北海道の企業が「等級制度」を再設計するときの考え方——社員のキャリアの「地図」を描き直す
評価・等級制度

北海道の企業が「等級制度」を再設計するときの考え方——社員のキャリアの「地図」を描き直す

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北海道の企業が「等級制度」を再設計するときの考え方——社員のキャリアの「地図」を描き直す

「うちの等級って、何のためにあるんですかね」

釧路の建設会社の中堅社員が、率直にこう問いかけてきました。この会社には1級から7級までの等級制度がありましたが、「自分が今3級であること」の意味を理解している社員はほとんどいませんでした。等級が上がっても給与の変化は月額5,000円程度。昇格の基準も曖昧で、「勤続年数が長くなると自動的に上がる」という認識が広まっていました。

等級制度は、本来「社員のキャリアの地図」です。「あなたは今ここにいる。次に目指すのはここで、そのために必要なことはこれ」——こうした羅針盤としての機能を果たしてこそ、等級制度は組織にとって価値を持ちます。

しかし現実には、多くの北海道の中小企業で等級制度が形骸化しています。形骸化した等級制度は、社員のモチベーションを高めるどころか、「頑張っても頑張らなくても同じ」という無力感を生み出します。

この記事では、北海道の企業が等級制度をどう再設計すれば、社員の成長とキャリア形成を支える実効的な仕組みになるかを解説します。


等級制度の基本的な種類

等級制度には大きく3つの種類があり、それぞれ特徴が異なります。

職能等級制度:社員の「能力」に基づいて等級を決める制度です。日本の多くの企業で採用されてきました。

  • メリット:柔軟な配置転換が可能。社員の成長を段階的に評価できる
  • デメリット:能力の評価が主観的になりやすい。年功序列化しやすい

職務等級制度:担当する「職務」の価値に基づいて等級を決める制度です。

  • メリット:客観性が高い。同一労働同一賃金の原則に合致しやすい
  • デメリット:柔軟な配置転換がしにくい。中小企業では職務の線引きが難しい

役割等級制度:組織における「役割」の大きさに基づいて等級を決める制度です。

  • メリット:職能と職務の中間で、柔軟性と客観性のバランスが良い
  • デメリット:「役割」の定義が曖昧になると、職能等級と同じ問題が生じる

北海道の中小企業にお勧めするのは、「役割等級制度」をベースにした設計です。職能等級のように「能力があるかどうか」で判断するのではなく、「実際にどんな役割を果たしているか」で判断する。しかし、職務等級のように厳密に職務を限定するのではなく、柔軟に役割の範囲を調整できる。中小企業の実態に最も合った方式です。


等級制度を再設計する5つのステップ

ステップ1:現行制度の問題点を洗い出す

まず、現行の等級制度の問題点を具体的に把握します。

以下の質問に答えてみてください。

  • 各等級の定義を、社員の50%以上が説明できるか
  • 昇格の基準は明文化されていて、社員に周知されているか
  • 等級と報酬の連動は明確か
  • 等級間の差(期待される役割の違い)は実感できるか
  • 等級が年功序列化していないか
  • 管理職以外のキャリアパスが等級制度に反映されているか

旭川の食品メーカーでは、この質問に対する回答を管理職10名に聞いたところ、「等級の定義を説明できる」と答えたのは2名だけでした。この結果が、等級制度の再設計を後押しする根拠になりました。

ステップ2:等級の数と構造を決める

等級の数は、組織の規模に応じて決めます。

  • 従業員20名以下:3〜4等級
  • 従業員20〜50名:4〜5等級
  • 従業員50〜100名:5〜6等級
  • 従業員100名以上:6〜8等級

等級が多すぎると、等級間の差が不明確になり、管理が複雑化します。少なすぎると、同じ等級内での能力差が大きくなりすぎます。

北海道の中小企業(従業員30〜80名程度)では、5等級が最も運用しやすいバランスです。

5等級の基本構造の例を示します。

G1(一般職):指導を受けながら定型業務を遂行する。職場のルールと基本的な業務プロセスを習得する段階。

G2(中堅職):自律的に業務を遂行し、一定の判断を自分で行える。後輩への助言も行う段階。

G3(リーダー職):チームの業務を管理し、メンバーの育成を担う。問題解決と改善提案を主導する段階。

G4(管理職):部門の目標設定と戦略立案を行い、組織全体の成果に責任を持つ段階。

G5(経営幹部):経営判断に参画し、全社的な視点で組織をリードする段階。

ステップ3:各等級の「期待役割」を定義する

各等級に対して、「この等級の社員に何を期待するか」を明確に定義します。定義は以下の4つの軸で整理します。

業務遂行力:どのレベルの業務を、どの程度の自律性で遂行することを期待するか

問題解決力:どの程度の複雑さの問題を、どの範囲で解決することを期待するか

対人影響力:どの範囲の人に、どのような影響を与えることを期待するか

経営への貢献:経営目標の達成にどの程度直接的に貢献することを期待するか

各軸について、各等級の期待レベルを具体的な行動で記述します。

帯広の物流会社での定義の例です。

G2(中堅職)の場合:

  • 業務遂行力:担当業務を自律的に計画・遂行できる。標準外の状況にも適切に対応できる
  • 問題解決力:日常的な問題を自分で解決できる。原因を特定し、再発防止策を提案できる
  • 対人影響力:後輩に業務の手順を教えられる。社内の関係部門と円滑に連携できる
  • 経営への貢献:自部門の目標を理解し、その達成に向けて行動できる

ステップ4:等級と報酬の連動を設計する

等級と報酬の連動は、等級制度の実効性を左右する最重要ポイントです。

各等級に報酬レンジ(幅)を設定します。レンジには重複部分を持たせることが一般的です。

例(北海道の中小製造業の場合):

