出す人材を求める」という人事ポリシーを導き出しました。
プロセス2:経営者の「人への思い」を言語化する
中小企業の人事ポリシーは、経営者の価値観を色濃く反映するものです。経営者に以下の問いを投げかけ、その答えを言語化します。
- 「どんな社員が一番ありがたいですか?」
- 「社員にどう成長してほしいですか?」
- 「社員にとってこの会社をどんな場所にしたいですか?」
- 「評価で一番大切にしていることは何ですか?」
- 「採用で最も重視していることは何ですか?」
プロセス3:社員の声を反映する
経営者の思いだけでなく、社員が「この会社に何を期待するか」「何に不満を感じているか」を把握し、人事ポリシーに反映します。社員アンケートや面談を通じて、以下を確認します。
- 「この会社で働いていて良いと思うこと」
- 「人事に関して改善してほしいこと」
- 「どんな会社であれば長く働きたいか」
プロセス4:管理職との対話で具体化する
人事ポリシーの実行者は管理職です。管理職と対話し、「このポリシーは現場で実践可能か」「このポリシーがあれば判断に迷わなくなるか」を確認しながら、内容を具体化します。
札幌の中堅企業では、経営者が起草した人事ポリシーの素案を、管理職6名と3回のワークショップで議論・修正しました。「机上の理想」ではなく「現場で使えるポリシー」に磨き上げるプロセスです。
プロセス5:文書化し、全社に共有する
完成した人事ポリシーを文書にまとめ、全社に共有します。社内ポータルや掲示板に常時掲載し、新入社員のオリエンテーションでも説明します。
文書のボリュームは、A4用紙1〜2枚程度が理想です。長すぎると読まれません。シンプルで、覚えやすく、日常の判断で参照できるものにします。
人事ポリシーの「使い方」——日常に活かす
作っただけでは意味がありません。人事ポリシーを日常の判断に活かすことが重要です。
採用の場面
- 面接の評価基準を、人事ポリシーの「求める人材像」に基づいて設計する
- 「この候補者は、うちの人事ポリシーに合っているか」を面接官全員が確認する
評価の場面
- 評価基準を人事ポリシーの「何を評価するか」と整合させる
- 評価面談で「このポリシーに照らして、あなたのこの行動は高く評価できる」と伝える
育成の場面
- 育成計画を「人事ポリシーで求めるスキルや姿勢」に基づいて設計する
- 「このポリシーに沿って成長することが、あなたのキャリアにとっても会社にとっても良い」と伝える
配置・異動の場面
- 配置の決定理由を、人事ポリシーに基づいて説明する
- 「あなたの強みを活かすために、このポジションを提案する」と理由を明示する
北海道の中小企業ならではの人事ポリシーの特徴
特徴1:「北海道で働くこと」への言及
北海道の企業の人事ポリシーには、「北海道で暮らし、働くことの意味」を盛り込むことで、地域への帰属意識を高める効果があります。
「北海道の地域経済を支える人材を育てます」「北海道で長く活躍し続けるキャリアを応援します」——こうした文言が、社員のアイデンティティを強化します。
特徴2:「チームワーク」の重視
北海道の中小企業では、少人数で助け合いながら仕事をする文化が強い。この「チームワーク」を人事ポリシーの中核に据えることで、協力の文化を明示的に支持します。
特徴3:「実直さ」「誠実さ」の強調
北海道の企業文化として、「飾らない」「正直」「実直」という価値観が根づいている企業が多い。こうした文化的特徴を人事ポリシーに反映することで、「うちらしさ」のある人事の基盤を作れます。
事例:人事ポリシーの言語化で組織が変わった北海道の企業
事例:函館の製造業(従業員50名)
この企業は、人事の判断が場当たり的で、社員の不信感が蓄積していました。「なぜあの人が昇進したのか」「なぜこの異動なのか」——説明できない人事判断が、組織の信頼を損なっていました。
取り組み
- 社長と幹部3名で「人事への思い」を2時間のワークショップで議論
- 全社員にアンケート(「この会社に何を期待するか」「人事に関する不満」)
- 管理職5名との対話セッション(3回、各1.5時間)で内容を具体化
- A4用紙1枚の「人事ポリシー」を策定し、全社に公開
- 採用基準、評価基準、育成計画を人事ポリシーに基づいて再設計
- 年1回、全社ミーティングで人事ポリシーの確認と見直しを実施
策定された人事ポリシーの骨子
- 私たちは、社員の成長が会社の成長の源泉だと考えます
- 私たちは、誠実に仕事と向き合い、チームで成果を出す人を求めます
- 私たちは、成果とプロセスの両方を公正に評価します
- 私たちは、挑戦する人を応援し、失敗から学ぶ文化を大切にします
- 私たちは、透明な基準と対話に基づく人事を行います
結果(1年後)
- 「人事の判断に納得している」社員の割合:30%から65%に向上
- 「会社が何を期待しているかわかる」社員の割合:40%から78%に向上
- 採用面接での評価のばらつき:面接官間の評価差が平均1.2ポイントから0.4ポイントに縮小
- 離職率:15%から9%に改善
- 管理職の「人事判断に自信がある」割合:28%から62%に向上
社長はこう話しています。「以前は自分の頭の中にだけあった人事の考え方を、言葉にして全社に共有した。それだけで、こんなに変わるとは思わなかった。社員が『この会社は人を大切にしている』と感じてくれるようになったことが、一番嬉しい」。
人事ポリシー言語化の「はじめの一歩」
ステップ1:経営者が「どんな社員が一番ありがたいか」を書き出す
5分でいいので、「自分がこの会社で一番ありがたいと思う社員の特徴」を3つ書き出してみてください。それが、人事ポリシーの「求める人材像」の原型になります。
ステップ2:社員5名に「この会社の人事で改善してほしいこと」を聞く
匿名でもいいので、「人事に関して不満や要望があれば教えてほしい」と聞いてみてください。その声が、人事ポリシーで解決すべき課題を教えてくれます。
ステップ3:A4用紙1枚に「うちの人事の考え方」を書いてみる
完璧でなくていい。「うちの会社は、人に対してこう向き合う」を5〜6項目で書いてみる。この下書きが、人事ポリシーの最初の形になります。
人事ポリシーは、「立派な文書を作ること」が目的ではありません。「この会社は人をどう大切にするか」を言葉にし、全社員と共有することで、「なんとなく」の人事を「一貫した」人事に変えること。北海道の中小企業がこの一歩を踏み出し、社員が安心して力を発揮できる組織を作ることを願っています。
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