北海道の中小企業が「人事制度のスリム化」で運用負荷を下げる方法——制度を「捨てる・縮める・まとめる」発想で再設計する
評価・等級制度

北海道の中小企業が「人事制度のスリム化」で運用負荷を下げる方法——制度を「捨てる・縮める・まとめる」発想で再設計する

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北海道の中小企業が「人事制度のスリム化」で運用負荷を下げる方法——制度を「捨てる・縮める・まとめる」発想で再設計する

「評価シートの項目が多すぎて、現場から『書くだけで半日かかる』と言われています」

札幌の建設会社で人事を担当している方から、こんな相談を受けました。評価シートを見せてもらうと、A4用紙4枚にわたって50項目以上の評価基準が並んでいます。成果目標、能力評価、行動評価、コンピテンシー、多面評価——あらゆる要素が詰め込まれた「全部入り」の評価シートでした。

「これ、いつ作ったものですか」と聞くと、「10年前にコンサルタントに作ってもらいました」との回答。当時の社員数は120名。現在は80名に減っています。事業内容も変化しています。しかし、制度だけが10年前のまま残っている。

私はこういう状況を頻繁に目にします。人事制度は「つくる」ことに注力されがちですが、「手入れする」「削る」「スリム化する」という視点が抜け落ちていることが多いのです。

北海道の中小企業では、限られた人事リソースで制度を運用しなければなりません。人事担当者が1名、あるいは兼任という企業も少なくない。そんな中で、大企業向けに設計された複雑な制度を運用し続けることは、現実的ではありません。

この記事では、人事制度の「スリム化」をどう進めるか——制度を「捨てる・縮める・まとめる」という3つの視点から解説します。


なぜ人事制度は肥大化するのか

人事制度が複雑になっていく背景には、いくつかの構造的な要因があります。

要因1:「足し算」の発想が染みついている

新しい課題が発生するたびに、新しい制度やルールを追加する。ハラスメントが問題になればハラスメント規程を追加し、テレワークが始まればテレワーク規程を追加し、副業の希望があれば副業規程を追加する。しかし、既存の制度を「減らす」議論はほとんど行われません。結果として、制度は年々積み重なっていきます。

要因2:「もったいない」心理が働く

過去にコンサルタントに依頼して作った制度、前任者が苦労して構築した仕組み——これらを「やめる」ことには心理的な抵抗があります。「せっかく作ったのだから」「いつか使うかもしれない」という気持ちが、不要な制度を温存させます。

要因3:目的が曖昧になっている

制度の導入時には明確な目的があったはずです。しかし、時間が経つにつれて「なぜこの制度があるのか」が忘れ去られ、「昔からあるから」という理由だけで存続している制度が増えていきます。

要因4:「複雑=高品質」という誤解

評価項目が多いほど精緻な評価ができる、等級が細かいほど適正な処遇ができる——こうした思い込みがあります。しかし実際には、複雑な制度は運用の質を下げます。評価者は項目が多すぎると「適当に点数をつける」ようになり、制度の形骸化を招きます。

要因5:法改正への対応が積み重なる

法律や制度の改正があるたびに、社内規程や制度を追加・修正します。これ自体は必要なことですが、改正前の古い規程が残ったまま新しい規程が追加されるケースがあり、制度が二重・三重になっていることがあります。


「スリム化」の3つの視点——捨てる・縮める・まとめる

人事制度のスリム化は、以下の3つの視点で進めます。

視点1:捨てる——使われていない制度を廃止する

まず、「実質的に機能していない制度」を洗い出し、廃止を検討します。

確認するポイントは以下の通りです。

  • 過去2年間で一度も利用されていない制度(例:社内公募制度があるが、公募が一度も実施されていない)
  • 形骸化している運用(例:目標管理シートを提出させているが、フィードバックが行われていない)
  • 重複している制度(例:「能力評価」と「コンピテンシー評価」が実質的に同じ内容を評価している)
  • 社員が存在を知らない制度(例:社内規程に「自己申告制度」があるが、誰も申告したことがない)

旭川の食品メーカーでは、人事制度の棚卸しを行った結果、12の制度のうち4つが「過去3年間で一度も運用されていない」ことが判明しました。社内FA制度、メンター制度、多面評価制度、キャリアカウンセリング制度の4つです。いずれも導入時には意気込んで始めたものの、日常業務の忙しさの中で自然消滅していました。これらを正式に廃止し、就業規則から削除したことで、規程のページ数が約3割減少しました。