  • G1:月額18万〜24万円
  • G2:月額22万〜30万円
  • G3:月額28万〜38万円
  • G4:月額35万〜48万円
  • G5:月額45万〜60万円

レンジに幅を持たせることで、同じ等級内でも成果や能力に応じた報酬差を設定できます。レンジの重複部分(G2の上位とG3の下位が重なる部分)は、「昇格しなくても現等級内で報酬が上がる余地」を確保します。

ステップ5:昇格基準を明確にする

昇格の基準は、「定量的な基準」と「定性的な基準」の両方を設定します。

定量的な基準

  • 現等級での在籍年数(最低在籍期間)
  • 直近2〜3期の評価結果(「期待以上」が○回以上)
  • 必要な資格・研修の修了

定性的な基準

  • 上位等級の期待役割を、すでに部分的に果たしているか
  • 上位等級で活躍できるポテンシャルがあるか
  • 上位等級に見合う行動が日常的に見られるか

昇格は「ご褒美」ではなく、「より大きな役割を担うことへの期待」であることを明確にします。


北海道の企業に多い等級制度の課題と対処法

課題1:年功序列化

勤続年数が長ければ自動的に等級が上がる状態。対処法としては、昇格に「評価基準のクリア」を条件にすること。在籍年数は必要条件にしても、十分条件にはしません。

課題2:管理職ポストの不足

等級が上がると管理職になるしかない構造では、管理職ポストが不足します。対処法としては、「専門職コース」を設けること。管理職にならなくても等級が上がるキャリアパスを用意します。

課題3:降格の仕組みがない

一度上がった等級は下がらない——この前提は、「昇格した後にパフォーマンスが低下した社員」の処遇に困ります。対処法としては、降格の基準と手続きを制度として明文化すること。ただし、降格は社員のモチベーションに大きな影響を与えるため、慎重な運用が必要です。

課題4:中途入社者の格付け

中途入社者をどの等級に格付けするかは、既存社員との公平性の観点で重要です。対処法としては、中途入社者の格付け基準を事前に明確化すること。経験年数ではなく、実際の役割遂行レベルで判断します。


実践事例:苫小牧の自動車部品メーカーの場合

企業概要

  • 苫小牧市の自動車部品メーカー。従業員65名
  • 旧制度:職能等級制度。1〜9等級。1997年に導入して以来、見直しなし

旧制度の問題

  • 等級の定義が抽象的で、社員が理解していない
  • 昇格が実質的に年功序列化
  • 7等級以上は管理職のみ。技術のスペシャリストが昇格できない
  • 等級間の報酬差が小さく、昇格のインセンティブが弱い

再設計のプロセス

経営者、人事、各部門の管理職で構成する「等級制度改革プロジェクトチーム」を結成し、6ヶ月かけて新制度を設計しました。

新制度の概要

5等級の役割等級制度を採用。管理職コースと専門職コースの複線型を導入。

管理職コース

  • G1(スタッフ)→ G2(シニアスタッフ)→ G3(チームリーダー)→ G4(マネージャー)→ G5(ディレクター)

専門職コース

  • G1(スタッフ)→ G2(シニアスタッフ)→ G3(エキスパート)→ G4(シニアエキスパート)→ G5(フェロー)

両コースの同等級の報酬レンジは同一に設定。

昇格基準

  • 直近3期の評価で「期待以上」が2回以上
  • 上位等級の期待役割を部分的に果たしていること(上長の推薦)
  • G3以上への昇格には、昇格面接(人事と部門長による面接)を実施

移行方法

  • 全社員の現等級から新等級への格付けシミュレーションを実施
  • 個別面談で新等級と報酬の変化を説明
  • 移行による報酬減少が生じる社員には、3年間の移行調整手当を支給

結果(導入2年後)

  • 「自分の等級の意味を理解している」社員:22%から88%に向上
  • 「昇格基準が明確だ」と感じる社員:15%から75%に向上
  • 専門職コースを選択した社員:8名(うち技術のベテラン5名が「モチベーションが上がった」と回答)
  • 離職率:13%から7%に低下
  • 若手社員の「キャリアの見通しが持てる」回答率:30%から68%に向上

社長は「等級制度を25年間放置していたことを反省している。社員が『自分の立ち位置がわからない、行き先もわからない地図』を見せられていたようなものだった。新しい等級制度は、社員のキャリアの地図として機能し始めている」と評価しています。


はじめの一歩

ステップ1:社員5名に「自分の等級の意味」を聞く

異なる等級の社員5名に、「あなたの等級はどういう意味ですか」「次の等級に上がるには何が必要ですか」と聞いてみてください。答えられない社員が多ければ、等級制度の再設計が必要なサインです。

ステップ2:「等級が上がって変わること」を書き出す

現行制度で等級が1つ上がったとき、何が変わるかを書き出してください。給与、役割、権限、期待——変化が小さすぎるなら、等級制度が機能していない可能性があります。

ステップ3:「理想の等級数」を仮決めする

自社の規模と組織構造を踏まえ、等級をいくつにするのが適切か、仮の数字を決めてみてください。その等級数で、全社員をどう配置するかをイメージするだけでも、再設計の方向性が見えてきます。

等級制度は、社員のキャリアの「地図」です。現在地がわかり、目的地がわかり、そこに至るルートがわかる——そんな地図があれば、社員は自らの意思で成長の旅を歩み始めます。北海道の企業が、社員一人ひとりのキャリアを照らす等級制度を再設計すること。その作業は、組織の未来への投資にほかなりません。

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