視点2:縮める——過剰な制度をシンプルにする

制度自体は必要だが、内容が過剰になっているものをシンプルにします。

評価制度の縮小例

  • 評価項目を50項目から15項目に削減。「重複している項目」「判断が主観的すぎる項目」「結果に影響しない項目」を削除
  • 評価の段階を5段階から3段階に変更。5段階の中央値(3)に評価が集中する「中心化傾向」を防ぐ効果もある
  • 評価シートをA4用紙1枚に収まるように再設計。「書くのが面倒」という現場の不満を解消

等級制度の縮小例

  • 等級数を10段階から5段階に圧縮。等級間の違いが曖昧だった「隣接する等級」を統合
  • 各等級の定義を「A4用紙半分」に収める。長文の等級定義は誰も読まない

研修制度の縮小例

  • 年間の研修プログラム数を20から8に削減。「参加率が低い研修」「効果測定ができていない研修」を廃止
  • 1回の研修時間を「丸1日」から「半日」に短縮。現場の業務への影響を最小化

帯広の建設会社では、評価制度を「成果3項目+行動3項目」の合計6項目に絞り込みました。以前は30項目以上ありましたが、「本当にこの会社で成果を上げるために重要なことは何か」を議論した結果、6項目に集約できました。評価にかかる時間は1人あたり平均2時間から30分に短縮。しかも、評価の質は向上しました。項目が少ないため、1つ1つの項目に対して丁寧なフィードバックができるようになったのです。

視点3:まとめる——分散している制度を統合する

複数の制度に分かれているが、本来は一体で運用すべきものを統合します。

統合の例

  • 「目標管理制度」と「評価制度」と「面談制度」を一体化。目標設定→中間面談→評価→フィードバック面談を、1つのサイクルとして設計
  • 「採用計画」と「人員計画」と「教育計画」を「人材戦略計画」として一元化。別々に管理していたものを1つの文書にまとめる
  • 「就業規則」の別規程(テレワーク規程、副業規程、育児・介護規程)を本則に統合。参照すべき文書を減らす

函館の水産加工会社では、「採用に関する規程」が4つの文書に分散していました。採用規程、中途採用実施要領、インターンシップ実施要領、紹介報酬規程の4つです。これを「採用管理規程」1つに統合し、中途採用、インターンシップ、紹介報酬の内容を章立てで整理しました。人事担当者は「探す手間が減った」「全体像が把握しやすくなった」と話しています。


スリム化の進め方——5つのステップ

ステップ1:現状の棚卸し

まず、自社の人事制度を一覧にします。制度名、導入時期、最終更新日、運用頻度、担当者を記録します。この作業だけで、「こんな制度があったのか」という発見があるはずです。

棚卸しのフォーマット例を示します。

制度名 / 導入時期 / 最終更新日 / 年間運用回数 / 運用にかかる時間 / 担当者 / 備考

この一覧を作成するだけでも、制度の「見える化」が進みます。

ステップ2:各制度の「目的」を再確認する

一覧にした各制度について、「この制度の目的は何か」を明文化します。目的が明確に言語化できない制度は、廃止候補です。

確認する質問は以下の通りです。

  • この制度がなかったら、何が困るか
  • この制度は、誰のためにあるか
  • この制度は、事業の成長にどう貢献しているか
  • この制度の目的は、他の制度で代替できないか

苫小牧の化学メーカーでは、人事担当者が各制度の目的を書き出したところ、「明確に言語化できたもの」が12制度中7つ、「曖昧だったもの」が3つ、「目的がわからなかったもの」が2つでした。目的がわからなかった2つの制度(社内報告会制度、表彰制度の一部)は、関係者にヒアリングした結果、いずれも「前任者が始めたもので、現在は形式的に続けているだけ」と判明。これらを廃止しました。

ステップ3:「捨てる・縮める・まとめる」の仕分け

各制度を以下の4つに分類します。

  • A:現状維持(目的が明確で、適切に運用されている)
  • B:縮小(目的は明確だが、内容が過剰)
  • C:統合(他の制度と重複している、または一体で運用すべき)
  • D:廃止(目的が不明、または機能していない)

この仕分けは、人事担当者だけで行わず、経営者や現場の管理職も交えて議論することをお勧めします。人事部門だけでは「自分たちが作った制度を廃止する」ことへの抵抗が大きくなりがちです。

ステップ4:優先順位をつけて実行する

すべての制度を一度にスリム化しようとすると、混乱が生じます。優先順位をつけて段階的に進めます。

優先順位のつけ方の目安は以下の通りです。

  • 最優先:運用負荷が大きく、効果が薄い制度(評価制度の簡素化、不要な報告書の廃止など)
  • 次に着手:形骸化している制度の廃止(誰も使っていない制度を正式に廃止する)
  • その後:制度の統合(複数の制度を1つにまとめる作業は、設計に時間がかかる)

北見の小売業では、まず「評価シートの項目削減」から着手しました。最も現場の不満が大きかった部分です。項目を半分以下に削減した結果、評価期間中の管理職の残業が月平均8時間減少。この成果が、次のスリム化への推進力になりました。

ステップ5:定期的な見直しの仕組み化

スリム化は一度で終わりではありません。制度は放置すると再び肥大化する傾向があります。年に1回、制度の棚卸しを行い、不要なものを整理する仕組みを設けましょう。

具体的には、毎年度末に以下の問いを立てます。

  • 今年度、運用されなかった制度はあるか
  • 現場から「面倒」「意味がわからない」と言われている制度はあるか
  • 新たに追加した制度は、既存の制度と重複していないか
  • 各制度の運用にかかる総時間は、前年と比べて増えていないか

スリム化で陥りやすい落とし穴

落とし穴1:「法的に必要な制度」と「自社独自の制度」を混同する

就業規則の法定記載事項、労基法で義務づけられた制度など、法的に廃止できないものがあります。スリム化の対象は、あくまで「法定外の自社独自の制度」です。法的要件については、社労士に確認した上で進めてください。

落とし穴2:「一気にやりすぎる」

制度の大幅な変更は、社員に不安を与えます。「評価制度が変わった」「等級が減った」「研修がなくなった」——こうした変化が一度に起きると、「会社の方針が変わったのか」「リストラの前触れか」といった疑心暗鬼を招くことがあります。段階的に、丁寧な説明を伴って進めることが重要です。

落とし穴3:「スリム化」が「手抜き」と受け取られる

制度を簡素化することが、「人事が楽をしようとしている」と受け取られるリスクがあります。これを防ぐためには、スリム化の「目的」を明確に伝えることが重要です。「運用の質を上げるために、制度を絞り込む」「現場の負担を減らすことで、本来の業務に集中してもらう」——目的を説明すれば、スリム化は「前向きな取り組み」として理解されます。

落とし穴4:現場の声を聞かずに進める

人事部門だけで「この制度は不要」と判断するのは危険です。人事から見て形骸化している制度が、実は現場では「ないと困る」と思われていることもあります。逆に、人事が大切にしている制度が、現場では「面倒なだけ」と思われていることもある。必ず現場の管理職や社員にヒアリングを行ってから判断しましょう。

落とし穴5:「元に戻せない」変更をいきなり行う

制度の廃止は、元に戻すのが難しい変更です。「試しに1年間休止する」というステップを挟むのも有効です。1年間休止して問題がなければ正式に廃止する。問題が出れば復活させる。このアプローチなら、リスクを最小限に抑えられます。


北海道の中小企業ならではのスリム化の視点

視点1:人事担当者の「稼働時間」から逆算する

北海道の中小企業では、人事専任者がいないケースが多い。総務と兼任、経理と兼任、あるいは経営者自身が人事を担っている。こうした状況では、人事制度の運用に使える時間は限られています。

人事担当者が月に人事制度の運用に使える時間を試算し、その時間内で回る制度にスリム化する。これが最も現実的なアプローチです。

例えば、人事に使える時間が月40時間なら、評価制度に20時間、採用に15時間、その他に5時間。この配分で回らない制度は、縮小か廃止が必要です。

視点2:季節変動を考慮した運用設計

北海道の企業、特に農業関連、建設業、観光業では、繁忙期と閑散期の差が大きい。繁忙期に人事制度の運用が集中するのは避けるべきです。

評価のタイミング、面談のスケジュール、研修の実施時期を、業種の季節性に合わせて設計します。建設業なら冬場に評価・面談・研修を集中させる。観光業なら、閑散期に当たる春や秋に制度運用の時期を設定する。

視点3:拠点間の制度統一を検討する

北海道は広大なため、複数の拠点を持つ企業が少なくありません。拠点ごとに異なる運用がされている場合、制度を統一することでスリム化できます。ただし、拠点ごとの事情(地域の労働市場、業務内容の違い)を無視した一律の統一は、逆効果になることもあります。統一すべき部分と、拠点ごとに柔軟に対応する部分を区別することが重要です。


スリム化した後に大切なこと

制度をスリム化した後、最も重要なのは「運用の質を上げること」です。制度が減った分、残った制度を丁寧に運用する。評価項目が6つに減ったなら、その6つについて深いフィードバックを行う。面談の回数が減ったなら、1回の面談の質を上げる。

スリム化は、目的ではなく手段です。制度を減らすことで浮いたリソースを、本来注力すべきこと——社員との対話、経営との議論、組織課題の分析——に振り向ける。これがスリム化の本当の意味です。

人事制度は「あればあるほど良い」ものではありません。自社の規模、リソース、事業特性に合った「ちょうど良い制度」を追求する。その姿勢が、北海道の中小企業の人事を強くすると、私は考えています。

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